うちの肉きゅうタッチ!
裏庭に置いていた椅子のうえに、ボスがおかしな格好で座っていた。
背もたれの部分に顔面を押し付けるようにして、ギュッと目をつぶっている。
かなり強く押し付けているようで、クッションに顔がめり込んでしまっていた。
――どういう座りかたなんですか、これ……?
顔を無理矢理押し付けているせいで、首が縮まっていて、とてもリラックスしているようではない。
しかしそのままの姿勢で、ボスはまったく動かない。
耳は反応しているので、僕には気づいているはずなのに。
ふと椅子の下を見ると、脚のすき間にはシマシマシッポが寝転んでいた。
ボスをチラリと見上げて、「あうー?」と鳴いている。
「どうしたんでしょうね」
と言っても反応はなかった。
雨が続いているせいで、ストレスがたまっているのかもしれない。
それが原因で、おかしな行動をしているように思えた。
――まあ、暴れたりしないんならいいですけど……。
無理な姿勢でジッと動かないでいるボスの姿は、何かの修行をしているようにも見えた。
曇り空、雨が降っていないときに庭へ出ると、シマシマシッポが落ち着かない様子でウロウロしていた。
藤棚を見上げて、ときおりビクッと視線を動かしている。
「どうしました? 何かいましたか?」
と声をかけても、藤棚に夢中だ。
我慢できなくなったように、ダダッと駆け寄っていく。
僕の手首くらいの太さのツルに抱きつき、立ち上がった。
そして、藤のツルに抱きついたまま、ずるずるとすべり落ちてきた。
地面に寝転んで、「あうあう」と鳴いている。
「あはは、何してるんですか。遊んでるんですか?」
シマシマシッポはうちの猫と違ってそこそこ運動神経がいい。
僕と話しているときに、突然飛び上がってジャンプをして、チョウチョを叩き落としたこともある。
だからこのときの行動はふざけているようにしか見えなかった。
またビクッと藤棚に反応して、ツルに抱きつく。
そしてずるずるとすべり落ちる。
「えっ? 本当に登れないんですか? そもそも抱きつくのがおかしいんですよ?」
シマシマシッポの前足を持って、ツルに乗せる。
「ほら、こうやって爪をたてるんですよ」
と言っても、シマシマシッポは爪を出そうとはしない。
藤のツルを肉きゅうでタッチしている。
「それじゃあ絶対に登れませんよ……」
そういえば、いままでシマシマシッポに爪をたてられた記憶はない。
常に肉きゅうタッチだ。
もしかすると、爪のたてかたがわからないのかもしれない。
「うーん、でも教えようがないですし……。引っかく癖がつくのも困りますし……」
その後も藤棚が気になるようだったので、
「これなら近くで見られますよ」
と、僕の頭のうえに乗せてみると、気に入ったらしく頭に抱きついて、しばらく降りようとしなかった。
結局藤棚に何がいたのかは謎のままだった。
うちの猫はというと、雨があんまり続いているせいで、外に出かける気力もなくなってしまったようだった。
いつ見ても、僕が用意した段ボールの中で丸くなっている。
「気に入ったのはいいんですけど、たまには遊んでくださいよー」
と触ろうとすると、段ボールの中から猫パンチで攻撃されてしまう。
――あっ、そうだ。
と僕は思った。
「これは気に入るかもしれませんよー」
うちの猫の隙をついてだき抱え、頭のうえに乗せようとすると、「ギャワー! クワー!」と大騒ぎをして、頭に爪をたてられてしまった。
――そんなこと教えてないはずなのに……。
せめて蹴るのはやめてくださいよ、と首をさすりながら僕は思った。




