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犬転生 〜わんダフル異世界冒険記〜  作者: 鍋豚
第1章 転生編
9/48

第8わん 得意な芸? もちろん『チンチン』です!


「お手!」

「わん!」

「お座り!」

「わおん!」

「すごーい! ヌーちゃん、頭いい〜!」


 まぁ元人間だしな。こんな簡単な芸、朝飯前だ。

 いやしかし、美少女に命令されるのもなかなか悪いものではない。なんていうかこう、新しい扉が開きそうになるな。


「ほらおいで〜ヌーちゃーん」

「わうん!」


 ジェイミーは俺を抱きかかえ、わしわしと頭を撫でる。あぁ〜撫でられるのキモチイイ〜。

 しかもジェイミーはかなりの巨乳なので、抱かれるたびに全身が柔らかいものに包まれて超シアワセだ。それに抱くだけで俺の身体がすっぽりと谷間に収まるので、ものすごい安定感がある。

 あぁ〜ジェイミーの髪から香るローズの香り、良い匂い〜。


「ジェイミーを助けたことといい、ヌーは頭の良い犬だな」


 俺とジェイミーが戯れていると、鎧から私服に着替えたケリーが戻ってきた。

 長袖の白いシャツに茶色の短パン、そして黒のレギンスというシンプルな格好だが、スラっとしたモデル体型のケリーに良く似合っている。

 異世界の服装は、もちろん素材とかは違うだろうが、俺の前世の世界のものと非常に似ていた。


「ほらヌーちゃん、お姉ちゃんですよ〜」

「くぅん」


 ジェイミーからケリーに手渡される俺。ケリーからはシトラスの爽やかな匂いがする。

 しかし俺を抱いたケリーは、どうしていいのか分からないのか、困ったような顔をした。


「むぅ……」

「ほらお姉ちゃん! 撫でてみて!」

「こ、こうか?」


 ぎこちなく俺の額を撫でるケリー。

 ジェイミーと比べてケリーの胸はかなり控え目なので、ジェイミーのような安定感がなく、下に落っこちてしまいそうで怖い。姉妹なのにどうしてこうも差があるのか……。無情なり……。


「こ、この犬、今私を哀れむような目で見たぞ!?」

「わん!?」

「え〜そんなことないよねー? ヌーちゃん?」

「わ、わん!」


 ケリーに突き返され、俺は再びジェイミーの胸の中に戻る。あぁ〜柔らかい〜やっぱりここが落ち着くな〜。

 しかし思わず顔が緩んだのか、


「私が抱いた時と全然表情が違う! 失礼な犬だ!」


 ケリーが眉間にシワを寄せて睨んできた。こわっ!

 ケリー、クールでカッコいいけど、たまに怖いんだよな〜。


「そんなことよりお姉ちゃん!」

「そんなこと!?」

「見てて! ヌーちゃん芸が出来るんだよ!」


 怒るケリーをよそに、ジェイミーは俺を床に降ろす。

 ケリーは何かぶつくさ言っていたが、その様子を興味深そうに見ていた。


「いくよ〜」


 ジェイミーは床に降りた俺に、そっと手を差し出す。


「お手!」

「わん!」


 すかさずジェイミーの手にタッチ。

 ああ〜ジェイミーの手、柔らかい〜。


「お座り!」

「わん!」


 可愛いお尻をちょこん、と床につける。

 お座りすると、俺を見下ろすジェイミーの可愛い顔が良く見えた。


「伏せ!」

「わん!」


 今度は身体を上体を下げ、地面に突っ伏す。

 お? おお!? この角度! ジェイミーのパンツ見えそう!

 ……いや違う、ジェイミーはまだ、帰ってきてから着替えていない。布を身体に巻いただけの格好だ。そして俺は先ほど、ジェイミーの服を下着まで破り裂いた。つまり、この布の下は……。


「おいジェイミー、この犬、いやらしい顔をしているぞ」

「ええ〜? そんなことないよ〜」


 くそっ! 陰になってて良く見えない!

 でもすげぇ! 犬の視点だと、人間のパンツ見放題じゃねぇか! どうして今まで気が付かんかったんだ!

 いやー、初めは犬に転生したことを恨んだが、意外と悪くないかもな〜! こんな可愛い姉妹に可愛がってもらえるし、犬サイコー! いつか、一緒に風呂にでも……ぐふふ……。


「お姉ちゃんもやってみれば?」

「いや……私はいい」

「もう〜照れちゃって! ほんとはやりたいくせに〜」

「そ、そんなことはない!」

「お姉ちゃん、私より可愛いもの好きだもんね〜」

「だ、誰が! か、可愛いものなど好きなものか!」


 ジェイミーにおちょくられて、ケリーの顔が真っ赤に染まった。

 そんなケリーは俺と視線が合うと、ぷいっと顔を背ける。なんだその反応……ちょっと可愛いじゃねぇか……。


「そ、それより、早くギルドに行くぞ! ほら、早く服を着ろ」

「あ、その前にお風呂入ってきてもいいかな?」

「ああ、そうか。この犬の唾液がべっとり付いてるもんな。行って来たほうがいい」


 ドラゴンの胃液を舐めとるため、俺がジェイミーの身体をペロペロしたので、ジェイミーの身体は俺の唾液まみれなのだ。

 風呂に入るために今まで着替えていなかったのか。


「うん……行ってくるね……」


 ジェイミーは何かを思い出したように頬を染めながら、そそくさと風呂のほうへ向かって行った。

 そして部屋に残された俺とケリー。


「……」


 な、なんだこの気まずい沈黙は……。

 ケリーはお座りをする俺をチラチラ見ている。なんだ、なんで恥ずかしそうにしているんだ?

 頬を染め、もじもじと何かを言いたそうにしているケリー。意味が分からず彼女を見つめていたが、風呂場のほうからシャワーの音が聞こえ始めたとき、


「お、お、お手!」


 顔を真っ赤にして、ケリーは小さく呟いた。

 え……?

 差し出された手。

 突然のその言葉とその行動が理解出来ず、ぽかーんとしていると、


「な、なんだその顔は! お手!」

「わ、わん!」


 今度は力強い口調と共に、手が出された。

 ようやく理解が追いついた俺は、慌てて差し出されたケリーの手を触れる。


「ふふっ……」


 俺の肉球とケリーの手の平が触れると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 な、な、なんだこれー!? めっちゃ可愛い!

 普段クールなケリーが、こんな表情をするとは……これがギャップ萌えというやつか! ジェイミーが言っていた『ケリーは可愛いものが大好き』というのは、本当のようだ。

 気を良くしたのか、ケリーはさらに続ける。


「お、お座り!」

「わん!」


 既に俺はお座りをしている状態だったが、一度立ち上がり、もう一回座った。

 その意味のない行動すらも、ケリーは嬉しそうに見つめている。その表情は先ほどまでのクールなものではなく、子どものようにキラキラとしたものだった。

 笑顔がジェイミーと良く似ている。


「か、かわいい……」


 小さく呟くケリー。

 うおお! ケリーのほうがかわいいよぉぉぉ!


「伏せ!」

「わおん!」

「えらいえらい」


 床に突っ伏した俺の額を、ケリーはゆっくりと撫でた。ぎこちない手付きだが、優しさを感じる。

 ケリー、本当はこうして俺と戯れたかったんだな。だけどジェイミーの手前、お姉ちゃんらしくクールに振る舞っていたのだろう。


「ふぅ……」


 一通り満足したのか、ケリーは小さくため息をついた。

 いやしかし、ケリーにこんな一面があるとは。良いものを見られた。


「ジェイミーのやつ、長風呂だからまだ戻って来ないだろう……」


 自分に言い聞かせるように、ブツブツ呟くケリー。そしてシャワーの音がまだ聞こえることを確認し、息をすぅっとゆっくり吸い込む。

 あれ、まだ何かやるつもりなのかな?

 その顔は先ほどよりも真っ赤になっていて、爆発してしまうのではないかと思うくらいだ。なんだ? 何を言うつもりなんだ? まるで告白する少女のような表情に、俺も思わずドキドキしてしまう。

 そして、意を決したように口を開き、



「ち、ちんちん!」



 恥ずかしそうに、しかしハッキリ発した言葉に、今度こそ俺の思考は止まった。

 ……信じられない単語がケリーの口から聞こえた。聞き間違い……だよな?

 石のように固まる俺に、ケリーはもう一度、今度はもっと大きな声で命令する。


「ちんちん!」


 聞き間違いじゃない。信じられないが、間違いなくケリーの口から『ちんちん』と聞こえた。

 もちろんそれが卑猥な意味でなく、犬の芸としての意味だと理解出来ている。だけど、まさか、ケリーの口からそんな言葉が発せらるとは。

 でも、そんなことしていいのか? これから俺が行うべき動作――つまり前足を上げて、俺のポチをケリーに見せつけることは、俺が人間であれば限りなくアウトな行為だ。先ほどジェイミーにされたように、開脚させられて見られるのとはワケが違う。俺が、自分の意思で、ポチを晒さないといけないのだ。

 大人びているとはいえ、ケリーはまだ十代の少女だろう。こんないたいけな少女に、そんな変態的行為をしてもいいのだろうか。期待に輝くケリーの視線が痛い。


 ――いや、今の俺は犬だ。ケリーとジェイミーのペットだ。犬は、ペットは、飼い主の命令に従うまで。何もやましいことはない。


「わん……」


 覚悟を決める。そうだ。俺は犬。犬がポチを見せつけても、何も問題はないのだ。

 俺は後ろ足に力を込め、二本足で立つ準備をする。

 いくぞ……ケリー。見よ、これが俺のポチ――


「あれー、お姉ちゃん何やってるのー?」


 まさに今、俺が前足を上げようとしたそのとき、ジェイミーの声が部屋に響いた。


「わおおおん!?」

「ジェ、ジェイミー!?」


 突然のジェイミーの声に、俺とケリーは飛び上がる。

 そこには、バスタオルを身体に巻き、水を滴らせるジェイミーの姿が。いつの間にかシャワー音は止まっていた。


「お姉ちゃん? どうしたの? 顔真っ赤だけど?」

「いいいいいいや! ななななん、なんでもないぞ!」

「?」


 ケリーは尋常じゃないほど動揺している。

 顔は真っ赤で、汗は吹き出し、目がぐるぐる回っていた。


「そそそ、それよりどうした!? 早いじゃないか!」

「え? さっと身体流しただけだからね。どうせ夜また入るし。それよりお姉ちゃん、本当に大丈夫?」

「わわわわ私は平気だ! 早くギルドへ行くぞ! 私は先に外で待ってるから、準備できたら来てくれ!」


 そう言ってケリーは、風のように玄関へ走っていく。その際に机やら椅子やらにぶつかりまくったが、それでも止まることなく一目散に玄関へ向かって行った。


「ヌーちゃん? お姉ちゃんどうしたんだろう?」

「くぅん?」


 不思議がるジェイミーに、ケリーの名誉のため、俺はとぼけたように首を傾げる。

 ……それにしても、いいものを聞けたなぁ。

 あのケリーの声は、脳内に一生保存しておこう。



ついに書き溜めがなくなりました……。

次回更新は2、3日後になります。すみません……。

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