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第4わん にゃんダフルな出会い②


「あ! お姉ちゃん! この子起きたよ!」

「おお、よかった」

「にゃにゃにゃ!? にゃんにゃ!?」


 目覚めるなり、子猫が困惑したように鳴いた。

 か、かわいい……かわいすぎる……。にゃんて可愛い鳴き声なんだ……。


「にゃうにゃう!? にゃにゃにゃ!」


 ジェイミーの谷間の隙間から、小さく悲鳴のようなものを上げながらバタバタと暴れる子猫の手足が見える。

 きっと状況が飲み込めず混乱しているのだろう。そんな声も可愛すぎるううううう!!


「お姉ちゃん、この子の言ってること分かる?」

「いや……私には、もう……」

「そっか……私もダメみたい」


 姉妹は悲しそうに顔を見合わせた。

 今の会話から察するに、にゃんダフルランド出身ということもあり、以前は猫語が理解できたのだろうか。

 当然、種族の違う俺にも子猫の言っていることは理解できない。ダルシーも同じようだ。


「まぁ、仕方ないよね……」


 ジェイミーは小さくため息をつくと、谷間から子猫を取り出して両手の平に乗せる。そして悲しそうな表情を一転させ、太陽のような笑顔で猫に微笑みかけた。


「おはよう、ねこちゃん」

「にゃん!? にゃにゃ!? にゃにゃん〜」


 ジェイミーの顔が近づいてきて、子猫は一瞬だけびっくりしたようだったが、どことなくホッとしたような表情に変わったのが分かった。

 雪のように真っ白な毛並み。小さいながらもスレンダーな身体付き。宝石のように美しいサファイヤ色の瞳。

 ああ……全てが……その全てが、俺のドストラクだ……。

 ……さっきから俺を見るダルシーの視線が冷たいが、気にしない。


「ねこちゃん、どこからきたのかにゃ〜?」

「にゃー! にゃにゃ! にゃにゃにゃん!」

「えへへ、ぜんぜん分かんないや」


 子猫は身振り手振りを使って、必死に何かを伝えたそうにしている。

 かわいい……可愛すぎるよぉ……。


「飼い主さんは……首輪してないからいなそうだね。お母さんはいないの?」

「にゃんにゃ! にゃにゃんにゃん!」


 あああああ! なにこの子!? 可愛すぎるんですけど!? 可愛すぎて頭おかしくなりそう!


『……あの子、人間の言葉がわかるのかな?』


 子猫の可愛さばかりに目が向いていたが、確かによく見ると、子猫はジェイミーの言葉に返答しているように見える。

 だけども、当然人間にも俺ら犬にも伝わらない。


『……あとヌー、子猫に発情しないで』

『しししししてねーって!!』


 ばばばばばば馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! 誰が子猫に発情なんかするか!

 俺はただ、子猫が可愛くて愛おしくて仕方がないだけだ! けっしてやましい気持ちはない!!


『……ポチ、おすわり』


 ダルシーが俺の股間のポチに語りかける。

 は、はぁああ? お座りしてるんですけどぉ?

 俺が精神を統一させ、クールダウンしている最中、ジェイミーは子猫を姉へと手渡していた。


「お姉ちゃんも何か話してみて!」

「え? あ、ああ」

「にゃう?」


 ケリーは小さな白い毛玉を優しく両手で受け取ると、顔の高さまで持ち上げ、顔と顔で向かい合った。

 難しい顔でまじまじと子猫を見つめるケリー。だが、


「か、かわいい……」


 ボソっとそんな声が聞こえ、ケリーの口元が綻ぶのが見えた。しかし、すぐに咳払いによって掻き消される。

 おほん、と一呼吸置き、ケリーは子猫に語り掛ける。


「あー、えっと、へへ、名前は、うへへ、名前はなんというんだ……?」


 破顔してしまいそうなのを必死に抑えながら、頬をピクピクと不自然に痙攣させるケリー。はたから見てると完全に危ない人だ。

 子猫もケリーの異常な雰囲気を感じたのか、


「にゃー!? にゃにゃにゃにゃー!!」


 叫び声を上げ、その小さく可愛らい前足を縦一文字に振り下ろす。


「あいたっ!?」


 小さな手の割に爪はしっかりと発達していたようで、ケリーの顔には額から顎にかけて綺麗な三本線が描かれていた。そこからぴゅーぴゅーと血が噴水のように吹き出している。


「にゃん!」


 ケリーが怯んだ隙に子猫は彼女の手から逃れ、ジェイミーの谷間へとダイブ。どうやらジェイミーには懐いたようだが、ケリーはダメなようだ。そういえば、ケリーは動物に嫌われる質だったなぁ……。


「ほ、ほう……。この猫……私と喧嘩がしたいようだな……?」


 ケリーのこめかみに青筋が浮かぶ。怒りによって頭部に血が上っているためか、顔面から血を吹き出していて面白いことになっていた。


「お、お姉ちゃん! こんな赤ちゃん相手に怒っちゃだめだよぅ!」

「くっ……」


 子猫を姉から庇うように抱き締めるジェイミー。猫ちゃんは胸の脂肪に押し潰されて苦しそうにしていたが、居心地は悪くなさそうだ。

 あそこは俺の定位置なのに……。でも可愛いから許しちゃう……。


「ねこちゃん大丈夫? お姉ちゃんの顔が怖かったから、びっくりしちゃっただけでちゅよね〜?」

「にゃ〜ん」


 いや、怖いだけじゃなくて気持ち悪かったからだと思うぞ?

 もしかしたらジェイミーは言葉をオブラートに包んだつもりだったのかもしれないが、ケリーにとっては十分ショックだったようで、


「こ、怖い……? 私、顔怖いのか……?」


 真っ赤だった顔が、一気に青ざめる。ぴゅーぴゅーと吹き出していた血飛沫の勢いが弱くなり、ダラダラと滴り落ちていた。こいつ出血大丈夫かよ……。

 突如、ケリーはグルンと顔を俺の方へ向けると、


「ヌー、私の顔怖いかなぁ?」


 血みどろの顔面で俺へと擦り寄ってくる。こえぇよ……超こえぇよ……ゾンビかよ……。

 ぶっちゃけ逃げたかったが、傷心のケリーに追い討ちをかけるのも可哀想だったので、くぅん、と優しく微笑んであげた。


「ヌぅぅぅぅぅぅ!!」


 すると信じらない速度でこちらへ駆け寄ってきたケリーは、勢いよく俺を抱き上げると、血みどろの顔を擦り寄せてきた。あまりの速度に回避が間に合わず、俺は成すがままにされてしまう。うわぁ……俺のモフッとしたプリティヘヤーに、血がべっとりと……。


「ああ、ヌー。私にはやっぱりお前だけだよ……」


 俺をモフモフしたことにより、ケリーの怒りは沈み、心の傷も回復したようだ。ちなみに顔の傷はジェイミーが魔法で綺麗さっぱり治してくれた。

 心身共に回復したケリーは、ふと思いついたように妹に尋ねる。いい加減離してほしいんだけど……。


「ところでジェイミー、その猫はオスか? メスか?」


 あ、その質問はまずい……。

 くるぞ、恒例の『アレ』が。


「ん〜? どれどれ〜?」

「にゃん?」


 子猫を太ももに仰向けに寝かせるジェイミー。子猫は訳も分からず、されるがままになっていた。

 そんな子猫の両足をジェイミーは優しく掴み、左右に広げて開脚する。

 恒例行事、開脚性別確認だ。


「にゃ、にゃあああああっ!? にゃにゃにゃにゃ!! にゃああああああああ!!」


 股間を曝け出し、恥ずかしいポーズをさせられ悲鳴を上げる子猫。どことなく赤面して涙目になっているように見える。

 ああああ可愛い……。恥ずかしそうな姿も可愛い……。


「女の子だね!」


 ほう……。女の子だったか。こんなに可愛いのだ。当然と言えば当然か。

 いや別に女の子だからどうとか無いよ? ほんとだよ? なんだよダルシー変な目で見るなよ。


「にゃう、にゃうぅぅぅ……」


 ようやくジェイミーが手を離し、子猫は解放される。猫はその場で丸まり、前足で顔を隠して啜り泣いていた。

 それにしても、さっきから人間っぽい仕草をする猫だなぁ。猫の鳴き声の意味は分からないが、『お嫁に行けないよぉ……』と体が語っているような気がする。ああ可愛い。


「とりあえず、この猫ちゃんは私達が面倒見てあげようか!」

「そうだな」

「にゃっ!?」


 蹲っていた子猫だが、その言葉を聞いてピン! と耳と尻尾を立てて顔を上げた。どことなく嬉しそうな顔をしている気がする。


「まずは名前付けてあげないとねっ!」

「ああ。かわい……かっこいい名前を付けてあげよう」

「にゃー!」


 嬉しそうに鳴く子猫。

 だけど、すぐに姉妹の壊滅的なネーミングセンスに絶望することになるだろう。


「そうだねー、タマちゃんなんてどう?」

「にゃあ!?」


 さぁ、魔の時間がやってきたぞ……。


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