第14わん 子犬と子猫がペロペロとじゃれ合う、至って健全で微笑ましい光景
いつもの通り、至って健全で微笑ましい光景を描写しています。
子犬と子猫が戯れているだけの光景です。それ以上でもそれ以下でもありません。
(今回の話を読み飛ばしてしまっても、ストーリー上問題はありません)
子犬と子猫。
二匹の舌先が触れ合う。
ほんの先端だけだったが、それだけで全身に電撃が走るようだった。
「にゃ……ん」
彼女の口から甘い吐息が漏れ、俺の鼻先を擽る。
距離が近い。その天使のように可愛らしい顔が、目と鼻の先にある。
口元から覗く小さな舌。
純白の体毛で覆われた頬。
呼吸に併せ、ヒクヒクと動く薄桃色の鼻。
その横から伸びる細長い猫髭は、風に揺られて稲穂のようにそよぐ。
瞳は閉じられ、緊張しているのか、瞼が小さく震えていた。
「ふにゃ……」
舌の先端で彼女と繋がり、一つになっているかのようだ。
彼女の体温。鼓動。そこから全てを感じることができる。
舌先に広がる幸福感だけで、側面にある傷の痛みなんか消えてしまいそうだった。
しかし、彼女は舌先のみを触れたまま、それ以上動こうとしない。ここから先の行動を躊躇っているか、それともどうすればよいのか分からないのだろうか。どちらにせよ、お預けを食らっているみたいでもどかしい。
我慢できなくなった俺は、もっと彼女を感じたくて、つい自分から舌を動かしてしまった。
「にゃっ」
すると彼女はピクっと体を震わせ、舌を俺から離してしまう。
しまった。ガッつき過ぎだったかな。引かれないだろうか。
自身の節操の無さを後悔したが、彼女は特に嫌悪感を示している様子はない。むしろ照れたように、はにかんでいた。
「にゃぅぅ……」
直視するのが恥ずかしいのか、顔はこちらに向けているものの目を逸らしている。時折、チラっチラっと上目遣い気味に俺の様子を伺ってきては、再び視線をそっぽに逸らしていた。白い毛で覆われた頬は、僅かに紅潮しているように見える。
その愛くるしい様に、今にも飛びかかってしまいそうな衝動に駆られる。だが先ほどの失敗は繰り返すまいと、なんとか自制した。
代わりに舌をベロンと垂らし、ポタポタと血の滴る傷口をアピール。それを見た彼女は、はにかんでいた顔を気の毒そうに曇らせた。
「んにゃ……」
ややあって、彼女は決心したように正面に向き直る。
空色の綺麗な瞳をもう一度閉じると、口元から舌先だけ覗かせて、再度顔を近づけてきた。
ゆっくりと、ゆっくりと。焦らすように。
ガッつくような真似はもうしない。俺は彼女が近づいてくる軌道に併せ、舌を出して迎え入れる。
「んっ……」
もう一度、舌先が触れ合う。
柔らかく、暖かい。痺れるような感覚が舌端から生まれ、理性を揺さぶってくる。
「んんっ……にゃっ……」
今度は、そのままの状態を維持することなく、すぐに次の行動に移ってきた。
彼女の舌が、這うように移動する。
何かを求めるように、右へ。左へ。
おそらく傷口を探しているのだろう。瞳を閉じているため、舌先の感覚だけで傷を見つけるつもりのようだ。
「んふっ……にゃっ……」
俺の舌の上を、ねっとりと彼女の舌が伝う。
舌の皮膚の凹凸をなぞるように、丁寧に。
先端以外が触れて初めて気が付いたが、彼女の舌は少しザラザラしていた。そういえば、猫の舌にはトゲがあるらしいな。だけど決して痛くなく、むしろそれがアクセントになってより快感が高まっていた。その快感は俺の脳を揺さぶり、今すぐにでも舌を絡めたくなる衝動をもたらす。
だが動いてはいけない。これはあくまで治療行為。患者である俺は、受け身でなくてはならないのだ。
動けない代わりに、全神経を舌端に集中させる。その動きを、一瞬たりとも逃さぬように。
「わうっ」
ふと、ピリっという痛みが走った。彼女の舌が傷口に触れたのだ。
鉄の味を感じ取ったのか、彼女も傷口の在処に気がついたようで、そこに重点的に舌を当てる。
ぺろり、ぺろり、と。
唾液が彼女の舌を伝い、俺のものと混ざり合う。
それはさらに血液と混ざり、傷口へと流れ混んでいく。
癒しの力を持つ奇跡の舌。その効果により、すぐに痛みが和らぎ始めるのを感じる。
「んふっ、ふにゃ……」
時折息を漏らしながら懸命に舌を這わせる姿がいじらしい。
ゆっくりと、丹念に。ただ単に舐めるのではなく、愛情を込めながら舐めてくれているのが分かる。ペロリ、ペロリ、と。下から上に。癒しの力を持つ唾液と共に、愛情を刷り込むように。
舌自体の官能的な柔らかさと、トゲが生み出す小さな刺激が、絶妙なハーモニーを奏でる。
俺はされるがまま、舌の皮膚に生み出される甘美な快感を堪能していた。あぁ、この快楽が一生続けばいいのに--。
しかし夢のような時間は、そう長くは続かなかった。
「にゃふぅ」
はたと彼女は動きを止め、顔を俺から離す。そして舌の具合をしげしげと眺めると、治ったよ、と言わんばかりにニコっと微笑んだ。
そうだ。これは医療行為。それ以上でも以下でもない。傷が治ればそれで終わり。
しかしこんな中途半端な状態では、むしろ生殺しだ。もっと舐めて欲しい。もっと快感が欲しい。もっと彼女と繋がりたい。
欲望のままに、俺は素早く行動した。
彼女が瞬きをしたのその刹那。爪で自身の前脚を引っ掻く。ライオンに切られた方とは逆の手だ。
我ながら見事な手捌きだった。目にも留まらぬ速度で手の甲に新たな傷が生まれ、血が滲み出てくる。
「くぅん」
手を突き出し、いかにも先ほどからあった傷と言わんばかりにそれを見せつける。加えて瞳を潤ませて弱っている様を演出。
素直な彼女は、特に疑問を持った様子も見せずにすぐに顔を近づけてきた。
俺の前脚に顔を埋めるような体勢になり、口から小さな舌を覗かせる。
「んにゃぁ」
舌同士で触れ合うよりかは敷居が低いようで、特に躊躇いもなく舌を付けた。
まずは味見をするかのようにペロリと先端を一舐め。先っちょに小さな快楽が生まれる。
続けてもう一度。今度はしっかりと味わうように。ねっとりと。傷に沿うように優しく舌が這ってくる。舌がなぞった軌跡に唾液纏わり付き、妖しく光る道筋が生まれる。
「わふっ……」
生み出される快楽に、思わず声が漏れてしまった。
そんな俺の様子を、彼女は潤んだ上目で窺ってくる。背中にゾクゾクとしたものが駆け抜けた。
目が合うと、彼女は照れたように視線を下へと戻し、照れを隠すように首の動きを速める。
ぺろり、ぺろりと。硬直した俺の前脚に、丹念に舌を這わせる。ソレの形を確かめるように、下から上にゆっくりと。
時折ちらっと俺の反応を窺っては、俺がより反応を示すポイントを探っているようだ。
「にゃふっ、にゃん、ふにゃん……」
慣れてきたのか、最初は下から上に舐め上げるだけの単調でぎこちなかった舌の動きに、次第に趣向が凝らされてきた。
左右にチロチロと舌を動かして焦らすように舐めたり。ねっとりと絡みつかせるように巻きつけたり。
傷が癒える心地良さと、体の末端に生まれる快感。そして彼女が懸命に奉仕してくれることに対する幸福感。
幸せだ。幸せすぎる。
だが、そう感じる一方で、次第に物足りなさを感じ始めてしまう。
我ながら強欲だと呆れるが、ペロペロと舐められるだけでは、じんわりとした快楽が広がっていくだけで決定的な快感を得られないのだ。
更なる快楽を求め、俺はされるがままだった前脚を、グイッと彼女の唇に押し付けた。
「んにゃっ?」
彼女は驚いたように目を見開いたが、押し付けられるソレを拒むことなく、そのまま口内へ受入れる。
柔らかい唇の扉をこじ開け、ずにゅり、ずにゅりと前脚が奥へ侵入していく。
彼女のナカはほんのりと暖かく、そしてぬるぬるしていた。
前脚を奥へ入れるほど、全方位に広がる柔らかい肉がにゅるにゅると絡みついてくる。
快感と共に、一気に傷が回復するのを感じる。
「ふぁっ……ふぁにゃ……」
俺のモノは彼女の口には大きすぎたようで、少し苦しそうに眉を顰めていた。しかし決して嫌な顔を見せず、じゅるじゅると音を立てて侵入してくる物体を一生懸命受入れてくれる。
ぽたり、ぽたり、と唾液が糸を引いて零れ落ち、乾いた大地に飲み込まれていった。
侵入してくる異物を懸命に受け入れる彼女だったが、半分ほど入ったところで、
「にゃふっ!? けほっ、けほっ、」
やはり大きすぎたようで、えずいてしまった。
慌てて腕を引き抜く。彼女の唾液がべっとりと付着し、俺の先端と彼女の口元で橋が形成された。逆アーチ状の橋が太陽に照らされて、妖しく煌めく。
「けほっ……にゃう……」
目に涙を浮かべる彼女。
俺は少々申し訳なさを感じながら、労うようにその目元を優しく舐めた。
「にゃっ」
彼女は恥ずかしそうに微笑み、お返しとばかりに俺の頬をペロっと舐める。しおらしい姿が加虐心を擽る。
ふと見ると、脚の傷は完全に癒えていた。
まだまだ。もっともっと。彼女に癒して欲しい。俺は名残惜しさを視線に乗せて彼女を見つめる。
「うにゃあ」
しかし彼女は、照れ隠しなのか、後脚を器用に使って耳裏を掻くだけで、医療行為を再開してくれようとはしない。
だが視線を泳がせながら、ちらり、ちらりと俺を盗み見ているのを見逃さなかった。その姿は、勘違いかもしれないが、彼女自身も物足りなさを感じているものの、傷がない以上ペロペロを続けるわけにもいかず躊躇っているように見える。
つまり別にペロペロするのは嫌ではないが、正当な理由が欲しいのだ。あくまで推測だが。
となれば、やることは一つ。
「きゃんっ」
ガリッと、頬の内側を深く噛んだ。頬に穴が空いたのではないかと思う程の激痛が走り、口内に鉄の味が広がる。
俺は口を開き、内頬の傷を彼女に主張。思ったより深く噛んでしまったようで、口からポタポタと紅の液体が滴り落ちた。
それを見た彼女は、ようやく俺が自傷していることに気がついたようで、呆れたように微笑んだ。
だが決してそれを咎めることなく、しょうがにゃいにゃあ、とばかりに口を近づけてくる。彼女もまんざらでも無さそうだ。
「はにゃ……」
近づく彼女の唇。さっきよりも少し荒くなった呼吸が、鼻に当たる。
距離が縮む度に鼓動が高鳴り、心臓が張り裂けそうになる。ジンジンという疼痛がドキドキという鼓動によって掻き消されるほどに。
そして、
「にゃ……」
ちゅっ、と。唇が触れ合った。
それだけでも意識が飛びそうな程の快感だったが、間髪入れずに更なる快感が生まれる。
舌が、俺の口内に侵入してきたのだ。
「んんっにゃ」
にゅるにゅる、と柔らかい物体が口に入ってくる。
今度の傷は内頬にある。その分舌を捻じ込む必要があるわけだ。
思ったよりも積極的な彼女の行動に驚くが、快感と喜びの方が上回った。
「はふっ、にゃふっ……」
唇をぐりぐりと押し付け、短い舌を懸命に口内に捻じ込んでくる。それは内頬を目指して進んで行くが、必然的に俺の舌と擦れ合い、二人の体に電流が走る。
しかし問題が発生した。彼女の短い舌では、頬の傷まで届かないのだ。犬である俺の口先が少し出っ張っているためである。
止むを得ず、彼女は口の先端から少し側面に移動し、顔の横から舌を侵入させてくる。唇同士が触れ合わなくなるのは残念であるが、ようやく彼女の舌端が内頬の傷を捉えることができた。ぐりぐりと肉が押され、視界の端で頬が盛り上がっているのが見える。
口内を舐められるというのは、想像を絶する快感だった。
「んにゃ、にゃあ、はにゃあ」
彼女にも同様の感覚が生まれているのだろうか。先ほどから漏れる甘い吐息を抑えようともしない。
徐々に彼女の体温が上昇しているのを感じる。頬は上気し、閉じた瞼の端からじんわりと涙が溢れていた。舌が絡み合う度に体をピクっピクっと小さく痙攣させている。
塞がった視界を聴覚で補うように、小さな耳をピコピコと動かしているのが可愛らしい。俺の一挙一動を耳から感じ取っているかのようだ。
「ふにゃぁ、にゃっ、にゃぁん……」
唾液を絡ませ肉を絡ませ。無我夢中といった具合に、貪欲に舌を動かし続ける。
とっくに傷は治っているものの、彼女は舐めることに夢中で気がついていないのか、単に快楽に身を溺れさせたいのか、舌の動きを止める気配がない。
「くぅ……くぅん」
鼻にかかるこそばゆい吐息。皮膚を擽る猫髭。そしてなにより、口内にもたらされる快楽。
受け身の状態でい続けるのは困難極まりない。
我慢の限界を迎えた俺は、またも自分から舌を絡めてしまうのを止められなかった。
「にゃっ……」
突然の動きに、彼女は目を瞑ったままピクリと反応したものの、今度は逃げる様子を見せない。
むしろ、待ちわびたとでも言わんばかりに舌の力を強めてくる。
「わふっ……わん……」
「にゃあ……ふにゃう……」
二匹の吐息。荒い呼吸。粘膜が絡み合う水音。
静寂の荒野に、それだけが聞こえる。
頭が真っ白になり、徐々に思考力が削がれ始めてきた。
「わんっ」
「ふにゃっ?」
気がつくと、うつ伏せの状態から立ち上がり、いつの間にか彼女の体を押し倒していた。
眼下に横たわるその小さな顔は、不思議そうに首を傾げて俺の顔を真っ直ぐ見上げてくる。そんな幼気な姿が愛おしい。
俺はこっそりと視線を下に移動させる。
仰向けになり、晒される彼女の一糸纏わない姿。
肉付きは少なく、細っそりとしたスレンダー体型だ。腹側の白い体毛は新雪のようで、思わず顔を埋めたくなる衝動に駆られる。
「にゃーにゃ」
芸術的なその姿に見惚れていると、照れたような声と共にぽこっと頬を小突かれた。
慌てて視線を戻すと、彼女はスケベな俺を咎めるように意地悪く微笑んでみせる。
俺を見つめる鮮やかな碧眼は、とろん、と蕩けて視点が定まっていないようだ。呼吸が荒く、小さな体が上下に揺れている。
そんな姿を見せつけられると、俺のDNAに刻まれた野性的な本能が呼び起こされてしまう。
「んっ」
堪らず彼女の頬をペロリ。
すると、彼女も同じように舐め返してくる。
今度は首筋を一舐め。小さな体は、敏感に反応してピクっと小さく痙攣していた。
さらに俺は彼女の体に舌を這わせていく。
攻守逆転。先ほどまでは受け身だった俺の方から攻めていく。
「にゃっ、はにゃんっ、んっ……」
身を捩らせ、切ない吐息を漏らす小さな子猫。
舌を当てる度に、その細い腰が浮き上がっている。
「わふっ、わんっ」
「にゃ、にゃあああっ、にゃあん」
獣のように獰猛に、けれども繊細に、彼女の体に舌を這わせていく。
欲望に溺れ、頭の中は彼女のことと、この後執り行われるであろう行為の想像で一杯だ。
だから、周囲の様子の変化など全く気がつかなかった。
「グゥルル……」
唸るような低い声が聞こえ、ようやく異変に気がつく。
びくりとして顔を上げると、いつの間にか俺たちはオオカミに取り囲まれていた。
先ほど炎で追い払ったオオカミ達が戻ってきていたようだ。
三百六十度、四方八方を囲まれ逃げ場がない。
「にゃにゃっ!?」
周囲の状態に気が付いたプーちゃんは、顔を爆発しそうなくらい赤らめ、両手を胸の前でクロスさせて体を隠す。
痴態を見られたのが恥ずかしいらしい。
「ガゥ! ガゥ!」
一匹が吠えたのを皮切りに、群れが一斉に威嚇してきた。
いいところだったのに。とんだ邪魔が入ってしまった。
二人の時間を邪魔したオオカミどもに、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。どうしてくれようか。
「わんわん!」
お返しに俺も威嚇。
プーちゃんも俺の体の下から這い出てきて、
「シャー! シャー!」
と毛を逆立てて臨戦態勢に入った。涙目のプーちゃんは、邪魔されたことよりも、どちらかというと行為を覗かれたことに対して怒っているようだ。
怒り心頭のチート犬とチート猫。
そんな二匹を相手にするオオカミに、同情心など湧いてこない。
「わおーん!」
「にゃーん!」
ただ怒りのままに、俺達は敵に飛びかかった。




