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犬転生 〜わんダフル異世界冒険記〜  作者: 鍋豚
第1章 転生編
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プロローグ 犬の神はケモミミ少女


「どこだここ……」


 気がついたら、見知らぬ空間に居た。

 何もない、真っ白な空間。ここがどこか、どうやってここに来たのかも覚えていない。


「おぬしは死んだのじゃ」


 そんな何もない空間で、背後から突然声をかけられた。

 驚いて振り返ると、そこには和服の女の子が。


「キミは……?」


 女の子、と表現したが、どうやら人間ではない。

 なぜかと言うと、彼女の頭部に、犬のような耳が生えていたからだ。

 見た目は若くて可愛らしい中学生くらいの少女だが、人間ではない。ケモミミ少女だ。


「わらわは、神じゃ」

「神!?」

「詳しく言うと、犬の神じゃ」

「犬の神!?」


 よく見ると、彼女の腰の辺りから、もふもふの尻尾が生えていた。

 ぴょこぴょこ動く頭の耳といい、ゆったりと左右に揺れる腰の尻尾といい、偽物とは思えない。本当にそこから生えているように見える。

 現実ではあり得ないこの姿により、彼女が『神』であることを、不思議と信じることができた。


「で、犬神さんが俺になんの用で?」

「名字みたいに呼ぶでない。犬の神じゃ。……もう一度言うが、おぬしは死んだ」


 『死』。

 その言葉が、脳に響く。

 それが引き金になり、徐々にここに来る前の出来事が頭に思い浮かんできた。


「死んだ……。そうだ……思い出してきた。俺は、犬っころを助けようとして、それで……」


  道を歩いていると、よちよちと子犬が車道に飛び出してきた。向かいからは大型トラック。運転手は慌てて急ブレーキを踏んだようだが、到底間に合うものではなかった。

 考える前に、身体は咄嗟に動いた。気がつくと、自分でも驚くべき速度で子犬のところまで走っていたのだ。


「そうか……俺、死んだのか……」


 走り出した後のことは良く覚えていないが、どうやら俺はそのままトラックに轢かれて死んでしまったらしい。

 となると、ここは死後の世界だろうか。


「そうじゃ、子犬を守ってな」

「子犬は無事だったのか?」

「ああ、おぬしのお陰でな」

「そりゃ良かった」


 死んだというのに、後悔や恐怖はなかった。不思議とその事実を受け入れることができる。

 二十五年、平凡な人生だったなぁ。 

 そんな思いに耽っていると、犬の神と名乗った少女は、そのクリっとした可愛らしい目で、俺の顔を探るように見つめてきた。


「ふむ……。自らの命を捨ててまで子犬を救い、死んでもなお自分より子犬の心配をするとは……。おぬし、相当な犬好きじゃな?」

「いや……」


 実のところ、犬はそこまで好きじゃない。嫌いなわけじゃないが、どちらかと言うと猫派だ。

 自分でも子犬を救ったのが信じられないくらいだ。ただ失われそうな命を目前にして、反射的に身体が動いただけかもしれない。犬だから助けた、というわけじゃないのだ。

 ――でも、それを正直に話すのはやめといたほうがいいな。なんたって俺の目の前にいるのは、犬の神だ。なによりも、彼女の期待に輝く目を裏切れない。


「あぁ……。犬、めっちゃ好きッス」

「そうじゃろう、そうじゃろう! そうじゃと思っておったぞ!」


 犬神の尻尾が、嬉しそうに大きく左右に揺れ始める。ここら辺は本当に犬だな。


「そんなおぬしの犬への愛に、わらわは感動した! そこで、犬の神として、子犬の命を救ってくれたおぬしにお礼をしたいと思っておる!」

「お礼?」

「そうじゃ! おぬしに、新しい命を与えよう!」

「マジで!?」


 それって転生ってことか!? 犬神そんなこと出来んの!? スゲー!

 犬が好きって言っておいてよかった……。


「おぬしが猫派とか言ったら、猫の毛に住むダニに転生させるつもりじゃったが……」


 マジで言っておいてよかった……。


「わらわは犬好きのおぬしのことが気に入った! 剣と魔法の世界に転生させよう!」

「魔法の世界!? スゲー! ドラゴンとかいんの!?」

「ああ、いるぞ!」


 うおー! 犬神スゲー! そんなファンタジーな異世界に転生できるとは!


「さらに犬好きのおぬしには、新しい世界で勇者として活躍できるように、高ステータスに設定しておいてやろう!」

「やったー!」


 勇者! マジかよ! 犬神なんでもできるのかよ!


「ところでおぬし、好きな動物は?」

「え……?」


 唐突にそんなことを聞いてくる犬神。耳をぴょこぴょこと動かし、期待の視線を俺に向ける。

 これは……犬って言っておくべきだよな……。ほんとは猫が好きだけど。


「……犬」

「よぉし! おぬしには言語理解能力も授けよう! 赤子のうちから異世界の言語を理解できるぞ!」

「マジで!?」


 犬の神だからか、犬が好かれるのが余程嬉しいようだ。こんなにサービスしてくれるとは……。

 もしかして、もっと犬好きをアピールすれば、もっとサービスしてくれるかも……?


「一つ、質問していいか?」

「ん? なんじゃ?」

「そ、その異世界には、犬もいるのか?」


 俺のその言葉に、犬神のケモミミが、ピン! と反応した。


「ああ、もちろんいるぞ! 嬉しいか!?」

「めっちゃ嬉しい! なんたって俺は犬が何より好きだからな!」


 熱を込めて言うと、犬神はさらに力強く尻尾を振った。


「そうかそうか! ならば、大サービスじゃ! おぬしには特別なスキルも与えよう!」

「うおお! それって俺だけの特別なスキルみたいな!?」

「そうじゃ! おぬしだけのユニークスキルじゃ!」


 キター! 異世界転生! 勇者! チートステータス! ユニークスキル! これはもう異世界で大活躍してハーレム確定だ!

 ククク、どうやら俺の予想は当たったようだ。この犬神は、犬好きをアピールすればサービスしてくれる。よっしゃ! ここはもっとアピールしておこう!


「うおお! 犬! 犬大好き! 犬ラブ! わんわんわん!」

「……そうか。そこまで犬が好きなら、人間よりもむしろ……」


 犬神はニヤリと笑って小さく何かを呟いていたが、テンションの上がっていた俺には良く聞き取れなかった。


「よし、じゃあそろそろ転生させるぞ?」


 あれ、もうサービスは終了か。まぁいい。貰えそうなものはものは全て貰った。チートステータスとユニークスキルがあれば十分だ。


「ああ、頼む!」


 すると突然、俺の身体が目映い光を放ち始めた。どうやら転生の始まりらしい。

 うおー! 楽しみ! 異世界楽しみ! イケメンに転生出来るといいな〜。


「最後にもう一度聞こう。犬は好きか?」

「大好き大好き! 超大好き!」


 犬神は心底嬉しそうに尻尾を振りながら、大きく頷いた。


「なら、大丈夫じゃろう」


 え? なにが? 

 質問をする前に、俺の身体は光に包まれ、意識は途絶えた。



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