(10)否定。
いつの間にか復活したチィサちゃんが詰め寄られ、とっさにソルトちゃんの方に視線を向ける。明らかに困ったという表情をしている。
「えっと、ソルトちゃんにお薦めされたから?」
「「「ソルトちゃん!?」」」
そう言いつつ3人もソルトちゃんの方に視線を向けた。なんか3人の雰囲気が怖い。3人に詰め寄られて逃げようとしないソルトちゃんえらい。純粋にそう思った。
「ソルトちゃん、なんで妖精なんて薦めたの?」
[手数重視、速度重視で選んだ]
「確かに妖精は随一の早さを誇るけど、格闘するなら妖精の選択肢はないだろ」
[格闘したいとは聞かなかった]
「なる。じゃあ、トルテ。おまえはどう言ってお薦めして貰ったんだ?」
そう言われて少し記憶を追ってみる。
「確か、質より量の手数、スピード重視、蝶のように舞いみたいなことしたい、だったかな」
「……確かに格闘したいとは言ってないわな」
「でも、普通『蝶のように舞い』って言えば分かるよね?」
「あの、逆にその『蝶のように舞い』が決め手になったんじゃないでしょうか?」
「「あぁ、なるほどね」」
チィサちゃんの予想を聞いて、ナイトとアルスは何やら合点が行ったしたらしい。
「……たぶんですけど性別もお薦めで決めましたよね?」
「うん、そうだけど……」
「それで、容姿のデフォルトって蝶の翅じゃありませんでした?」
「確かにそうだよ。流石に女の子ぽ過ぎたからトンボ翅に変えて貰ったけど」
僕の答えを聞き、大きくため息をつく3人と、何か思いつき手打ったかと思えば申し訳なさそうな顔をするソルトちゃん。
えっと、どうしたの?
[その時に気づいてたらよかった]
「いえいえ、ソルトちゃんは悪くありません」
「そうだ。それに気づかなかったのはトルテも同罪だ」
「総合してお兄ちゃんが一番悪い」
いや、それ酷くない? 酷いよね?
「えっと、分かっていらっしゃらないようなので、ソルトちゃんが説明して上げてもらえますか?」
こくり。ソルトちゃんが頷いてスケッチブックをぺろりとめくった。
[妖精の翅はデフォルトだと男がトンボで女が蝶になる]
[で、『蝶のように』って言われたから]
「蝶の翅になる妖精の女の子にしたって事?」
こくり。ソルトちゃんが肯定の意を示す。
「というか、それ以外で性別変える意味はないしな」
えっ、なんか聞き逃したらいけないフレーズが聞こえたんだけど?
「ちょっと待って、性別ってステータスに影響ないの?」
「ありませんよ?」
「マジか……」
「一応言うけど、キャラメイクからやり直した方がいいと思うぞ?」
「いや、せっかく作ったんだしもったいない気が……」
「まあ、そう言うと思ったけどさ」
さすが幼なじみ、分かっている。あと、勘違いであったとしても折角ソルトちゃんが選んでくれたんだからってのもあるし。
「で、妖精と分かったところでぼ、俺様のスキルはどうなんんだ」
「まず【手技】【脚技】はさっき言った理由でアウト」
「妖精で接近戦と考えると防御は欲しいから【軽装】も微妙だよね。【魔撃】も接近戦専用なところあるし。遠距離で使うなら【銃】か【弓】?」
「だな」
「【SPD強化・微】は悪くありませんが、どちらかと言うと【POW強化・微】とか【VIT強化・微】の方がよかったと思います」
[【採手】も接近戦でしか意味ない]
おう。つまり【調合】以外はダメって事か。って、あれ?
「【採手】って接近とか関係ないよね」
「あっ、それ。私も気になったんですけど。【採手】ってなんですか?」
「えっ? アイテム採取の効率を上げるスキルだよね? 結構便利そうだからみんな取ってると思ったんだけど」
「はあぁ」
僕がそう言ったところでアルスが大きくため息をついた。
「……ほんと、お兄ちゃんって、変なところで抜けてるよね」
「へっ?」
えっと、もしかして僕、何かやらかした?
いろいろやっちゃってた事が判明してますが、トルテはアバターを替える気はありません。
何故かって?
意地っ張りだから。




