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第11わん おっぱい

またまた遅くなって申し訳ないワン。



 ケリーの思考に再び犯されたムツ子は、ほんの数秒間だけだったが、倒れたまま動かなくなってしまい『子犬が一匹、子犬が二匹……』とうわ言のように呟いていた。

 再び鞭を奪うチャンスだったのかもしれないが、俺もケリーの健全な思考によって体力をゴッソリ奪われてしまっていたし、ムツ子に同情心が芽生えていたので、そんな気はさらさら起きなかった。


「……ハッ! 危うく死ぬところでしたわ!」


 ケリーの思考は人をも殺す力を秘めているのか……。

 意識を取り戻したムツ子は、ふらふらと立ち上がりながら、ケリーに鞭を自分の手で解いて手渡すように命じる。


「まったく……とんだ変態ペットを手に入れてしまいましたわ」

「う、うるさい!」


 ムツ子は鞭を受け取りながら、ケリーを軽蔑するように見る。

 そしてふと思いついたように、その視線をジェイミーへと移してボソっと呟いた。


「お姉さんがこれだけ変態となると、やはり妹さんも……?」


 おいおい! ジェイミーは変態じゃないぞ! 姉と一緒にするな!

 当の彼女はムツ子の声が聞こえなかったのか、探るような視線を受けて頭の上にハテナを浮かべていた。


「ふっ、私の妹を舐めないほうがいいぞ」


 黙れよ変態姉貴。お前と一緒にするなって。ジェイミーは俺達のパーティ唯一の常人なんだぞ……。あ、もちろん俺もジェイミー側だよ?

 プーちゃんの性格に関しては分からないが、あんなに天使な外見をしているのだ。ケリーやダルシーのように不純な心を持っているハズがない。きっと純情で純粋な女の子なのだろうなぁ。ムツ子の鞭を使ってプーちゃんの思考を読んでみたいものだ。


「まぁ、ペットにすればすぐに分かることですわ」


 えぇ……ケリー達の思考を読んであんなに酷い目に遭ったのに、まだ他人の思考を読む気なのか……どんだけ好奇心旺盛なんだよ。いやジェイミーの心は読んでも大丈夫だと思うけどね?

 てかムツ子のやつ、ジェイミーをペットにする気満々だな。彼女達を守らなくては。


「ダルシーちゃん、ヌーちゃんを監視するのですわ」

「ばぅ」


 こっそりとジェイミー達の元へ戻ろうとしたが、見透かされていたようだ。俺を向こう側へ帰らせないように、ダルシーが立ち塞がる。

 強引にダッシュすれば突破できるかもしれないが、もし激突してしまったら、きっと彼女は車に轢かれるくらいのダメージを負ってしまうだろう。そんなことできない。


『……ごめんね、ヌー。……ムツ子がヌーのことを視姦してろって……はぁはぁ』


 お前耳大丈夫?

 熱い視線を俺の体に注ぎながら、妖しく舌舐めずりをするダルシー。その熱の籠った視線に当てられ、なんだか俺は動けなくなってしまった。


「さぁ! いきますわよ〜〜!」

「まずい! ジェイミー逃げろ!」


 ムツ子が大きく腕を振るう。それに応じて音速を超える黒い影が放たれ、鋭い軌道でジェイミーに襲い掛かかる。


「プーちゃん! 私の後ろに!」

「にゃにゃっ!?」


 しかし、三度目となるその攻撃は、既にジェイミーによって対策されていたようだ。


「えいっ!」


 彼女が杖を掲げると、前方の空間に半透明の薄い膜が出現した。それはあっという間にドーム状に広がり、彼女達を包み込む壁となる。

 おお!? バリアーか!? すげぇ!


「うふ、やりますわね」


 突如出現した壁に、バシン!と大きな音を立てて鞭がぶつかり、その勢いが殺される。ムツ子が腕を引いて鞭を回収する最中、一撃を防いだバリアーはすぐに消失してしまった。継続して出すのは難しいのだろうか。

 しかし攻撃のタイミングは完全に見切っていたようで、


「もう一度ですわ!」


 再び襲い掛かる鞭を、またもやバリアーで遮る。

 確かに鞭自体の速度は音速を超える程かもしれないが、その長さの特性上、攻撃を発するために大きく振りかぶらなければならない。数回の攻撃を見て、ジェイミーはそのタイミングを掴んだようだ。


「うふふ、これなら! どうですの!」


 しかしムツ子の攻撃も、それだけで済むはずなかった。

 彼女は腕をブンブンと振り回し、鞭の連撃を繰り出し始めたのだ。


「うくっ……」


 息をつく間もなく襲い掛かる鞭の攻撃。なんとかバリアーが防いでいるが、ジェイミーは苦悶の表情を浮かべている。

 バシンバシンと激しい音を立てて鞭を凌ぐ透明の障壁は、次第に透明度が増し、今にも消えそうになっていた。やはり長時間バリアーを出すのは難しいようだ。


「おほほ、障壁が消えてしまいそうですわよ! 早く反撃しないと!  といっても、その状態で攻撃できるのなら、ですけどね」


 ムツ子の指摘通り、ジェイミーの杖は絶え間なく光輝いている。

 バリアーの維持に必死で、攻撃魔法を放つ余裕が無いのは明らかだった。


「ジェイミー! アレだ! アレをやるんだ!」

「あ、あれってなに? お姉ちゃん……?」


 おお、なんだなんだ?

 ジェイミーには秘策があるのだろうか?


「おっぱいファイヤーだ!」


 あぁ、それか……つかまだ信じてるんだ……。


「だからそんなの出来ないよぅ!」

「な、なんですの? おっぱいファイヤー?」

「聞いて驚くな。ジェイミーはおっぱいから炎が出るのだ!!」

「マジですの!?」

「マジじゃないですよぅ〜!」


 驚きのあまりムツ子の攻撃の手が止まった。

 まぁ結果オーライか……。


「そ、そういえば、一ヶ月くらい前に、通りすがりの傭兵から聞いたことがありますの。都会の魔女は、おっぱいから炎を出すことができると……」


 ジェイミーの噂がこんな荒野にまで広まってるー!?


「都会……恐ろしい所ですの……」


 都会関係ねーだろ!


「ふっ、お前は無駄にデカイものを持っているくせに、おっぱいから炎を出せないのか?」


 なんでこいつさっきから偉そうなの。


「くっ、わたくしだって、頑張ればそれくらい……」


 おいやめろ! お前がもし本当におっぱいファイヤーを出せたら、ブラザルの手が燃えてしまうだろ!

 なんでも、アマンダさんはリアルおっぱいファイヤーが出来るらしいからな。ムツ子ももしかしたら出来てしまう可能性が無いわけではない。


「むむぅ、出ないですわ……」


 おっぱいを押し上げて、プルプルと力むムツ子。それに応じておっぱいもプルプルと小刻みに波打つ。しかし、やはりアマンダさんの領域には達していなかったようだ。


「別にいいですわ! わたくしには鞭がありますのっ! 変態お姉さん! もしおっぱいファイヤーが来たら、あなたがわたくしを守るですのよ!」

「くっ、卑怯者め。ジェイミー! 私に構わずやれ! おっぱいファイヤーで私ごと焼いてしまって構わない!」

「だからそんなのできないよぅ!」

「ジェ、ジェイミー……お前……」


 たぶんジェイミーは『おっぱいファイヤーなんか出来ない』と言いたかったのだろうが、ケリーは『姉に攻撃など出来ない』という解釈をしたようで、照れくさそうに微笑んでいた。おめでたい奴め……。


「……まったく。冗談ですわよ。別に炎から守らなくて結構ですわ。変態とはいえ、仮にもわたくしのペットをそんな目に遭わせられないですの」

「ム、ムツ子……お前……」


 今度は敵の言葉に顔を綻ばせて涙を浮かべるケリー。

 こいつチョロいな……。普段優しくされないものだから、ちょっとでも優しくされると心が動いてしまうらしい。


「ところで、お姉さん自身は出来ませんの? おっぱいファイヤー?」

「私は戦士だ。魔法は使えん」

「まぁ使えたとしても、ファイヤーを出すおっぱいがありませんものね。ぷふっ」

「あ”ぁ”!?」


 笑顔から一転、鬼の表情を浮かべるケリー。

 キッっとムツ子を睨みつけると、その視線を俺にも向けてくる。えぇ〜、今は別に失礼なことは何も考えてないぞ……。


『……ヌー、はぁはぁ』


 こいつはいつまで俺のことを見つめ続けているんだ……。

 ケリーからは怒りの視線、ダルシーからはいやらしい視線を受けて、すごく居心地が悪い。


「さて、おっぱいファイヤーとやらを警戒しながら戦うのはやり難そうですわね」

「あの、だから……」

「ですので、こうしますわ」


 ジェイミーの言葉を遮り、ムツ子がパチンと指を鳴らす。

 その直後、突風が巻き起こった。またもやドラゴンが翼を羽ばたかせたのだ。しかも今度は三匹同時に。それによって突風がぶつかり合い、行き場を失った風圧が上空へと巻き上がっていった。


「わぅぅ……」


 俺は飛んでしまいそうになる寸前で爪を地面に突き立て、なんとか耐える。強風の中、うっすらと目を開けると、ケリーとジェイミーも耐えているのが見えた。ダルシーは大丈夫だろうか?


『大丈夫か!? ダル――』

『……ヌー、はぁはぁ』


 あ、余裕っすね。

 つかこんな状況でもめっちゃ見てくるよ……こえーよ……。

 こいつは大丈夫そうだな。本当に心配すべきはプーちゃんだ。


「にゃぁ〜〜!?」

「プーちゃん!」


 風に飛ばされてしまって宙に舞うプーちゃん。先ほどと同様に、ジェイミーが魔法を使ってキャッチし、飛んでしまわないように抱き絞めた。そのままプーちゃんは谷間の肉に沈んでいく。


「オーホッホホ! これでおっぱいファイヤーは封じられましたわぁ!」


 確かに、プーちゃんが谷間にいることによって、おっぱいから炎を出すことは出来なくなってしまった。まぁ元々出来ないけど。

 しかしムツ子の奴、ちょっと抜けてるところあるけど、案外頭が切れるな……。


「くっ、おっぱいファイヤーが封じられてしまったか……」


 だから元々出来ないんだけどね。

 そこでケリーは何かに気がついたようで、急に声を荒げる。


「ってムツ子!? 服は!?」


 は? 何言ってんだケリー? ムツ子はもともと服着てないだろ? いや慣れてきている俺もどうかと思うけど。

 ケリーの発言に疑問を持ちながら、ムツ子に目を向ける。そして驚愕した。

 ムツ子が、全裸なのだ。


「あら?」


 え? あれ、ブラザルは? さっきまで背中に居たブラザルはどうしたの?

 もしやと思い、恐る恐る上空を見上げてみる。

 そこには、


「う、うきぃ……?」


 ブ、ブラザルぅぅぅぅぅぅ!?

 ブラザルが空を飛んでるー!?


「あら、ブラちゃんそんな所に」


 ドラゴンの羽ばたきの風圧によって、スカートよろしく巻き上げられたブラザルは、そのまま上空に飛ばされてしまったらしい。

 ってかブラちゃんって! もっとちゃんとした名前付けてあげなよ! いや俺もブラザル呼ばわりしていたけども!


「うきき……」


 きっと握力の限界だったのだろう、おっぱいから手を離してしまい風に攫われたブラちゃん。しかし、それでもなお手ブラの体制をキープしていた。プロだ……ブラジャーのプロだよ……。


「ドラちゃん達、風を止めるですの」


 ムツ子の指示で、ドラゴンの羽ばたきが止まる。

 風が止み、上空に舞い上がっていたブラちゃんの体は、そのまま自由落下。その真下にはケリーが。彼女は頭上にブラちゃんがいることに気がついていないようだ。


「うきぃ〜」


 未だ手ブラの形を崩さないブラちゃんは、お尻から落下し、手を輪にした状態でケリーの背中側に落ちる。

 まずい! このままではケリーのブラジャーになってしまう! そんなことしたらケリーがぶちギレるぞ! と思ったのだが、杞憂に終わった。


 スカッ。


 そんな擬音が聞こえるほど、落下してきたブラちゃんの腕の輪が、輪投げのように綺麗にケリーの身体を通り抜けたのだ。


「なんだ?」


 目の前をサルの腕が通り抜け、ようやくブラちゃんが空から落ちてきたことに気がついたケリー。

 ブラちゃんはケリーの身体に一切触れることなく、そのまま地面にお尻から落下してしまった。これがもしムツ子だったら、ぴったりとおっぱいに装着され、本来のブラジャーの体勢に戻っていたことだろう……。

 しかし悲しいことに、ケリーには全く突起がなかったので、そのままブラちゃんは下に落ちてしまったのだ。


「あ、えっと……大丈夫か?」


 ケリー自身、そのことに気がついたようで、なんだか複雑な表情をしながらブラちゃんの心配をしている。あれ、なんか俺の目から涙が……。

 そんなケリーに、ムツ子が追い打ちを掛ける。


「ぷふっ……サ、サイズが……サイズが合わなかったようですわねぇ……」


 やめろ! これ以上ケリーを傷つけるな!

 ケリーの中で、ぷちん、と何かが切れたような音が聞こえた。しかし爆発するのはなんとか堪えたようだ。おぉ、大人になったなケリー……。

 しかし、追い打ちは終わらない。


「ぷふふっ……ブラちゃん、戻ってくるのですわ」

「うきぃ!」


 ブラちゃんはケリーの足元から離れ、ムツ子の元へてちてちと駆けて行く。だが途中でふと立ち止まると、ケリーの方に振り返って、


「ふぅ〜〜」


 大きくため息をつきながら、やれやれダメだこりゃ、といった具合に肩をすくめた。

 その態度を見て、ケリーの火山が爆発する。


「ぶっっころ○★◇#△$■!!!!!!」


 意味不明な奇声を発しながら、ケリーは怒りに任せて拳を地面に叩きつける。拳はそのまま大地を砕き、ベゴォ!と物凄い音を発生させて、クレーターを作りだした。

 こ、こえぇ……。なんて馬鹿力……そして鬼のような形相……。ここまでマジギレするケリーは初めて見た……。

 怒り狂うケリーを見たブラちゃんは、慌ててその場を飛び退きムツ子の背後へと姿を隠す。


「し、静かにするですわっ!」


 その驚異的な力と般若面のような表情に、さすがにムツ子もビビったのか、上擦った声で静止の命令を下した。


「フゥーフゥー」


 魔法の鞭の力によってケリーは静まりこそしたものの、未だ鬼神のような目つきでムツ子とブラちゃんを睨みつけている。

 こ、こわい……。服従の魔法がなければ取って食わんばかりの形相だ……。

 俺はなんとかしてケリーの怒りを鎮めようと、


「くぅぅぅ〜〜ん」


 と、最大級の甘え声を出しながら、彼女の足元に駆け寄って頬擦りをした。怒りを抑えてご主人を癒すのもペットの務めだからな。

 するとフゥーフゥーという荒い呼吸が徐々に落ち着いてきて、いつもの凛々しいクールな表情に戻っていく。やがてクールな表情を通り越して、 にへら、と微笑む気味の悪い表情へとなった。

 よかった……少々やりすぎた感じもするが、無事怒りを沈められたようだ。俺のペット力も上がってきたな。


「うきぃっ!」


 見ると、ブラちゃんがムツ子の背中へ飛び乗り、元のブラジャーの体勢に戻っているところだった。

 ブラちゃんも大変だなぁ、ずっとブラジャーをやらされて。お互い飼い主には苦労させられるよな……。

 しかし、ブラジャーとなってムツ子のおっぱいを鷲掴んだブラちゃんは、


「うきぃ〜ひひひひひぃ〜」


 と、サルとは思えないような下品な笑い声を発し、心底幸せそうにニヤけていた。……え? あれ?


「ブラちゃんは本当にブラジャーになるのが好きですわね〜」

「うきひひひ」

「あんっ、ブラジャーはおっぱいを揉んだりしませんのよ〜? もう、えっちなブラジャーですわねっ」


 え……ブラちゃん、無理やりブラジャーやらされてたんじゃないの? 

 ムツ子のおっぱいを無駄に揉みしだいているあのスケベな表情を見るに、どうやら好きでブラジャーをやっているらしい。なんだよただのエロザルじゃねーか! え、でもさっきグッタリしてたのは……。


「モンスター酔いさえしなければ、完璧なんですけどねぇ〜」


 なんだよモンスター酔いって! 乗り物酔いみたいなもんか!?

 まさか乗り物酔いでグッタリしていただけとは……。くっそ、あのエロザルめ。うらやまけしからん……同情して損したな。俺もジェイミーのブラ犬になりたいワン。


『……ヌー、はぁはぁ』


 お前はいつまでハァハァ言ってるんだァァァ!!


今回の話で24回もおっぱいと書いてしまいました。

『お』って入力すると『おっぱいファイヤー』とか予測変換されてつらい。

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