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犬転生 〜わんダフル異世界冒険記〜  作者: 鍋豚
第2章 冒険編
38/48

第6わん Amanda


 空から落ちてきた謎の木箱。


「アマンダゾン……」


 木箱の側面には、ニコっと微笑む口のようなマークと共に、そう書かれているらしい。


「あ! お、おいダルシー、危ないぞ!」


 アマンダという言葉を聞き、ダルシーが反応する。

 するりとジェイミーの腕から抜け出し、


『……確かに、少しアマンダの匂いがするかも』


 木箱へ近づいて、くんくんと匂いを嗅ぎまわった。


「ばうばう!」


 やがて確信を得たのか、ケリーに危険性はないと主張する。


「アマンダゾン……アマンダの物なのか?」

「ばう!」

「ダーちゃんが言うなら間違いないね! アマンダさんの送り物なのかも! 開けてみよう!」


 ジェイミーに促され、俺達も木箱の元へ。

 ケリーが慎重に蓋を開け、ダルシーを筆頭に、全員で中身を覗き込む。


「こ、これは……食料だ!」

「食べ物!? わーい! アマンダさんが送ってきてくれたのかな!?」

「手紙が付いてる……どれどれ」


 木箱の中にはギッシリと食べ物や衣服が詰め込まれており、その上に手紙が置かれていた。

 ケリーはそれを開封して読み上げる。ダルシーのレモン色の瞳がキラキラと輝き、尻尾がブンブンと揺れていた。


「ええ〜と、なになに。『ダーちゃあん! 元気にしてるぅ? ケリーちゃあん、ジェイミーちゃあん、旅はどうかしらぁ? ヌーちゃあん、ダーちゃんと交尾してるぅ〜?』 ……すまんジェイミー、代わりに読んでくれないか?」


 気の抜けるような文章と、アマンダさんらしい相変わらずブッ飛んでいる内容に、ケリーは読み上げるのを早々に断念した。手紙の続きはジェイミーが引き継ぐ。


「えっと、『みんなのことだから、きっと無事よねぇ? 私はダーちゃんが居なくて寂しいです。特に夜が……』……夜って、なんのことだろう?」

「い、いや、知らん。続きを読んでくれ」


 ジェイミーの無邪気な質問にケリーが言葉を濁らせ、頬を染める。

 ダルシーを見ると、きゃっ、と恥ずかしそうに顔を伏せていた。


「『きっと代わりにケリーちゃんが夜を楽しんでいるわよねぇ。ペロペロペロ〜って。ヌーちゃんもいるし、羨ましい〜』……だから夜ってなに!? ペロペロペロってなに!? お姉ちゃん!?」

「し、知らんと言っているだろう!!」

「あー! わかったー! 私が寝てる間にみんなで遊んでるんだー! ずるーい! 私も混ぜてよぅ!」

「な、何もしていないぞ! なぁ! ヌー!?」

「く、くぅうん?」


 あたふたと慌てふためくケリー。

 なんのことだろう……。俺には全く心当たりはないが、動揺するケリーを見るに、夜に何かマズいことをしているのだろうか。

 たまに精神が犬化して記憶が抜けている時があるが、まさかその時に何かとんでもないことが行われていたりして……。

 ぶーたれるジェイミーに、続きを読むようケリーが促す。


「うんと、『そうそう〜。私のお店は最近、通販を始めましたぁ! その名も! アマゾ……じゃなかった! アマンダゾン! 通常配送無料(一部を除く)! お急ぎ便ご利用で当日・翌日に配送しちゃうわよぉ!』 だって! すごいね!」


 なんかどっかで聞いたことあるぞそれ!

 つか配送って、さっきみたいに空から飛んでくるのだろうか? 俺達、危うく潰されるところだったけど……。


「『みんなご飯に困ってない? アマンダゾンで配送してあげるから、良かったら食べてねぇ』 わーい! ありがとうアマゾンさん!」

「助かる! ありがとうアマゾン!」

『……アマゾン……大好き』

「にゃーん!」


 おおー! これで食料問題は解決だな!

 あとみんな、アマゾンさんじゃなくてアマンダさんだぞ? 間違えちゃダメだぞ?


「『そ・れ・とぉ。ケリーちゃんにプレゼントよぉ! ケリーちゃんの大好きなハチミツ! いっぱい使ってねぇ!』 ……使う? 食べるの間違いじゃない?」

「さ、さぁ」


 ケリーはちらりと俺を見ると、顔を真っ赤にして目を逸らした。ダルシーも同じような反応を見せる。

 なに!? なんなの!? お前ら夜にハチミツで俺と何やってんの!?

 そういや前にケリーと風呂でハチミツを舐めて、犬としての本能が暴走して記憶が吹き飛んだことがあったな……。まさか、俺が覚えていないだけで、あれと同じことが密かに行われているのだろうか? 

 あれ? もしかして、俺の精神の犬化はケリーのせいなんじゃ……?


『……やったね、ヌー。……またハチミツることが出来るね』


 ハチミツるって何だよ!? お前まで俺に何やってんの!?

 ダルシーも俺の精神犬化問題の重要参考人だな。こいつらのせいで俺の心はどんどん犬に……。ああ、なんか腹立ってきたぞ……。

 しかし、ふつふつと湧き上がってきた怒りは、ジェイミーが読み上げた手紙の続きによって、一瞬にして消し飛ばされた。


「『ワンコ達にはドッグフードのプレゼントよぉ!』 だって! よかったね!」

「わわん!? わんわんわおーん!」


 まじ!? ドッグフード!? やったー! 超嬉しい!

 ドッグフードうまいんだよなぁー! 荒野に出てからもう食べれないと思っていた! うおー! 尻尾が勝手にブンブン動いてしまう!


『やったなダルシー! ドッグフードだってよ!』

『……え? ああ、うん。よかったね』

『おまっ……、なんでそんなテンション低いんだよ!? ドッグフードだぞ? ドッグフードだぞォ!? ドッグフード食べれるんだぞォォ!? うおおお! ドッグフードオオオオオ!!』

『……ヌー、ドッグフードそんなに好きだったんだ……。私はどっちかっていうと、人間の食べ物の方が好きだけど……』


 ハッ! また! また犬化が!? やはり食の好みまでも犬に!?

 でもドッグフードおいしいんだもん……。


「もうちょっと続きが書いてあるよ。『それとそれとぉ。最近、変な噂聞いたわよぉ。なんでもその荒野に、《ひゃくじゅうの魔女》って呼ばれるアブナイ人が居るんだってぇ。みんな気をつけてねぇ』……ひゃくじゅう? 何のことだろう?」


 ひゃくじゅう……?

 110ってことか?


「ひゃくじゅうの魔女……。110人の魔女がこの荒野に居るというのだろうか?」


 110人の魔女て。

 え? なに? わんダフルランドに行くには、まさかその110人の魔女を全員倒さないといけない展開?

 『1番目の魔女がやられたか……』『ククク、奴は我らの中でも最弱……』『我ら《110の魔女》の面汚しよ……』っていうの100回以上やるの? 何年かかるんだよ……。


「いや違うかも。110歳の魔女かもしれないよ〜」


 110歳の魔女! ただのババアじゃねぇか!

 でも110人の魔女よりかは現実的にあり得る話か。それに確かに、ババアの魔女ってアブナイ感じがして何か怖いな……。


『……110人の、110歳の魔女かも』


 ただのババアの集団じゃねーか! 逆にこえーわ!

 てかそれだと《ひゃくじゅうのひゃくじゅうの魔女》だろ!


「にゃにゃにゃっ! にゃーにゃーにゃー!」


 子猫も何か主張している。その名前が出て、どことなく怯えているように見えた。

 まぁ110人の魔女でも110歳の魔女でも、110人の110歳の魔女だったとしてもビビるよなぁ。

 《ひゃくじゅう》の答えが出ないまま、ジェイミーが、次が最後だよーっと言って手紙の最後を読み上げる。


「『それじゃあみんな! 旅頑張ってねぇ! 追伸、ダーちゃん、元気な赤ちゃん産むのよぉ』」

「ばう! ばうばうばう!!」


 ここにきてダルシーのテンションが一気に上がった……。


「あ、赤ちゃっ!? お、おいヌー! ダルシーに変なことはするなよ!? するなら私も混ぜ……あ! な、なんでもない!」


 なんなんだよコイツまじで……。噛み付いてやろうかな……。


「もう! さっきからみんな何の話してるの!? ずるい! 私も混ぜてよぅ!」


 やめろジェイミー! ケリーと同じ道に進んではいけない!


『……ヌー、元気な赤ちゃん作ろうね』


 ば、ばかやろう! 変なこと言うんじゃねぇ!

 冗談だと分かっているし、ツッコもうとしたのだが、ダルシーのその言葉に対する適切な言葉が見つからず、


『いや、あの、その、それは……』


 と、歯切れ悪く返答すると、


『なんなのもう! さっきから本当にヌーおかしいよ! 襲うよ!? 襲っちゃうからね!? いいのね!?』


 普段はワンテンポ遅れて言葉を発するダルシーが、息巻いて矢継ぎ早に詰め寄ってきた。

 こ、こわいよダルシー……。あと顔が近い……。ドキドキしちゃう……。

 一方で姉妹の方は、ぷんすかと怒るジェイミーに、ケリーが折れたようだ。


「わかったジェイミー……。お前にも、そろそろこのハチミツの使い方を教えよう……」

「ほんと!? わーい!」


 おいやめろ! ジェイミーに変なこと教えるんじゃない!

 つかこれ以上ハチミツを使うな! 俺の心がどんどん犬になってしまうワン!


『……さっそく今晩……いやでも心の準備が……どうしよう興奮してきた』


 何をブツブツ言ってるんだダルシー!

 ああーー! もうどいつもこいつもーー!!


「にゃー! にゃんにゃんにゃ! にゃにゃにゃ!」


 このカオスな状況に、今まで大人しくしていた子猫ちゃんがついにキレた。

 ああ、そんな姿も可愛い……。


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