うちのホラースポット
コンビニへ行こうと歩いていると、道の真ん中に、一匹の猫が寝そべっているのが見えた。
――うちの猫に似ていますね……?
近づくと、それは似ている猫ではなかった。
寝そべっていたのは、うちの猫だった。
場所はコンビニと自宅との中間地点。
こんなところでうちの猫と会うとは思わなかった。
「珍しいですね? こんなに遠くに出かけてるなんて」
と声をかけても、特に返事はない。
反応もない。
満足げに目を細めて、「この道路は私のものよ」というようにからだを長くしている。
――邪魔をしたら機嫌が悪くなりそうですね……。
というわけで、うちの猫を避けるように、そっと道の端を歩いたのだけれど、少し進んでから気になることがあって振り向いた。
――これ、危なくないですかね。
うちの猫は道の真ん中で寝ている。
ここは車がギリギリ2台通れるくらいの道で、交通量は少ない。
だからといって、道の真ん中で寝そべるのはどうなんだろうと思う。
――車が来たら、ちゃんと避けられるんでしょうか……。
いままでもうちの猫は自由に外へ出かけて、怪我ひとつせずに帰ってきている。
車が危険なことくらい、わかっているはずだ。
心配ないはず。
だが、目の前で寝そべっているのを見ると、どうしても不安になってしまう。
と、突然うちの猫が飛び起きて、道路脇の生け垣へ走っていった。
警戒した姿勢で、腰を半分浮かせて、どこか遠くを見つめている。
視線の先、かなり遠くに交差点があった。
そこを一台の車がゆっくり通りすぎていった。
――この様子なら心配ないですね……。
うちの猫は気が強いけれど、けっこうなビビリだ。
あんなに遠くの車を警戒している。
これなら車にひかれるということはなさそうだ。
あらためてそのことを確認して、ひと安心した。
***
家に帰ってくると、駐車スペースに奇妙なものが落ちていた。
――これは……トカゲ!?
トカゲの遺体が、乾いてペラペラになって転がっていた。
ほとんど原型をとどめていない。
トカゲの干物だ。
夏になると、こういうトカゲの干物が道に落ちていることがある。
――夏の風物詩ですね。もうそんな季節になったんですねえ……あれ、こっちにも。
よく見ると駐車スペースには、5体の干物が落ちていた。
――なんでこんなに干物がうちの駐車スペースに……? いったい何があったんです?
猫がトカゲで遊んで、ここに放置したのかもしれない。
だが、うちの猫はトカゲの死体には興味がないようだ。
コンビニから帰ってきた僕のあとについてきて、干物を横目でちらりと眺めて、そのまま歩いていった。
そういえば、最近トカゲを持って帰ることは、ほとんどない。
――うーん、じゃあ、シマシマシッポですか? こういうこと、やりそうですね……。
駐車スペースへトコトコと歩いてきて、口を半開きにして、トカゲをぽとりと落とす。
そして次のトカゲを探しに行く。
そんな姿が目に浮かぶようだった。
これがただなんとなく集めてみたものなのか、保存食としてとっておくつもりなのか、シマシマシッポのやりたいことはわからなない。
でもほうっておくのはまずそうだ。
5匹くらいなら、近所のひとも気づかないだろうけど、このままどんどん増えていくとさすがに目立ってしまう。
大量のトカゲの干物が散乱する駐車スペースは、ちょっとしたホラースポットになりそうだった。
近所のうわさにもなるだろう。
――そもそもあんまり気分のいいものでもないですし……。
シマシマシッポには一度注意しておく必要がある、と僕は思った。
***
数日後、草刈りをしていると、シマシマシッポが駆け寄ってきた。
――あ、そういえば……。
と干物のことを思い出した。
「あのー、うちの駐車場でトカゲの干物を作っていますよね。ああいうのはやめてくださいね」
僕が言うと、シマシマシッポが「アウワウワウ」と鳴いた。
この日のシマシマシッポは妙にテンションが高くて、うろうろしながらずっと「アウアウ」と鳴いている。
それが必死にいいわけをしているようにも見えて、思わず笑ってしまった。
「あんなにたくさん必要ないでしょう」
「ファウ、アウアウ、ニャッニャッ」
「必要ないのに捕まえて、無駄に干物にするのはさすがにかわいそうですよ」
「ンアッア、アウーアオワオ」
「あそこは干物を作るところじゃなくて、車を停めるところなんですよ」
「アウハウ、ワーウニャウニャウ」
最後にはテンションが上がって堪えきれなくなったように、「フルルル」とのどを鳴らしながらおでこを僕の足に押し付けてきた。
「もう、しょうがないですね……」
なんだかよくわからないまま、押しきられてしまった。
結局なぜトカゲを集めるのかも、今後のトカゲの処分についても、何もわからないままだ。
猫としゃべっている僕を、通りすがりのおじさんが不思議そうに眺めていく。
――あはは……。変な顔で見られてしまいました。
この調子でしゃべっていると、ある意味ホラースポットとして、うわさになってしまうかもしれない。
「誰のせいだと思ってるんですかー」
おでこをぺちんと叩くと、シマシマシッポはきょとんとした顔で、
「アウワウ」
と答えた。
そうですね……。
僕のせいですね……。




