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犬転生 〜わんダフル異世界冒険記〜  作者: 鍋豚
第1章 転生編
4/48

第3わん 可愛い前足と可愛くないステータス

 

 どうしよう……拉致られた……。

 ケージに閉じ込められ、どうやら馬車の荷台にでも積まれているらしい。

 荷台は布で覆われているため外の様子は伺えないが、先ほどから馬車がやたら揺れているので、街から出て荒野にでも入ったようだ。


「で、ドラゴンの賞金でどうするよ」

「ぐへへ、まずは女だな!」

「だな! ぎゃはは!」


 男達のゲスい声が、ここまで聞こえてくる。

 彼らの話をまとめると、街の周囲の荒野にドラゴンの群れが住み着き、多大な被害が出ているらしい。

 街に直接攻め込んで来る訳ではないが、他の街への通行がドラゴンによって阻まれ、物資のやり取りが不可能になったようだ。

 そこで街は、多額の報酬でドラゴン退治の依頼を出した。この男達は、狩人ハンターと呼ばれる職業の人々で、こういったモンスターを退治して生活しているらしい。おそらくジェイミーやケリーも同じだろう。


「ここら辺だな……。武器の準備をしておけよ」

「おう」

「エサの準備もな」

「まかせろ」


 やばい……。マジでドラゴンのエサにされる……。

 ここに住み着いたドラゴンはかなり凶暴で、多くの狩人が殺されているらしい。このままでは、ドラゴンの囮に使われて、せっかくの第二の命も終わりだ。犬に転生したことを嘆くヒマもない。


「てか、あの犬の名前どうする?」

「エサなんだから名前とかいらねーだろ」

「いや『エサ』じゃ紛らわしいし、付けよう」


 おお、名前か。こいつらのペットになったつもりはないが、最初に拾ってくれたセリーナに付けてもらった『ポチ』という名前はあまり気に入ってなかったんだ。

 一応、聞くだけ聞いてやろう。


「名前かー。おい、お前決めろよ」

「俺? そうだな。じゃあポチで」

「オッケー。ポチな」


 またポチかよ!

 この世界の住人、ネーミングセンス無さ過ぎだろ!


 いやそんなことはどうでもいい! エサにされる前になんとかして逃げないと! でもどうやって?

 俺が閉じ込められているのは、鉄の檻だ。俺の可愛いお手て—―というより前足じゃあ壊せそうもない。


 ――いや、やってみる価値はあるか?

 犬神に、勇者になれるほどの能力を貰ったんだ。実際にどれくらいの能力を授かったかは知らないが、もしかしたらこんな檻を壊せるくらいのパワーを、俺は兼ね備えているかもしれない。


 このままドラゴンに食われるくらいなら、出来ることはなんでも試してみよう。

 俺は前足を見る。

 可愛い。我ながら可愛い足だ。肉球柔らかそう。……果たしてこの可愛い前足で、この檻を壊せるのか――


 ジャキン!


 えぇ!?

 何気なく檻に触れた瞬間、刃物同士を擦り合わせたような、鋭い音が聞こえた。

 そして、パックリと切断された鉄の檻。まるで包丁で切られたキュウリのような断面だ。

 ――これ、俺が切ったのか? 

 前足を見る。

 可愛い。可愛い足だ。その先端から生えている、可愛いツメ。もしかして、これで切ったのか?


「よし、ポチを連れてこい」


 って、考えている場合じゃねぇな! はやく脱出しないと!

 もう一度、檻に向けて前足を伸ばす。今度は、左から右へ、横へ撫でるようにツメを当てていく。

 すると、鉄の檻は豆腐でも切るかのように、容易く切断された。それによって自分の身体が通れるくらいの隙間ができる。

 スゲェ! 俺の可愛いツメ超スゲェ! なんという切れ味!

 よし、このまま逃げるぞ!


 檻を抜け出し、よちよちと荷台を囲む布へ近寄る。鉄を切り裂くツメだ。布なんかティッシュのように破ける。破いた切れ目から、太陽の光が差し込んできた。

 その隙間から外の様子を伺うと、辺り一面に広がる黄土色の大地。やはり街から抜けて荒野を走っていたようだ。

 うぅ〜ここから飛び降りるのか……。そこまで速度がないにしても、走っている馬車から飛び降りるのは痛そうだ……。それに飛び出した後も荒野に投げ出されるだけだ。ドラゴンの巣食う荒野に。

 でも、この男達に掴まったまま、ドラゴンのエサになるよりはマシだ! ここから抜け出せば、逃げれる可能性もある! 俺はここから帰ってジェイミーとケリーのペットになるんだ!


「わおーん!」


 意を決し、荷台から可愛く飛び降りる。プールの飛び込み台から入水するように、固い地面にダイブ。


「わふん!?」


 両足を地面に付けるが、上手く着地できず、慣性力によりそのまま後ろにゴロゴロ転がってしまった。そのまま十数メートル転がり、巨大な岩にぶつかってようやく制止する。

 ぐおおお〜痛ったー……くないな。あれ? 全然痛くない。あれだけ転がったというのに、身体に傷ひとつないようだ。ただ、ゴロゴロ転がったから目が回ったけど……。

 もしかして、これも犬神に貰ったステータスのおかげだろうか? 鉄を切り裂くツメといい、俺はかなりスペックの高い犬なのかもしれない。

 するとそこで、『ステータス』という言葉を頭に浮かべた瞬間、脳裏にイメージが沸き起こった。



=================


 名前:ポチ

 性別:オス

 犬種:PM・ラニアン

 年齢:生後3日

 血統書:あり

 レベル:1


 HP:498/500

 MP:500/500

 ATK(攻撃力):500

 DEF (防御力):500

 INT(理力):500

 AGL(俊敏力):500


 スキル:言語理解、芸達者


=================



 おお。これが俺のステータスか。『ステータス』と意識すると、頭に思い浮かぶんだな。ファンタジーだ。

 ステータスの表記方法は、元居た世界のRPGゲームに良く似ているため、なんとなく見方は分かる。

 いや、でもちょっと待って? なんか色々突っ込みたいところがあるぞ?


 まず、名前『ポチ』って! 俺はポチじゃねぇ! 認めねぇぞ!

 これはセリーナちゃんと、俺を拉致した男達が勝手に付けた名前だ!

 ポチなんて絶対認めないからな! ……まぁいい。ちゃんとした名前はジェイミーとケリーに付けてもらおう。


 で、次。性別『オス』……まぁ犬だしな。『男』って言ってもらいたいところだが。

 ほんで、年齢。生後3日……。生まれてすぐに親犬に捨てられたのか。可哀想な俺……。生後3日だというのに、ある程度の大きさまで成長しているあたり、成長速度は俺の元居た世界の犬とは少し違うようだ。でもまだまだ赤ちゃんなのは変わりないだろう。

 あと血統書ありということは、俺はなかなか良い生まれの犬なのかな。別に嬉しくないけど……。


 レベルは生まれたてだから、当然1だ。ステータスは……この世界の基準が分かんないから高いのか低いのか分からん。

 でも犬神の話が本当なら、俺に勇者になれるくらいの高ステータスを授けてくれたらしいから、これは高いのかもしれない。それに馬車から飛び降りて地面を何十メートルも転がったのに、HPの数値は2しか減ってない。これは防御力が高いお陰じゃないだろうか?


 んで最後にスキルだ。

 まず、言語理解はそのままの意味だろう。

 次に書いてある『芸達者』。これが犬神がくれた、俺だけのユニークスキルなのだろうか?

 芸達者……。なに? 犬だけに、『お手』とか『お座り』が上手ってこと? いらねぇわそんなスキル! 犬神のヤロウ……ふざけやがって……。


 まぁいい!

 とりあえず今は、ステータスのことよりも街に戻ることを考えよう。上手くあの男達から逃げることができたんだ! あとは街に戻って、ジェイミーとケリーの帰りを待つだけだ!


 ポタン。


 ん? 頭に水が落ちてきた。雨か? おかしいな、空は晴れているけど?

 空には灼熱の太陽が爛々と輝き、地面を焼いていた。まぁ、俺は今巨大な岩の下にいるから、陰になって暑さを感じないんだけど。


 ポタン。


 まただ。また水が落ちてきた。


「グルル……」


 ……え?

 頭上から獣が唸るような音が聞こえた。その正体を知るため、俺は恐る恐る頭上を見上げる。

 俺が巨大な岩だと思っていたものは、岩などではなかった。

 真っ赤な鱗。十メートルは優に超えているである巨大な身体。背中から生えた二枚の翼。口からはごちそうを前にした犬のように涎をダラダラ流し、そのブルーの瞳には俺だけが映っている。

 ――ドラゴンだ。


 脳の中で、ケリーやあの男達の言葉が木霊した。



――犬なんか連れて行ったらドラゴンの餌になってしまう

――確かドラゴンの好物は犬だったな

――しかもこれ、PM・ラニアンって犬種だよな? T・プードルの次にドラゴンの好物の種類だろ?



 あ、やべ、これ走馬灯ってやつ?


「グゥアアアアアアアアアアアアア!!!」


 恐怖で固まる俺の頭上から、大きく開かれた口が迫ってきた。



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