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犬転生 〜わんダフル異世界冒険記〜  作者: 鍋豚
第2章 冒険編
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第2わん わんダフルランドを目指して


 逃走したケリーをジェイミーが連れ帰ってきて、その後俺たちはしばらく四人で(正確には二人と二匹で)川で水浴び、というか水遊びをした。

 最初はめっちゃ恥ずかしがっていたケリーも、時間が経つにつれて徐々に羞恥心は薄れていったようで、水遊びに夢中になっていた。だけどきっと明日になったらリセットされていることだろう。毎日それを繰り返しているのだ。はやくジェイミーのように外で全裸になることに慣れてほしいものだ。


 一方で俺はというと、ダルシーに指摘されたことがショックで、水遊びに集中できなかった。

 頑張って姉妹をエロい目で見ようと試みたものの、やはり『美しい』という感想しか出てこず、性欲は湧き上がってこない。二十五歳にして早くもEDになってしまった気分である。それどころか、気を抜くと水が滴るダルシーの尻尾ばかり目で追ってしまい、さらに危機感を覚えていた。ダルシーのヤツ、なんてエッチな尻尾をしているんだ……。



 しばらくして日が傾き気温が下がり始めたので、俺たちは川から上がることにした。

 俺とダルシーが身体をブルブルと震わせて水を跳ね飛ばしていると、ジェイミーが杖を持ってきて、そこから暖かいそよ風を発して毛を乾かしてくれる。まるでドライヤーだ。ドライヤー魔法と命名しよう。魔法とは便利なものだ。実際、この旅はジェイミーの魔法にかなり助けられている。

 ドライヤー魔法を発している最中、ジェイミーのお腹がきゅるるる……と小さく鳴き声を上げた。彼女は照れたようにはにかみながら、ケリーに尋ねる。


「お姉ちゃん、まだ食べ物残ってるの?」

「ああ、この前の肉がまだ残っているぞ」


 この一ヶ月、食料は出発前にアマンダさんから貰った携帯用の保存食と、荒野の動物やモンスターを狩って採取する肉で賄っていた。運が良いときは川魚を見つけられることもあるが、魚を獲れるのは稀だし、携帯食料は早々に食べ尽くしてしまったので、現在は食事を摂るためには基本的に狩りをする必要があった。

 荒野にはシマウマやバッファローのような動物を始め、俺の元居た世界の野生動物と似通った生物が数多く生息している。 しかし外見はよく似ていても、火を吹いたり翼が生えていたりで、自分が異世界にいるのだと改めて実感させられるばかりだ。


「あー、あのミニドラゴンのお肉かぁ〜。ちょっと筋っぽくて食べにくいんだよね〜」


 時々モンスターにも出くわすが、正直俺たちの敵ではない。

 基本的にジェイミーが魔法で戦うのだが、妹ばかりに苦労させられないと、武器を持たないケリーも戦闘に参加し、驚いたことに素手でモンスターを撃退してしまうのだ。先日ドラゴンに襲われた時なんか、ドラゴンを素手でボコボコにして追い返してちょっと軽く引いたくらいだ。もともと強かった二人だが、このサバイバル生活を通して一層たくましくなったみたいだ。


「文句を言うんじゃない。だけど困ったな。そろそろ狩りをしないと、今日で食料が底をついてしまう」


 言いながらケリーは、ボロボロになって穴が空きそうな荷袋から、氷漬けになった肉の塊を取り出した。ドラゴンから採取した肉を、ジェイミーの魔法で冷凍保存していたのだ。

 ジェイミーの魔法は、戦闘から調理・保存・洗濯まで、幅広く役立っている。非常に便利だ。一家に一人魔法使いが欲しいものだな。


「なんだかここら辺、動物とかモンスターが少ないよね?」

「ああ、私もそう思っていた。ここら一帯、何かおかしい。何か気がつくことはないか? ダルシー、ヌー?」

「ばぅぅ」

「くぅうん」


 俺達は首を傾げる。

 実際、ここ数日間は他の生物に出くわしていないし、気配も感じていない。近くに生物がいれば臭いで分かるのだ。俺の犬化が進行してきたせいか、1km以上先の動物の臭いまで感じ取ることができるのに、ここら辺は全く臭わなかった。

 こんなことは今までなかった。ケリーの言う通り、何かおかしなことが起きているのだろうか。


「はいできたよ! どうぞ! ヌーちゃん、ダーちゃん!」

「わん!」

「ばぅ!」


 そうこうしているうちにジェイミーは魔法で肉を解凍し、俺達に差し出してくれた。生肉にがっつく俺とダルシー。

 うまいうまい。今日もかなり歩いたから腹減ってたんだよな〜。生肉うまい。生肉もうまいけど、やっぱりドッグフード食べたいなぁ〜。ああ〜街で食べたあの味、忘れられない。また食べたいなぁ……。

 そんなことを考えながら肉を食べていると、


『……ヌー、生肉好きになったんだね。……前は嫌々食べてたみたいだったけど』


 言われ、肉を食べる手(正確には口)が止まった。

 そうだ。俺は旅を開始した当初、生肉を食べるのにすごく抵抗があった。味もそうだが、まさにケモノって感じがして嫌だったんだ。だけど、ここ最近はむしろ好んで食べているくらいだ。

 しかも俺は今何を考えていた? ドッグフードを食べたい? なんてことを考えていたんだ!

 まさか食の好みも犬に近づきつつあるのだろうか……。


「どうしたのヌーちゃん、美味しくないの?」


 ショックを受けて項垂れていると、自分達が食べるための肉を焼いていたジェイミーが、心配したように俺の額を撫でてくれた。


「なんだか元気がないみたいだな。そういえば、川で遊んだ時も少し元気なかった気がする」


 見透かされていたとは……。さすが俺の飼い主様だ。


「どこか調子悪いの?」

「わんわんわん!」


 俺は心配を掛けまいとブンブンと首を振って、元気アピールをするためにその場でピョンピョン跳ねて見せた。

 そんな俺をケリーは捕まえ、しげしげと俺の身体を観察する。


「怪我をしているわけではなさそうだな。もしかして、肉に飽きたのか?」

「最近お肉しか食べてないもんね〜。私も野菜食べた〜い」


 顔、背中、腹と、俺の身体をくまなく検査していたケリーは、最後に俺の下腹部に居るポチを見ると、顔を真っ赤にして俺を地面に降ろした。俺自身、犬化でヤバイことになっているが、こいつも相当だな。いや、もともとか。


「ま、まぁ、単に疲れているのかもしれない。今日は早めに休もう」

「そうだね〜」


 姉妹は交互に俺を優しく撫でてくれる。

 ああ、撫でられるのキモチイイわん……。ハッ! また犬語が……。


『……元気出してね、ヌー』


 ダルシーも頬を摺り寄せて励ましてくれた。思わずドキッとしてしまう。


 みんな気を使ってくれている……。

 心配かけないように、あまりみんなの前では犬化について悩まないでおくワン……。


◇◇◇◇◇


 食事を終えると、俺とダルシーはすぐに床に就いた。

 姉妹は明日からの食料をどうするかについて少し相談していたようだが、良い案も出なかったようで、彼女らもすぐに就寝したようだ。

 夜の荒野は肌寒かったが、布団がなくても耐えられるレベルだった。俺が犬だから寒さに強いだけかもしれないが。


 そして朝方。喉の渇きを覚え、目が覚めた。まだ薄暗いが空の端が少し明るくなっている。

 耳にかかる寝息がくすぐったい。振り返ると、ジェイミーの天使のような寝顔があった。モニョモニョと口を動かしている。何か食べている夢を見ているのだろうか。

 ケリーはというと、ダルシーをギュッと抱きしめて、そのモフモフの黒毛に顔を擦り寄せて幸せそうに眠っている。寝苦しそうなダルシーに同情する一方で、ケリーが羨ましく思えた。

 彼女たちはぐっすりと眠っている。モンスターの巣食う荒野の真っ只中だというのに、危機感がまるで感じられない寝顔だ。まぁモンスターに寝込みを襲われそうになった場合は、俺とダルシーのドッグイヤーがすぐさま反応するから問題ないけど。

 ジェイミーに抱かれながら眠っていた俺は、彼女を起こさないように慎重に抜け出し、てちてちと川へ向かった。


 川の流れは相変わらず緩やかだった。俺は水面に口を近づけ、水を飲む。

 水面に映る、自身の影。

 犬。ドッグ。ワンちゃん。わんわん。

 犬に転生して、一ヶ月。

 ダルシーにも指摘されたように、自分がどんどん人間から遠ざかっていっているような気がして怖い。

 だけども一方で、犬としての生活も悪くはないかなと思っている自分がいて、さらに焦燥感が高まる。

 早い所わんダフルランドに行き、人間に戻らなくては……。


 と、その時。

 何か嗅ぎ慣れない臭いを感じ、それと同時に視界の端で何か白いものが動くのが見えた。

 反射的に顔を上げると、川の中央を直径1メートルくらいの木片が流れており、その上に白い物体が乗っている。

 なんだろうと思って目を凝らすが、まだ太陽が昇っていないためによく見えない。が、その物体のシルエットが、僅かに上下に運動しているのが見えた。

 ーー呼吸しているのだ。


「わん!?」


 俺は慌てて川にダイブする。確証はないが、何かの生物が流されていると思ったのだ。恐らく川の流れのせいで、ここまで近づくまで臭いに気が付かなかったのだろう。

 川の水は昼間に比べると大分冷たい。しかし構わず俺は犬かきをして、木片に向かう。犬化が進んだ影響か、犬かきもかなり上達している。流れも緩やかであったこともあり、あっという間に木片に到着した。


「わん! わんわん!」


 木片の上にグッタリと寝そべる白い生物に声をかけるが、反応がない。毛は水でびっしょりと濡れていて、ガクガクと震えている。丸まってこちらに背を向けているので、この生物が何か分からなかった。そこでグイッと前足でその身体を押してみると、こてん、と軽々しくひっくり返って、その正体が明らかになる。


 真っ白な子猫が、そこに居た。



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