第27わん バースト・バスト
ジェイミーとケリーが、人間ではない。
ダルシーのように人間に化けた、他の動物。
茶髪男のその仮説は、真偽は定かではないが、二人の反応から察するに本当である可能性が高い。
信じられなかった。まだ頭の整理がついていない。
しかし、今はそのことについて深く考える余裕は無さそうだ。
「キャンキャンキャン!」
俺は目の前の大男に向け、威嚇するように吠える。
「なんだこの犬。可愛いなオイ」
が、俺のヴィジュアルと鳴き声があまりにも可愛いため、周囲の男達の雰囲気が少し和んだだけだった。
俺達を囲うは、武装した二十名ほどの集団。カネで茶髪男に雇われた傭兵ってところだろうか。
「その犬は殺していいぞ。女達は捕まえろ。無傷でな」
当の茶髪男は、武装集団の陰に隠れて偉そうに踏ん反り返っている。
ムカつく野郎だ。今すぐ肉球でブン殴ってやりたい。しかし奴をブン殴るにしても、ここから逃げるとしても、まずはこの武装集団をなんとかしなければならない。
「ヌーちゃん! 危ないから戻っておいで!」
「ヌー! ジェイミーの所へ戻れ!」
背後からジェイミーが駆け寄る気配を感じる。こんな状況でも俺を心配してくれるなんて嬉しい限りだ。
だが心配ご無用。彼女の手が俺を捉える前に、目の前の大男へ向かって、てちてちと走り出す。
身長二メートルはあるだろうか。まるで巨人に立ち向かっている気分だ。大男はキュートに駆け寄ってくる俺を見据え、
「ごめんなワンちゃん。かわいそうだが、命令とあっちゃ仕方がねぇ」
大きさも重さも俺の数倍はあるだろう大斧を掲げる。
男の身長と合わさって、三メートルほど上空に煌めく鋼の斧。
背後でジェイミーの悲鳴とケリーの怒声が混ざり合う。
あんなので叩きつけれたら、さすがの俺の可愛いボディでも一溜まりもなさそうだ。
しかし男の斧を上げるモーションがあまりにも遅すぎて、腹がガラ空きとなっていた。俺のことを犬と侮って余裕ぶっているのだろう。
男がようやく斧を振り下ろそうとした瞬間、俺は地面を思い切り蹴り、隙だらけの腹に向かって弾丸のように飛びかかる。
男の腹部は鉄の胴当てによって守られていたが、構うことなくそのまま頭から激突。
「ヌーちゃん!」
背後からジェイミーの悲鳴。耳元で鉄が凹む鈍い音。そして頭上の男の口から漏れる「ぐぇ」っという奇妙な声。
同時に聞こえたそれらの音は、次の瞬間には男が地面に倒れた轟音によって掻き消される。斧は彼の手から離れ、地面に落下。刃が土を抉り、深々と街道に突き刺さった。
砂埃を巻き起こしながら派手に背中から倒れた男に目を遣ると、白目を向き、泡を吹いてピクピクと痙攣しながら失神していた。腹の鎧は、中央に鉄球でも落としたかのように小さなヘコみができている。
訪れる静寂。
この場の誰もが、たった今起こった出来事に理解が追いついていないようだ。そんな静寂を打ち破るように、
「わん!」
俺は勝ち誇ったように吠えながら、周囲の男を睨みつける。
だがきっと睨んでいる顔も可愛いのだろう。今だけは自分の可愛らしさが腹立たしい。
「な、なん……」
武装集団はあんぐりと口を開けて、俺と気絶した斧の男を交互に見ていた。茶髪男も同様だ。アホみたいな顔をして口をパクパクさせている。
当然の反応だろう。俺のような可愛い犬が突然弾丸のような速度で体当たりをし、あまつさえ金属の鎧をヘコませて大男を失神させたのだ。
「ヌー……ちゃん?」
ジェイミーとケリーも状況が飲み込めなようで、目をまん丸に見開いて茫然と俺を見ていた。
この場にいる全員が、可愛い俺の凶悪な姿を目の当たりにして沈黙する。
そんな中、一足先に状況を飲み込んだ茶髪男が、困惑した声で喚き散らす。
「な、なにしてる! その犬を殺せ!」
茶髪の一声で武装集団の意識も現実に戻ってきたようで、慌てて武器を構え俺を取り囲もうとした。
だが俺はそれよりも一瞬速く地面を蹴る。そして再び弾丸のような速度で、一番近くに居た男の腹へ体当たり。腹を守る頑丈な鎧と俺の小さな頭が衝突し、ベコっという間抜けな音が響く。金属の鎧が陥没した音だ。直後、男の目がグルンと白目に反転し、自重を支えきれず仰向けに身体を崩す。俺は体勢が崩れるその男を足場として、さらに別の男の腹へ頭から突っ込む。
それを繰り返し、武装集団の間をピンボールのように乱反射。俺はあっという間に六人の武装男の意識を飛ばした。
「な、なんだこの犬! バケモンかよ!」
あまりの速度と鉄をも凹ます頭突きを目の当たりにして、武装集団が警戒体勢に入り、一歩後退する。
いける。
二十人もの武装した人間と戦うのは少し不安だったが、俺のこのパワーとスピードがあれば問題なく勝てる。鉄に頭突きしても痛くも痒くもない。複数のドラゴンを同時に相手したことに比べれば、どうってことない戦闘だった。
「くそ! これでも喰らえ!」
背後から矢が放たれた気配を感じる。鋭い矢が空気を切り裂いて直進してくる。まるで皮膚で空気の動きを感じることが出来るみたいだ。それほどまでに、俺の神経は研ぎ澄まされているのだ。
俺は矢に目を遣ることもなく一歩横にずれて、それを容易く回避。続けて別の方向から鎖で繋がれた鉄球が飛んできたが、それも余裕でかわす。
弱い。弱すぎる。
いや違う。俺が強いのだ。
まさか自分が、ここまで圧倒的に強いとは。相手を殺さないように手加減する方がよっぽど大変だ。敵とはいえ、人を殺すのは抵抗がある。だから頭突きしたのも、腹部を防具で保護している男だけだ。それでもきっと骨の何本かは折れてしまったかもしれない。腹を守ってない奴に体当たりしたら、下手すると貫通してしまうかも。
「なにやってんだ! 犬なんかに手こずりやがって!」
仲間を盾に、安全な所から偉そうに言う茶髪。早くあいつの頬を俺のこのキュートな肉球でぶっ飛ばしてやりたい。
武装集団や茶髪男は、もはや本来の目的であるジェイミー達に目もくれず、俺という不気味な存在にしか注意を払っていなかった。
チラリと横目で姉妹の方見ると、すっかり蚊帳の外な二人は未だに目の前の状況について来れていないようで、口を半開きにしてぼぅっと俺を見つめている。
ああ、ついに見られてしまった。
可愛い姿に隠された、チート的な強さ。俺の本性。
武装集団はどうにでもなる。一番の懸念点は、俺のこの振る舞いを見て、二人に嫌われたり恐れられたりしないか。そして捨てられないかだ。
ずっとそれを恐れていたが、今の二人の茫然とする表情から予測するに、もう俺のことを可愛いペットとして見てくれない可能性が高い。
まぁ、当然の反応だ。こんな凶暴な本性を見てもなお可愛いペットとして扱ってくれる方がどうかしている。
……悲しいが、ジェイミーとケリーとは、ここでお別れかもしれない。
「うおおおお!!」
叫び声の方に視線を移すと、直剣を持って男が突撃してきていた。しかし彼は防具を一切つけていなかったため、腹に頭突きする訳にもいかなかった。避けるのは容易いが、それでは相手を無力化できない。
仕方ない。少々危険だが、剣を爪で切り裂いてみよう。俺の爪は一度鉄の檻をも容易く切断した。こうして振り下ろされる直剣も、同様に斬り裂ける気がする。武器が破壊されれば、この敵を無力化できるだろう。
俺は振り下ろされる刃を見据え、爪で対抗するタイミングを計る。
だが、
「ヌーちゃん!」
ジェイミーの声が聞こえたかと思うと、俺の身体は何者かに掴まれて宙に浮いた。一瞬敵かと思ったが、甘いローズの香りが鼻に届き、俺を持ち上げたのはジェイミー自身だと気がついた。
いつの間に俺の元まで駆け付けたのだろう。気づかなかった。斬りつけられようとする俺を見て、彼女はようやく現実に引き戻されたのだろうか。
ジェイミーはいつものように俺を胸の谷間に挟んで抱き締める。そしてあろうことか、剣を振り下ろす男に向けて背を向けてその場に蹲ってしまった。俺を守ろうとする動きだろう。しかしこのままでは、ジェイミーは背中から斬りつけられてしまう。
俺は慌てて彼女の胸から脱出しようと試みるが、柔らかい肉でがっちりとホールドされ、身動きが取れなかった。やばい、ジェイミーが斬られる――と身構えたが、
「ジェイミー!」
ジェイミーの身体の向こう側から、ケリーの声と共に何かがぶつかる音、男の小さな悲鳴、そして人間が倒れ武器が落下する金属音が立て続けに聞こえてきた。
「大丈夫か!? 二人とも!」
姉の声を受け、ジェイミーは立ち上がり、振り返る。
そこには、拳を赤くして立つケリーと、数メートル先で白目を向いて倒れる男。
大の男を数メートルほど殴り飛ばして尚且つ失神させるとは……さすがケリー。
「まったく。無茶すんじゃない、ヌー」
「そうだよぅ、ヌーちゃん。心配したんだよ」
ケリーは叱責するように、しかし優しく俺を嗜めながら、倒れた男が落とした直剣を拾いに行く。
一方ジェイミーは俺の頭を優しく撫で、もう逃がさないと言わんばかりに胸をきゅっと寄せて俺の身体を拘束した。
――二人とも、変わらず接してきてくれた。
俺のあんな凶暴な姿を見ても、いつものように変わらず。それに加えて、自らの身を呈して守ろうともしてくれた。
素直に嬉しかった。
二人が変わらず俺を愛でてくれることが。
それと同時に、自分が情けなく思えた。
凶暴な姿を見せることで二人に嫌われるのではないかと散々恐れていたが、結局二人の愛を信用しきれていなかっただけなのだ。
でも、今なら分かる。俺がどんな姿を見せたとしても、二人は俺を変わらず愛してくれる。
――例え、俺が火を噴いたとしても。
「おいテメェら! 何やってんだ! 女と犬なんかにやられてんじゃねぇよ! もう怪我させてもいい! とっとと捕まえろ!」
茶髪男が怒りと焦りを含んだ声で喚き散らす。
それを引き金にして、残った男達が一斉に武器を構え、三六〇度、四方八方から襲い掛かってきた。
「ジェイミー!」
ケリーは襲いかかる男達を、拾った剣でいとも容易く撃退する。
しかしジェイミーは魔法を使うための武器を持たない。ケリーは武器を拾うために数メートルほど離れてしまったことが仇となり、すぐに妹の元に駆け寄れそうになかった。
目の前に迫る男に対してどうすることも出来ず、ジェイミーはただ目を閉じて身構える。しかし俺を守るために、ぎゅっと胸を寄せて俺の身体をさらに谷間の奥へ埋め込んだ。それによって俺の身体は彼女の衣服の中へ完全に入ってしまい、顔もほとんど谷間に埋もれてしまう。もはや口くらいしか外に出ていなかった。
しかし、それが幸いした。
わずかに外に出ている口から空気を取り込み、肺を満たす。
「へへっ! 悪いなお嬢ちゃん!」
ジェイミーを捉えようとする男の姿が、胸の肉の隙間から微かに見えた。
俺はそいつに直接当てないように、彼の頭上に向けて狙いを定める。
そして、肺に溜まった空気を、思い切り吹き出す。
「え」
男から間の抜けた声が聞こえたが、それは空気を焼く轟音に掻き消される。
――ドラゴン・ブレス。
俺の可愛いお口から噴出された可愛くない炎は、目の前の男の毛髪を掠め、そして一瞬のうちに消滅した。
誤ってジェイミーの胸を焼かないようにブレスの量を少なくしたため、火炎も僅かにしか放射されなかったのだ。
しかし突如として現れた紅の火炎はこの場に居た全員に目撃されたようで、周囲に毛髪の焦げた嫌な臭いが漂う中、再び静寂が訪れる。
「ヌー……ちゃん……?」
静寂の中、ジェイミーの驚愕に満ちた声が頭上から聞こえる。
視線を上に移すと、宝石のような瞳が最大限に開かれ、そこに俺が映されていた。
「火……だと……?」
続けて、同じようにケリーからも驚きの声が上がる。
「ジェ、ジェイミー……? 火を……噴いた……?」
「お、お姉ちゃん……」
姉妹が視線を交わす。
お互いが驚愕のあまり、見つめ合ったまましばらく沈黙する。
「ジェイミー……」
先に口を開いたのはケリーだった。
ゆっくりと、そして慎重に、たった今目にしたものを口にするケリー。
「ジェイミーの胸が火を噴いた!?」
はぁあああ!?
「え!? ち、ちがうよぅ! お姉ちゃん!」
「ジェイミー……お前、杖がなくても魔法が使えるんだな……。それも胸からなんて……」
「だから違うって!」
そうか。俺がジェイミーの大きな胸に埋もれていたために、横から見ていたケリーにはジェイミーの胸から火が出たように見えたのだ。
それは周囲の武装集団も同じようで、
「ま、まじかよ……」
「あの子のおっぱい、火ぃ吹くのかよ……」
「すげぇ……巨乳すげぇ……」
「巨乳に焼かれてぇ……」
などとざわめきが起こっていた。
ジェイミーはぴょんぴょん跳ねて一生懸命否定するが、もはや男共の視線は彼女の豊かに揺れる胸にしか注がれていない。
そこで何故かケリーはがっくりと項垂れて、自らの小さな膨らみに手を当てながら、悲しそうに呟く。
「巨乳には……そんな使い方もあるんだな……私の胸も……いつか火出るかなぁ……」
「何言ってるのお姉ちゃん!? 出るわけないでしょ!」
「なんだと!? 私の胸はもう成長の見込みがないと言うのか!? 火を吹く見込みはないというのか!?
「そんなの絶対ないよぅ!」
「ひどい!」
バッサリと否定するジェイミー。
今のはケリーの後半の問いに対する答えだよな!? そうだよな!? 決してケリーの胸に成長の見込みがないって言いたいわけじゃないよな!?
ケリーはどっちの意味で受けとったのだろうか、その一言でノックダウンしてしまった。
一方で突然の炎に動揺していた男達だが、
「くそっ! おっぱいファイヤーがなんだ! 構うな! 行け!」
「お、おっぱいファイヤー!? へ、変な名前付けないでよぅ!」
「うおおお! おっぱいいいいいい!!!」
もはや男達は目的を忘れ、ジェイミーの巨乳に一目散に向かってくる。
俺は遠慮なく、向かってくるエロ男達に向けておっぱいファイヤーもといドラゴン・ブレスをお見舞いする。勢いよく前方に息を吹きかけることによって、熱が極力ジェイミーに伝わらないように注意しながら。
ジェイミーの胸から放たれた(ように見える)火炎は、男達の衣服をかすめ、そこに着火する。男達はパニックになるかと思いきや、「巨乳の火がついた!」とかなんとか言いながら、嬉しそうに騒いで足を止めた。よくわからんが、もう戦意は無くなったようなので良しとしよう。
「すごい! おっぱいファイヤーすごい! 」
自分のおっぱいからは炎が出ないことを知って落ち込んでいたケリーだが、豪快なジェイミーのおっぱいファイヤーを見て、落胆よりも興奮が上回ってきたようだ。
「ジェイミー! 次の敵だ! おっぱいファイヤーで蹴散らせ! 」
「だから私じゃないって! ヌーちゃんが!」
「くぅん?」
「ヌーちゃん!?」
ジェイミーには悪いが、ここはみんなに合わせよう。俺はとぼけたように首を傾げておいた。続けてケリーも首を傾げる。
「さすがのヌーでも火を吹くわけないだろう。おっぱいが火を吹く方がまだ現実的だ」
そうなの!?
ケリーにとって巨乳は摩訶不思議で神秘的な存在なのだろうか……。
「うぅ〜もぅ〜。ヌーちゃんのばかぁ〜」
ジェイミーは弁解するのを諦めたように項垂れながら、自らの乳房を寄せて上げ、それを突撃してくる男達に向ける。そして、恥ずかしそうに顔を赤らめて、
「お、おっぱいふぁいやぁ!!」
俺はそのかけ声と共に、敵の服や武器を目掛けて火炎を発射。男達はやけに嬉しそうにその炎を正面から受け止め、無力化される。興奮しているからか、おっぱいではなく俺が火を吹いていることに気がつかないようだ。
……よし、おっぱいファイヤーがあればこの武装集団を突破できそうだ。コイツらはもうおっぱいにしか興味はないようだし。
だがそこで、
「調子に乗るなよ。何がおっぱいファイヤーだ」
茶髪男の苛立った声と共に響く、乾いた破裂音。
甲高い音が響き、辺りが三度目の静寂に包まれる。
その音には心当たりがあった。
――銃声だ。
ジェイミーが振り返ることで、茶髪が天に向けて銃を構えているのが視界に入った。
「ば、馬鹿な……銃だと……?」
「ひひっ、珍しいだろ。高かったんだぜぇ、コレ」
まさか、この世界に銃があるとは。
いや、文明レベルとしては中世チックな感じだし、あっても不思議ではない。
しかし魔法の存在するこの世界において銃は珍しいようで、ケリーはおろか武装集団も物珍しそうに銃を見ている。
「おおっと、動くなよ。妹に風穴が開くぜ」
現代世界ではあまり見かけることのなくなった、大部分が木製で出来ていて銃身がやや長い銃。ゴテゴテに装飾された銃は、本来は観賞用なのだろうか。
男はそれをジェイミーに向け、ケリーを制止させる。
「へっ、お前のおっぱいファイヤーと俺の銃、どっちが速いかな?」
「ヌーちゃん……」
まずい……。
俺が炎を吐くためには、息を吸い込んで吹き出す必要があるので、どうしても一瞬隙が出来てしまう。
加えて炎の進行速度もそこまで速くはないから、俺が火を噴いた後に引き金を引かれれば間違いなくこちらが負ける。
俺だけならまだしも、狙われているのはジェイミーだ。
どうする……。炎を噴くのは諦めて、もう一度体当たりをかますか……?
だが、いくら弾丸のように俺のスピードが速いからと言って、さすがに本物の弾丸には勝てないだろう。
いや、でも俺のステータスなら、もしかすると……
グルグルと思考している最中、『ステータス』という言葉を思いかべたので、それに伴って脳内にステータスが思い浮かんできた。
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名前:ヌプティヌスヌクレドヌ
性別:オス
犬種:PM・ラニアン
年齢:生後5日目
血統書:あり
レベル:32
スキル:言語理解、芸達者、ドラゴン・ブレス
称号:ノラのボス
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そこで、今まで存在していなかったとある項目に気がつく。
『称号:ノラのボス』
いつからこんなものが? 少なくとも、前回ステータスを確認したときには存在していなかった。ノラって、野良犬のノラのことだろうか……。だとすると、心当たりはある。
俺とダルシーに因縁をつけて絡んできたブルドッグ達。俺は奴らを撃退するために、圧倒的な力を見せて屈服させた。その結果、ブルドッグを含めた野良犬たちは、俺のことをボスと認め、命令を聞くようになったのだ。
あの一件によって、この称号:ノラのボスを手に入れたのだろうか。それしか考えられない。
同時に、ブルドッグの一匹が言っていた言葉を思い出す。
――何か困ったことがあれば遠吠えしてください。すぐ駆けつけるんで。
あの時の路地裏で、敵のブルドッグは遠吠えをあげて三十匹余りの野良犬を集結させた。
それがノラのボスの特権だというのなら、今の俺にも出来るのだろうか。
「よぉし、大人しくしとけよ? お前ら、捕まえろ」
迫り来る男達。
試す価値はある。
俺はすぅっと息を吸い込み、そして、叫ぶ。
「わおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」
俺の可愛い遠吠えが、街中に響いた。