(1)誕生日。
テンプレかも知れないVRMMO物です。
一応、これ入れて17話分の書き溜めがあり毎日6時に予約投稿の予定です。
誤字とかあるかも知れませんが、遠慮なく指摘してくれるとありがたいです。
(2016/05/08)とある思い付きにより主人公の苗字を変更
春うらら、そんな表現が似合う今日という日。
高校からの帰り道にある喫茶店でささやかなパーティが開かれていた。
主催は僕の妹である亞李子と幼なじみで腐れ縁な内藤騎士とその妹、智沙ちゃん。
主賓は僕、天宮健弥でパーティの目的は誕生日会。
そう、今日は僕の誕生日だったりする。
誕生日だからって特にプレゼントもなく、僕の分の飲み物とケーキ代がプレゼント代わりらしい。お互い学生だから小遣い事情もだいだい知っているけど少し寂しい感じもする。この4人が揃ったのも久しぶりだし、こうやって疎遠になっていくのかな。
って、折角の誕生日なのにネガティブになるのは良くない。皆がわざわざ集まったんだから楽しまないと。
コーヒーでのどを潤し、ケーキを口に運ぶ。
うん。おいしい。
やっぱりケーキと言えばザッハトルテだね。チョコケーキの甘さがホイップクリームで押さえられて程良い甘さになっているし、コーヒーの苦みともマッチしている。
……お代わりしちゃおうかな。どうせ奢りだしあと2個ぐらい大丈夫だよね。
「それなら山はどうだ?」
「私は海かな」
「まずは町を散策と言うのもいいですよ?」
おっと、僕がザッハトルテに舌包みを打っている内に3人だけで話が進んでいたみたいだ。
「えっと、ごめん何の話?」
「もしお兄ちゃんを連れていくならどこかって話。お兄ちゃんはどこか行きたい所ある?」
「んー、どちらにしろ僕は遠出できないからなぁ」
ぶっちゃけ僕は体が弱い。小学校の頃に煩ったとある病気のせいで激しい運動ができない身体になってしまった。
日常の学校の行き帰りぐらいなら問題ないけど、遠出には医師の許可が必要だし、体育の授業なんかも半分くらい見学だ。
「ま、そこをどうにか出来たらって話だよ。で、どこ行きたい?」
ナイトはそう聞いてくるがとっさには思いつかないな。
でも……
「もし僕が病弱じゃなかったらって話なら、思いっきり身体を動かしたい。てか、動かせれるならどこでもいい!」
「くすっ。健也さんらしいです」
思わず声を張り上げてしまい、智沙ちゃんに笑われてしまった。
うぅ。ちょっとはずかしい。
と言うことで話題転換を謀ってみる。
「そ、そう言えばアリス達のβテストで参加していたゲームって、もうすぐ発売だよね?」
そのゲームのβテストには僕を含めた4人で応募したんだけども、見事に僕だけが落選。言い出しっぺが外れると言うフラグを見事に回収して見せた。
最初は僕に気を使っていた3人だけど、気にせずプレイする事を進めたら、見事に3人ともハマった。そんな経緯もあり、3人の中では僕の前でのその話題はダブーとなっているっぽい。気にしなくてもいいのにと思うけど、どうしても気が咎めるみたいだ。
正式版からの参入も考えては見たけど、お年玉2年分になるVRギアに加えてソフト自体の購入も必要な点は高校生である僕が諦めるには充分な理由だ。だから僕からもわざわざ聞いたりしない。別に悔しいとかそんなことないし、もう諦めたから。うん、諦めた。だから3人にわざわざ聞く必要もない。調べようと思えばいくらでも調べられるし……。
ならなぜ僕は今になってそのゲームの事を話題に出したのか。それは僕にだって分からない。あとになって思うに、所謂ひとつの虫の報せと言う奴だったのかも知れない。そして「虫の報せ」が「良い事が起こる予感」と言う意味を持たないことを知ったのは更に後の話。
ちなみにそのゲームの正式名称はSimulation of Infinitely Onlineで、通称は|
塩《SIO》。ちまたでは塩にドハマりしている連中を『塩まみれ』なんて言ってたりする。で、この3人もそんな塩まみれな人種だ。
「お兄ちゃん、その情報古いよね?」
うん。知ってる。でも、僕は塩になんか興味ないし知ってたらおかしいよね。
って、あれ? いつもならスルー案件だよね。乗ってくんの?
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。つか健也なら知っていると思っていたが、4月の頭に発売済みでファーストロットはもう品切れだぞ?」
そう言ってナイトがジト目で見てくる。
ってかナイト、おまえもか。
「なんでそう思ったか知らないけど、そんな事ないよ」
「などと意味不明なことを犯人は供述しており……」
「別に意地張らなくてもいいのに」
「まあでも、そこが健也さんらしいじゃないでしょうか」
ナイトのボケにアリスのつっこみ、そして智沙ちゃんの参入。
いや、マジで予想外なんだけど。
「だな。それにもうすぐ剥がれそうだしな」
「そだね」
と、ナイトとアリスはなぜか企み顔でにやにやしているし。
「では、そろそろぼろが出そうですし、時間的にも良いぐらいなのでお開きにしましょうか」
時間はまだありそうな気はするけど、うん。確かにぼろを出してしまいそうだ。
ここは智沙ちゃんのフォローに乗っちゃおう。
「じゃあ今日は僕のためにわざわざ集まってくれてありがとね」
「どういたしまして」
「まあ、気にすんなし」
「うんうん」
既に会計を済ませ、いまは喫茶店の外にでた僕たちは自宅への帰路へつくのだった。