うちの元気さん
僕が家を出ると、ドタドタと生き物が走る音が聞こえた。
シマシマシッポだ。
――やっぱり走る音にも重さを感じますね。
と思った。
少なくとも軽やかではない。
かなり速いけれど。
シマシマシッポは僕を目がけて走ってきていた。
耳を伏せて、わりと必死な様子だ。
僕の見送りをしたいのかもしれない。
こんなに懐かれるとは、最初会ったときには思わなかった。
嬉しい誤算だ。
「やあやあ、ありがとうございます。そんなに急がなくても大丈夫ですよ。僕は逃げませんからね」
しかしシマシマシッポはスピードを緩めない。
そのまま僕の目の前を通り過ぎていく。
「えっ、あのー?」
勢いはそのままで、玄関先の木を駆け上がる。
――駆け上がるというか、抱きつきながら強引にからだを引きずりあげるというか……。猫ってこんな登り方しますか……? なんかヤシの実取りの名人みたいな……。
そうして無理やりに登り、手ごろな横枝のところで止まる。
そこから僕を見下ろして、ドヤァという顔をしていた。
「いや、木登りができるようになったのはすごいですけど、いまやることですか……?」
手を伸ばして触ろうとすると、遊んでもらえると思ったのか、木の枝にからだを隠すようにして、顔だけをひょこひょこのぞかせていた。
別の日に、リビングの窓を開けるとシマシマシッポが飛び込んできた。
「おー、今日も元気ですねー」
と走るのを見送る。
階段を登っていくようだ。
――なんか遠慮なしですね……。入っていいとは言ってないんですけど。まあ、荒らさないんならいいでしょう。
シマシマシッポは二階のトイレの窓が気になるようだ。
――ここはうちの子が入って来るところですよね?
ぴょんと窓枠に飛び乗って、外を確認している。
窓の外は、すぐに屋根となっている。
そこへパッと飛び出して、屋根の上をウロウロする。
「落ちないですか? 危なかったらすぐに戻ってきてください」
シマシマシッポは危なげなくうろついている。
怖がる様子もない。
興味津々といった感じで、周囲を見回している。
ときおり僕を見て、「アオ、アオ」と何かを訴えかけていた。
「もしかして、僕も一緒に遊ぼうって誘っていますか?」
「アオッ」
「それは嫌ですよ。僕が屋根の上に登ったら、落ちてしまいます。大怪我するかもしれません」
「アオウ?」
やがて諦めたのか、シマシマシッポはひとりでにおいを嗅いだりして遊んでいた。
家のなかに戻れるように窓を開けたままにして、僕はその場を離れた。
しばらく経って、屋根を見ると、シマシマシッポの姿はない。
――もう遊び終わりましたか。うーん、でも……。
家に入ってきた姿は見ていない。
――まさか、落ちてないですよね。そんなに大きな音もしなかったし……。
ひと通り、家の周りを歩いて、異常がないことを確認して、「やっぱりそうだよね」と満足して、僕は家のなかに戻っていった。




