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長いシッポとの戦い

 ちょっと用事があって裏庭の倉庫に行くと、シマシマシッポが僕を見つけて駆け寄ってきた。

 足元に座って僕が動くのを待ち構えている。

 いつでも走り出せる姿勢だ。


「あはは……。遊びにきたんじゃないんですけど……。困りましたね。こっそり来たのにすぐに見つかっちゃいましたね」


 そこへボスが通りかかった。

 トットットッと、ちょっと跳ねるようにしながら歩いている。

 そして、跳ねるのと同時に鳴いている。


「ニャッニャッニャッ」


 なんだかすごく機嫌が良さそうだ。

 怪我が治ったからかもしれない。


「ほら、ちょうどいいです。遊んでもらったらいいですよ」


 シマシマシッポのおしりを押すと、僕とボスのどちらのほうへ行こうか迷っているようで、キョロキョロと視線を動かしていた。

 ボスは「ニャッニャッ」と鳴きながら、立ち止まらずに、そのまま隣の家へ消えていった。

 それをシマシマシッポが見送る。


「あらー、行っちゃいましたよ」


 シマシマシッポはじっと僕を見つめた。

「何して遊ぶの?」という顔だ。


「もう、仕方ないですね……」


 ため息をついた。

 座っているだけでも苦しくなるような暑さだ。

 正直なところ、あんまり動きたくはなかった。


 座ったまま頭をポンポン叩いたり、お腹を触るだけでも楽しいようで、シマシマシッポは地面を転がりながら僕の手を肉きゅうでタッチしていた。

 相変わらず元気がいい。

 テンションもかなり高い。

 しばらくすると、シマシマシッポは立ち上がり、周囲をキョロキョロと見回した。

 何かを見つけたようだ。

 くるりと振り返り、またキョロキョロとする。


 ――何があるんですか?


 くるりくるりと振り返って、シマシマシッポは地面に倒れこんだ。

 そして、からだを丸め、前足を伸ばして一生懸命何かを捕まえようとしている。


「あはは。それはシッポですよ」


 シマシマシッポの前足の先で、長いシッポがふわりふわりと動いている。

 自分のシッポなのに、気になりだすととまらないようだ。

 倒れたまま、じたばたと回転をする。

 ようやく捕まえて、ガジガジと噛んでいた。

 捕まえたのはシッポではない。


「えっ、それは足ですよ……? 足でもいいんですか……?」


 そんなシマシマシッポの様子を眺めて、ちょっと落ち着くのを待って抱きかかえた。

 思い付いたことがあるのだ。


「こっちで遊んでみましょうか」


 と駐車場へ連れていく。

 そして停めてある車の上に乗せる。


 ボスが車の上にいるのはよく見るけど、シマシマシッポを見かけたことはない。

 自力では登れないのかもしれない。

 乗せてみたらどうなるのだろう、と思ったのだ。


 シマシマシッポは行儀よくちょこんと座って、目をパチパチさせていた。

 背筋を伸ばして、からだ全体で直角三角形を作るように座っている。

 背中が斜辺だ。


 ――緊張してるんですか?


 人指しゆびを鼻の前につき出すと、直角三角形のまま、前足でペシペシと人指しゆびに触れる。


 ――じゃあ、これはどうですか?


 僕はしゃがんで、車の影に隠れた。

 シマシマシッポからは見えない位置だ。

 少しして、顔をひょこりと出す。

 シマシマシッポは「えっ!」という表情で僕を見つめて、前足でそっと鼻を押さえつけてきた。


 ――ふふ、かくれんぼはうちの猫も好きなんですよ。


 しゃがんだままぐるりと反対側に回って顔を出すと、やはりびっくりした表情で鼻を押さえてきた。


 ――あはは。楽しいですね!


 そうして車の周りをぐるぐる回っていると、足元で「ギャッ!」という声が聞こえた。

 見ると、うちの猫が逃げていくところだった。

 僕が蹴ってしまったらしい。

 車の上ばかり見ていたから気づかなかった。


「うわー! ごめんなさい。大丈夫ですか?」


 そんなに強い衝撃ではなかったけれど、心配で駆け寄った。


「フウンフウン……」


 うちの猫が悲しそうに鳴いている。


「怪我はないですか?」


「フウウン……」


 見たところ、どこにも怪我はないようだ。


「痛かったですね。ごめんなさい」


「フウン……」


「わざとじゃないんですよ」


「フウン……?」


 と話していると、今度は車の方でドタバタという音がした。

 シマシマシッポが飛び降りたらしい。

 音からすると、落ちたのかもしれない。


 ――こんなときにそっちも? 大丈夫ですか?


 シマシマシッポは無事だったようだ。

 車の下から顔を出して、元気よく駆け寄ってきた。

 すると悲しそうに鳴いていたうちの猫の様子が一変した。

 からだを膨らませて、「クワー!」と鳴いて、フックのように横からパンチを喰らわせる。

 シマシマシッポは尻餅をついて、一目散に走り去っていった。


 ――あらー、これはあとでお詫びしないといけませんね……。


 うちの猫はまた元通り、悲しそうに「フウンフウン」と鳴いていた。


 ――まあ、これは僕が蹴っちゃったせいでもありますし……。


 これ以上ややこしくなる前に帰りましょう、と僕はうちの猫を抱きかかえた。


「あんまり意地悪しないであげてくださいね」


 と言うと、


「ウウーン」


 という答えが返ってきた。

 シマシマシッポに対してもこのくらいのテンションで接したらいいのに、と思う。

 ふと思い付いて、


「わざとぶつかって、遊ぶのを邪魔したわけじゃないんですよね?」


 と聞くと、


「フウーン?」


 という返事だった。

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