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犬転生 〜わんダフル異世界冒険記〜  作者: 鍋豚
第1章 転生編
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第7わん ポチは嫌だ!


 ふぅ……ようやく街に戻ってきたぞ。

 誘拐されたりドラゴンに襲われたり、一時はどうなることかと思ったが、無事ジェイミーとケリーのペットになれた。よかったよかった。 

 俺は姉妹に連れられ、二人が宿泊している宿へ。ジェイミーの着替えのためだ。


「うわーん! 恥ずかしくて死にそうだったよぅー!」


 宿に到着するやいなや、ベッドにダイブして足をバタバタするジェイミー。

 布一枚のジェイミーは、その美貌も合わさって、道を歩くだけで注目の的だった。

 しかし剣を片手に鬼のような表情で歩くケリーが横に居たため、みんなすぐに目を逸らしているようだった。ケリーお姉ちゃん、怒らせると怖いなぁ……。気をつけよう。


「まぁ、そう気を落とすな。生きて帰ってこれただけマシだろう」

「うん……」


 真っ赤っかで涙目なジェイミーを、ケリーは優しくなだめる。

 他人に対しては冷たいケリーだが、ジェイミーに対してはまるで聖母のように優しい。

 ケリーが優しく頭を撫でると、ジェイミーは落ち着きを取り戻したようだ。


「さぁ、落ち着いたらギルドへ向かおう。任務の結果を伝えなければ」


 へぇ〜ギルドとかもあるんだ。

 街並みや宿の部屋は、元居た世界のRPGゲームによく出てくる中世ヨーロッパみたいな感じだ。そういえば、この宿に来る前に武器屋とか魔術用品店とかも見たっけ。

 改めて思うけど、ここって異世界なんだなぁ。犬になったり捨てられたりドラゴンと戦ったりで色々あったから、まだ全然実感ない……。

 せっかくの異世界なんだから、街の中だけでも見学してみたいなぁ。


「あ、その前に! わんちゃんの名前つけようよ!」


 再び外出の準備を始めるケリーを引き止め、ジェイミーは俺のことを抱きかかえた。

 おお、ついに来たぞ。この瞬間が。


「ああ、そうだったな。ふむ、名前か……」


 最初に拾ってくれたセリーナちゃんや、俺のことを拉致した男達は、俺にポチなんて名付けやがった。

 この二人は一体どんな名前を付けてくれるのだろう。期待と不安が入り交じる。


「なにか良い案でもあるのか?」

「うーん……」


 ジェイミーは眉間にシワを寄せ、唸り声を上げて考え出した。

 たのむ! しっかり考えてくれよ!


「決まった!」


 だから早いな!

 もっとじっくり考えなくて大丈夫!? ポチだけはやめてくれよ!?


「どんな名前だ?」

「この子の名前は――」


 ポチは嫌だポチは嫌だポチは嫌だポチは嫌だポチは嫌だ……


「ポチ!」


 ポチかよ!

 くそ! そんな予感してたんだよ!

 この世界の住人ネーミングセンスなさすぎだろ! それともこの世界の犬はみんなポチって名前なのか!?


「わんわんわん!」


 俺は抗議するために全力で吠える。


「あれ? 気に入らなかった?」

「そりゃあそんな『ザ・犬』みたいな名前、嫌だろうに……」 


 だよな!? そうだよな!?

 よかった。ケリーのネーミングセンスには期待できそうだ。


「むぅ〜じゃあお姉ちゃん考えてよぅ」


 ぷくぅ、と頬を膨らますジェイミーは、俺をケリーの腕の中に押し付ける。

 初めて俺に触れるケリーは、少し慌てたように受け取り、俺の顔を覗き込んだ。


「そうだな……」


 凛々しい瞳で俺を見るケリー。爽やかなシトラスの香りが心地良い。

 クールでカッコいい彼女なら、きっとカッコいい名前を付けてくれるだろう。

 期待を込め、ケリーの瞳をじっと見返す。


「……思いついた」

「なになに?」


 頼むぞ! ケリー!


「こいつの名は……」


 俺の名は……?


「めろんちゃん」


 ハァァァァァァ!?

 めろんちゃん!? ダッセェェェ! ケリーが一番センスねーよ!


「ばうばう!」

「む、気に入らんのか? 我が儘な犬だ」


 気に入るか!

 なんだよめろんちゃんって! 

 お前キャラ的にめろんちゃんとか言う奴じゃねぇだろ!?


「ダメだよ、お姉ちゃん!」


 そうだそうだ! 言ってやれ!

 ジェイミーは俺のことをケリーの腕から奪い返し、


「この子、男の子だよ!」


 足を開脚させ、股間をケリーに見せつける。ケリーのエメラルドグリーンの瞳に、俺の可愛いポチが映った。

 いやあああ! そんなとこ見ちゃらめえええ!!


「そんな女の子みたいな名前、ダメだよぅ!」

「そ、それもそうだな……」


 犬のとはいえ、股間を間近で見せつけられらたケリーは、恥ずかしそうに視線を逸らす。


「じゃ、じゃあ他に案があるのか?」

「そうだねー……ペスは?」

「ペニ!?」

「ペスだよ」

「ああ、ペスか。またザ・犬みたいな名前を……」

「そう言うお姉ちゃんはどうなの?」

「ううむ。……ぷりんちゃんはどうだろう?」

「また可愛い名前! 男の子だって!」

「じゃあプリンくんでどうだ」

「そう言うことじゃないよ!」

「難しいな……」

「あっ! パトラッシ――」

「その名前は色々とマズい」


 やばい。

 この姉妹、壊滅的にネーミングセンスない。

 もっとこう! いろいろあるだろう!? カッコいいやつがさ!

 例えば……そうだな『漆黒の翼(ダークネス・ウィング)』とかどう!? カッコ良くない!?

 あ、もしくは『永遠の闇(エターナル・ダーク)』とか! うん! それがいい! 俺が自分で名付けていいならそうするね!


「私たちの力じゃ良い名前思いつかないね……。誰か知り合いでわんちゃん飼ってる人いなかった? 参考にしようよ」

「そういえば、裏通りの魔術用品店の店主が犬飼っていただろう? あの犬の名前はなんだっけ?」

「確か……『†暗い夜の堕天使†』と書いて『ダークナイト・ルシファー』と読んでいたような……」


 うおお! それいいじゃん! カッコいい! この世界にもなかなかセンスのある人間はいるようだ。

 さぁ、それを参考にしてカッコいいの付けてくれ!


「『†暗い夜の堕天使†』……いや、それはないだろう」


 !?


「だよねぇ……」


 !?!?


「あまり……良い名前とは思えないな」

「魔術用品店の人には悪いけど……そうだねぇ」


 ハァァァ!?!?

 お前らが言うなァァァ!!!


「この線はなしでいこう」

「うん」


 なんでだよ! 超カッコいいのに! お前らにはこのセンスの良さが分からんのか!

 ……いや、待てよ。初めて二人の意見が一致した? ということは、世間一般的にはダサい認識なのか……?

 そういえば、元居た世界でオンラインゲームやってるとき、『鮮血の闇ブラッディ・ダーク』というキャラ名でプレイしてたけど、あれもダサいと思われていたのか……? ログインするたびに『鮮血の闇()さん、こんにちは』みたいな感じで名前の後ろに『()』を毎回付けられたのは、てっきり慕われてるもんだと思ってたけど、あれはバカにされてたのか!?


「もう一回考えよう」

「そうだね」


†暗い夜の堕天使†ダークナイト・ルシファー』……カッコいいと思うんだけどなぁ……。



◇◇◇◇◇



 ……それから十分程度経っただろうか。

 俺の名前について散々議論したジェイミーとケリーは、お互いに意見を出すのに疲れたようで、


「じゃあもう……やっぱりポチでいいんじゃない?」

「そうだな……もうそれでいいかもな……」


 という結論に到達しつつあった。

 ダメ! 諦めないで!

 俺は必死に抗議する。


「わんわんわん!」

「おお、こいつも喜んでるぞ」


 喜んでねーよ! 抗議しとるんじゃ!


「そうだね! ポチでけってーい!」


 嫌だ! ポチだけは絶対に嫌だ!

 くっそー。なんとかして変えさせないと……。

 でも俺は喋れないし、どうやって?


「ふぅ……いっぱい頭使ったからお腹減っちゃった」

「フルーツでも食べるか? 確か、ジェイミーの好きなバナナとブドウがあったはずだ」


 ケリーが指差した先には、机に置かれたフルーツバスケットが。

 フルーツ……そうだ!

 言葉で伝えられないなら、物を使って伝えよう!

 閃いた俺は、ジェイミーの腕から抜け出し、ぴょんっと地面に飛び降りる。


「あっ、どうしたの!?」


 そして、てちてちとテーブルへ向かい、ジャンプしてそこに飛び乗る。


「おお、凄いジャンプ力だな」


 人間の腰ぐらいの高さがある机だが、雲の高さまでジャンプ出来る俺にとってはどうってことない高さだ。

 俺は机の上に置かれたフルーツバスケットへ近づく。

 ふふふ。我ながら良い考えが思いついた。

 この中からフルーツを取り出し、その名前を付けてもらうのだ! ナイスアイディア!


「何をしているのだろう?」

「フルーツ食べたいのかな?」


 この世界のフルーツは、俺の元居た世界と見た目はまったく同じもののようだ。それに先ほどのケリーの言葉から察するに、名前も俺の元居た世界と同じだろう。

 バスケットには色々なフルーツが入っている。バナナに、オレンジに、ブドウに……うーん、良いのがない。あんまり可愛いフルーツを選んでも、『めろんちゃん』の二の舞だ。

 あ、リンゴがあった! リンゴ……アップル! うん! アップルって名前なら、ポチよりだいぶマシなんじゃないか!? 

 俺は赤く熟したリンゴを咥え、姉妹へ見せる。


「それ食べたいの? いいよー」

「いや……どうやら食べたいわけじゃなさそうだ。私たちに見せつけて、何かを伝えたそうにしている」


 おお! さすがケリー! わかってくれたか!


「もしかして、名前をこれにしろってことなんじゃないかな?」


 そうそう! そうだよ!

 俺は力強く頷く。


「そうなのか? 名前、それがいいのか?」

「わん!」


 おおお! 伝わった!

 よし、名前を『アップル』にしてくれ!


「そうか……じゃあお前の名前は『ヌプティヌスヌクレドヌ』で決定だな」


 ……はい? なんて?


「『ヌプティヌスヌクレドヌ』! 良い名前だね!」


 ちょ、は? え?

 ヌプ……なに?


「ヌプティヌスヌクレドヌおいしいよね〜。私大好き!」


 え? これリンゴだろ? どう見てもリンゴだろ!?

 なんだよ! ヌプなんとかって!


「そういえば武器屋の通りに、ヌプティヌスヌクレドヌ・パイの美味しい店があるらしいぞ」

「ええ〜今度行こうよー!」


 アップルパイだろ!

 この世界は、リンゴのことをヌプなんとかって言うのか!?


「フルーツの話をしてたら食べたくなっちゃった! 私、オレンジ食べるけどお姉ちゃん何か食べる?」

「パイナップルを食べようかな」

「あ! キウイもあるね!」


 なんで他のフルーツの名前は俺の世界のものと同じなのに、リンゴだけ呼び方違うんだよ!


「ヌプティヌスヌクレドヌちゃん? どうしたの? 机の上で固まっちゃって?」


 長い! 長くて『ヌ』ばっかりで覚えられない!

 そして呼びにくくないのかそれ!?


「あ、ヌプティヌ……ヌーちゃんも好きなフルーツ食べていいよ!」


 ほら! 略した! やっぱ呼びにくいんだろ!?


「そうだ、ギルドに行くついでにヌーを飼うためのペット用品も飼いに行こうか」

「うん! 改めて今日からよろしくね、ヌーちゃん!」

「わ……わん」


 ……こうして、俺の名前がヌプ……なんとかに決定しました。

 これ、ポチのほうがマシだったんじゃないか……。


 ちなみに、ヌプなんとかの味は、甘いような酸っぱいような、なんとも言えない味だった。



=================


 名前:ヌプティヌスヌクレドヌ

 性別:オス

 犬種:PM・ラニアン

 年齢:生後3日

 血統書:あり

 レベル:28


 HP:1150/1300

 MP:1300/1300

 ATK(攻撃力):1100

 DEF (防御力):800

 INT(理力):900

 AGL(俊敏力):1500


 スキル:言語理解、芸達者、ドラゴン・ブレス


=================


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