ふたたびのペロペロとかまってちゃん
うちのキッチンにある窓はちいさい。
そして格子がついている。
どういう役割りでここに格子がついているのかは、よくわからない。
でも、キッチンやお風呂の窓には、わりとついていると思う。
そういうものなのだ。
キッチンで洗い物をしていると、ときどきうちの猫が近づいてくることがある。
わざとすぐそばにやって来て、「ちょっと、水を飛ばさないでよね。迷惑なのよね」という顔をして、鼻を鳴らして去っていく。
寄って来なければいいと思うのだけれど、そういうわけにはいかないらしい。
そのうちの猫が窓枠に座り、格子の向こうを眺めていた。
なんとなく観察していると、格子のすき間に頭を突っ込んでしまった。
――えっ? 大丈夫なんですか、これ。挟まっちゃうんじゃないですか?
と思っているあいだに、スルリと格子を抜けて、外へ出てしまった。
こういうことができるのはうちの猫くらいだ。
ボスやシマシマシッポでは、こうはいかない。からだがつっかえてしまう。
シマシマシッポなんかは、猫というよりタヌキに近い見た目になってきている。
――それはいいとして、自分で外に出られるようになったんですね。
家の中に入るときは、二階のトイレの窓から入ることができる。
これじゃあ僕はいらないんじゃないか、と思ったりした。
考えてみると、最近あまり呼ばれていない気がする。
窓を開けるのが、僕の主な役目だったから、呼ばれる理由がないのだ。
――ちょっと寂しいんですけど……。
と思ったりもした。
夜中にクローゼットから、鳴き声が聞こえてきた。
――また閉じこめられたんですか? もう。変なところに入っちゃうからですよ。
と声のほうへ向かうと、クローゼットの扉は開いている。
「どうしたんですか? これなら出られます……よね?」
「ふうーん」
うちの猫はなかなか出ようとはしない。
――なんで出ないんですか? 眠いんですけど……。
しばらくして、ようやくうちの猫が動いた。
ゆっくりとドアにからだをこすりつけるようにして、歩いていく。
「もう変なところに入っちゃダメですよ」
「ふうーん」
と会話をして、しっかりドアを閉めて、僕は眠りについた。
別の日には、キッチンから鳴き声が聞こえた。
エサ入れの前で、「ううーん」と鳴き続けている。
「お腹空いたんですか? 珍しいですね。でもカリカリが入っていませんでしたっけ?」
と見てみると、しっかり入っている。
ちょいちょいと、エサ入れをつついて、
「ほら、見てください。ここにありますよ。カリカリです。もうすでにカリカリは用意してあるんです」
と言うと、「仕方ないわね」という感じで食べていた。
何のために呼ばれたのか、ちょっとわからない状況だった。
その後も不可解な呼ばれかたが続いた。
――もしかして。
と僕は思った。
うちの猫はかまって欲しくて呼んでいるんじゃないだろうか。
用事はないけど、僕のことを呼びたくて、それでおかしなことになっているのかもしれない。
そう考えると嬉しくなった。
夕食が終わると、僕はうちの猫を探した。
「もー、そういうことなら言ってくれればいいんですよ。甘えたいときに甘えていいんですからね」
とうちの猫の前に、新鮮なアジの切り身をひと切れ置いた。
うちの猫は新鮮なものだと食べてくれる可能性が高い。
あくまで可能性の話で、実際にどうなるかはうちの猫の気分次第だ。
様子を見ていると、ペロリと切り身を舐めた。
食べる気になったようだ。
なぜ切り身を用意したのかというと、うちの猫に何かプレゼントをあげたかったからだ。
不器用ながら甘えてきてくれたお礼だ。
うちの猫は切り身をペロペロして、転がしていた。
そして、「ちょっとこれじゃあ大きすぎるんだけど」という顔で僕を見つめた。
「もー、仕方ないですねー」
と切り身をちいさくして、うちの猫の前に置く。
うちの猫はペロペロと、少しずつ切り身を食べていた。
こういう風に甘えてくるのはいいのだけれど、うちの猫が僕を呼ぶのは夜中が多い。
「ふうーん、ふうーん」
という声に起こされて、
「はい。このドアは開いてましたね。なかに入っていいですよ」
「ううーん?」
と相手をしている。




