うちのけだるい調教
相変わらず、うちの猫はゴロンと横になって動かないことが多い。
おでこの辺りを撫でていると、目をつぶって、ちいさく「キュウ……」と鳴いていた。
夏バテだと鳴き声まで変わってしまうらしい。
からだを熱心に舐めているのを見て、僕は手を伸ばした。
舐めていたところをなぞるように、手のひらで撫でる。
うちの猫はこれが嫌なようで、僕が触ったところをもう一度丁寧に舐めなおす。
怒るわけではなくて、「もう、困っちゃうのよね」という感じで、熱心に舐める。
その困っている顔が見たくて、つい手を伸ばしてしまうのだ。
僕が触る。
触ったところを、うちの猫が舐める。
触る。
舐める。
淡々と、同じ行動を繰り返している。
どさくさに紛れて手を舐めてもらえるかな、と触ったまま待っていたら、うちの猫もピタッと止まって待っていた。
そう簡単にペロペロはしてくれないようた。
――あれ? ちょっと冷たいですね。
触ってみて気づいた。
舐めたところはほんの少し温度が下がっている。
ついでに湿っている。
温度が下がっているように感じるのは、「打ち水」とかと同じ原理だろうか。
熱心に舐めていたのは、このためだったのかもしれない。
――へえ、なかなか賢いですね。
うちの猫なりの暑さ対策をしているようだった。
シマシマシッポはといえば、まったく夏バテする様子はなかった。
家の周りを元気に走りまわっている。
しゃがんで手を叩くと駆け寄ってくる。
口からほんのすこし舌をはみ出させて、仰向けになり、前足で肉きゅうタッチをしてくる。
――かわいいですけど、ここまでくるとさすがに自覚してやっていますよね……。
ちょっと飽きれながら、しかしかわいいという気持ちには抵抗できずに、僕はシマシマシッポを撫でまわした。
別のときに、うちの猫が庭で横になっているのも見かけた。
ゆっくりとまばたきをして、「もう動くつもりはないわよ」という様子だ。
外にいようが、夏バテは変わらないらしい。
庭の奥のほうには、シマシマシッポもいた。
うちの猫と同じように横になっている。
しかしこちらは目はぱっちり開いて、耳をぴくぴく動かして、「はやく遊ぼう!」という顔だ。
しばらくして、シマシマシッポが動き出した。
頭を低くして、そろりと立ち上がる。
少しずつ、うちの猫に近づいている。
うちの猫も気づいたようだ。
目を大きく開いて、威嚇するように、前足をバンと地面に叩きつけて、立ち上がるふりをした。
シマシマシッポはピタッと止まって、静かに横になった。
近づくのはやめにしたようだ。
――あはは。順調に調教されていますね。
シマシマシッポはあきらめたように耳を伏せている。
うちの猫は、「それでいいのよ」というように目を閉じて、落ち着いていた。
ちなみにボスは駐車場の車の上にいた。
「みんなで遊ばないんですか?」
と言っても動かない。
「フゴフゴ」という返事はあった。
手を伸ばしても、ちょうど届かないところに寝転んでいる。
動こうとしない。
――うーん、ボスも夏バテでしょうか。
どうやら元気なのはシマシマシッポくらいのようだ。
――むしろ、なんでシマシマシッポだけは元気なんでしょうね。
うちの猫にも夏バテしない秘密を教えて欲しいと思った。




