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番外編 空白の三ヶ月

お待たせしました……。

約三ヶ月ぶりの更新です。

遅くなってしまい本当に申し訳ありません……。



「ヌーちゃ〜ん!」


 背後から俺のことを呼ぶジェイミーの声が聞こえる。相変わらず天使のような声だ。聞いているだけで心が安らかになる。その声と共にふんわりと鼻に届くローズの香りが心地良い。


「わう〜ん!」


 俺は彼女の方に振り返り、いつものようにその豊満な谷間へとジャンプしようと足に力を込める。――が、いつもと違う彼女の様子に、飛び出す寸前で足が止まった。


「わ、わうん……?」


 違和感の正体にはすぐに気がつくことが出来た。

 まず第一に、彼女が全裸だったこと。

 そして第二に、彼女の腹部が、少しだけ膨らんでいたこと。


「ヌーちゃん……もう、三ヶ月だね……」


 そう言いながら、膨らんだ腹部を優しくさするジェイミー。

 さ、三ヶ月……? な、なんのこと?


「おい、ヌー!」


 と、その時、背後からケリーの声が聞こえた。


「わ、わん!」


 いつもと異なるジェイミーの姿に困惑していたが、ケリーの声が聞こえてきたため少し安堵した。爽やかなシトラスの香りが気分を落ち着かせてくれる気がする。

 ケリ〜! ジェイミーの様子がおかしいんだよ〜! と、姉に向かって泣き付こうとするが、


「ヌー……もう、三ヶ月だな……」


 妹と同じく、いつもと様子の異なるケリーの姿に、再び足が止まる。

 ジェイミーと同様に、全裸で、腹部が少し膨らんだケリー。普段は凛々しい顔つきの彼女が、まるで母のような優しい表情で腹部に手を添えている。


「三ヶ月だ。ヌー」

「もう三ヶ月経ったんだよ、ヌーちゃん」


 姉妹は、別に太ったという訳ではない。

 太ったというよりも、体内に何かが居るかのように、下腹部が張っている。

 さ、三ヶ月……まさか……冗談だよな……?


「私、元気なヌーちゃんの赤ちゃん産むからね!」

「私もだ。ヌーの子ども……きっと立派な戦士になるだろう!」

「わおおおおおおん!!??」


 うわあああ!?

 嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だぁぁぁぁぁぁ!! 


 信じられない光景を受け入れることが出来ず、俺は姉妹達から逃げるように駆け出した。


「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわん!!」


 狂ったように吠えながら、狂ったように走った。事実から逃げるように。

 嘘だ。嘘に決まっている。ありえない。ジェイミーとケリーが俺の子どもを……? ありえないありえない!


 ……てか、ここはどこだ? 

 真っ白い空間。何もない。白い床だけが、果てしなく続いている。まるで、犬に転生する前に犬神と出会った空間のようだ。

 と、その時。


「ばぅ」


 呟くように小さく、それでいて透き通るように響く鳴き声が、背後から耳に届いた。

 聞き慣れたその鳴き声。そして、ハチミツの甘い香り。慌てて足を止め、声の聞こえた方向に目を向ける。


『……ヌー』


 真っ黒な毛並みを携えた、大きな犬。レモンのように黄色い瞳が美しい。


『ダ、ダルシー!』


 俺の視線は、真っ先に彼女の腹部に向かった。

 大きく……ない! よかった! ダルシーはいつもと同じだ!

 安心したためか、涙声になりながら俺はダルシーに駆け寄ろうとする。


『ダルシぃ〜! ジェイミーとケリーが……二人の様子がおかしいんだ! たすけ――』


 しかしそこで、


「きゃう!」


 という可愛らしい鳴き声が聞こえ、足が硬直した。

 その鳴き声が子犬のものだとすぐに分かった。声色的に俺よりも子ども、というよりも赤ちゃんの声だ。

 声の方向は、ダルシーの背後。

 彼女の大きな身体に隠されて気が付かなかったが、彼女が一歩横に移動したことによって、そこに居るものを視認した。


「きゃう!」

「きゃうん!」

「きゃんっきゃんっ!」


 可愛らしく、一生懸命俺に吠えている、十匹ほどの小さな子犬達。

 黒いモフモフの毛並みで、どことなく手足が俺のものと似ているな、と思った。

 子犬達は俺を見つけるなり、嬉しそうに尻尾を振り回し、ピョコピョコと俺の方へ駆け寄ってくる。


『……三ヶ月』


 ダルシーの声が耳に届く。


『……三ヶ月もあれば……犬は……出産できるんだよ』

『うわあああああああ!!!!』


 さっきから一体なんなんだぁぁぁぁ!! まったく覚えがないぞ!!

 踵を返して慌てて逃げようとするが、その前に子犬達が俺のことを取り囲んだので身動きが取れなくなってしまった。


「ヌーく〜ん」


 不意に聞こえる、眠たそうな声。

 見ると、ダルシーの傍にアマンダさんが立っていた。

 真っ先に腹部を確認。よし、膨らんでいない。そもそも全裸じゃない。アマンダさんだけがマトモ――


「三ヶ月」


 え?


「もう三ヶ月経ったのよぉ。そろそろ私のことを、お義母さん、って呼んでもいいんじゃない?」


 マトモじゃなかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 

 なんなのこれ!? なんなんだよぉぉぉぉ!!


「ヌーちゃん!」

「ヌー!」


 うわぁ!?

 いつの間にかジェイミーとケリーに追いつかれた!


『……ヌー……いや……アナタ』


 だれがアナタじゃああああ!!!!

 なんだよ、みんな一体どうしちゃったんだよ!

 まさか、俺がみんなを……いやいや! まったく記憶がないぞ! 誰か、誰か助けて――


「まったく、そうぞうしいのぅ……」


 そ、その声は……!


「うるさくて眠れんじゃないか――」


 い、犬神ぃ!! 助けてくれ! 犬神様――


「わらわとヌーの子が」

「わおおおおおおおおおん!?!?!?」


 犬神が大事そうに抱きかかえる、犬の耳と尻尾の生えた小さな赤ん坊。

 それを見た瞬間、俺の脳はパンクして、目の前が真っ白になった――



リハビリのために(お酒を飲みながら)書いた番外編でした。

本編の続きもすぐに投稿します。

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