(14)女王。
0thを発動させたチィサちゃんは、2人より更に大きな変化を見せる。
まずは子供から大人へと伸びる背丈。種族的には多分獣人だとは思うけど、装備のせいで断言しづらい。なんだってその装備って言うのが着ぐるみなのだ。それもネコの。フードになっている頭部分を被っていないから金色の長い髪が見えるけど、その上には紛うことなきケモ耳が。あの耳が本物か偽物かは僕には見分けがつかない。もし偽物なら身長からしてエルフかも知れない。
[エルフと獣人(キツネ)のハーフ]
「って、キツネなの?!」
[あと着ぐるみはライオン(♀)]
いや、まあ合ってないことはないけどさ。てか、なんでエルフと獣人のハーフにしたんだろ?
「おいで、私のぬいぐるみ達」
どこからともなく数多くのぬいぐるみを取り出し、ばらまくチィサちゃんもといチサチサ。その数は一瞬では到底数えきれない。
「お行きなさい、1万アーミー!!」
その声に従いばらまかれたぬいぐるみ達が起きあがり敵へと襲いかかる。その姿はチープなホラー映画のようであり、それを指揮するチサチサはまさに『ぬいぐるみの女王』に相応しいとおもった。
「あ~はっはっはっは」
戦場に響くチサチサの高笑いに連動するようにぬいぐるみ達が舞う。
だらけたクマが首を撥ね、時計を持ったウサギはどこからともなく重機を取り出して敵を殴る。梨?のような妙な奴は口から超高圧と思しき水流をはき、夢の国にいそうなネズミは二丁拳銃でヒャッハーしている。
僕はその状況に圧倒されつつも、つっこみたい衝動をなんとか耐えソルトちゃんに確認する。
「えっと……、アレ大丈夫なの? 主に著作権的に」
[大丈夫。録画時は当たり障りのない物に変換されて録画される]
[メディアに流れることはない]
「そ、そうなんだ」
それで本当に大丈夫かどうかは甚だ疑問だけれども。
「でも、アレってどうなってるの? 召喚獣とか?」
ふるふると首を振るソルトちゃん。
[人形系の武器を一度に複数操るスキル]
[関連スキルのレベル合計で扱える数が決まる]
「人形系?」
あっ、兜を被ったネコが抜刀術を披露している。
[武器だと【ぬいぐるみ】【操り人形】【魔動人形】【機工人形】の4つ]
「武器だとっていうことは他にもあるんだ?」
[それぞれの制作スキルと防具系の【着ぐるみ】とか]
「なるほどそれでチサチサは着ぐるみを着てるんだね」
こくり。ソルトちゃんが頷いた。
……気のせいかな。イヌが口から更に小さいぬいぐるみを大量に出しているように見えるんだけど。
そうこうしてる内にナイト達3人によるハーディ草原残滅作戦は完了の時を迎えた。
「ただいま」
「いま戻りました」
「ま、楽勝だな」
0thを解除して集まってくる3人に僕は労いの言葉をかける。
「お帰り。でも結構時間かかったね」
「まあ、数だけはいたし他のみんなの獲物取っちゃうのもな」
「あとボク達の戦い方が参考になるかもと思って」
「ありがと。気を使ってくれて。でも参考にはならないかな。多分」
「ですよねー」
3人して笑いあう。
ちなみに残りチィサちゃんは「うぅ~、やらかしちゃいました」とさっきから頭を抱えている。
どう対応すれば、と少し首をひねり考える。
多分コレでいいかなと、ヒュムリングを装備してからチィサちゃんの頭にポンと手を乗せた。
「はわ」
見上げたチィサちゃんの顔には驚きの表情が見えたけどすぐに綻んでいった。
「お恥ずかしいところをお見せしました。あの姿になると変なスイッチ入ってしまって」
……女王様うんぬんについては敢えて聞かない方針で、てか明らかに地雷っぽいし。
「ううん。すごいね。あのぬいぐるみ」
量も質も。店で売られていてもおかしくない出来だった。
まあ、その分そのぬいぐるみ達が殺戮を繰り広げている光景はかなりシュールだったけど。
「もしかして手作り?」
確か裁縫持っているって言ってたし。あり得なくはない。リアルでも結構器用だし。
「はい。【裁縫】の分化スキルで【ぬいぐるみ作成】ってのが有りましてそれを使って作りました」
分化スキルっていうのは生産スキルなどを、その中に含まれる特定ジャンルに特化させることでより高い効果を得たスキルのこと。
[【木工】系の【造船】や【鍛冶】系の【刀鍛冶】なんかがそう]
って、ソルトちゃん。たまに思考読んで来るよね!?
[脳波測定してるから]
そう言えば塩は脳波を測定してアバターを動かしてるんだっけ。
「えっと、つまりソルトちゃんにはうそをつけないって事?」
[オフコース]
いや、サムズアップはいらないから。
ちなみに分化スキルとは逆に統合スキルなんてのもある。これは複数のスキルを1つで賄える替わりにその効果が薄くなっている。さっきナイトがスキル枠以上の種類の武器を使っていたけど、多分そのいくつかは統合スキルを利用してるんだと思う。
「と、そろそろ再POPするぞ。そんな装備で大丈夫か?」
「いや、今さら装備うんぬんを言われてもどうしようもないよね?」
「お兄ちゃん、違うよ。そこは『大丈夫だ。問題ない』だよ」
「はあ」
って、ヒュムリング外しとかないと。
「「「[あっ、そっちで行くんだ]」」」
まるでソルトちゃんが出したカンペを読んだかのように声を合わせた3人に僕は「当然」と返したのだった。
種族の訳は未定です(ぉぃ




