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うちのサンドバッグ(ひどい)

「暑いですねー」


 と窓を開けると、うっすら風が入ってきた。

 生暖かいけれど、これでも何もしないよりはマシだ。


「夏になるとまだまだ暑くなるんでしょうね……」

 

 ため息をついていると、「あうー」と足元から声がかかった。

 シマシマシッポだ。

 窓のすぐそばに行儀よく座っている。


「あはは、猫も暑いですよね」


 と僕が言った瞬間、強い風が吹いた。

 カーテンが部屋の中に舞い上がり、それから反動で窓の外へふわりと広がる。

 シマシマシッポはびっくりしたらしい。

 ぴょんと飛び上がって、バシッとカーテンを叩いた。

 そのままつま先立ちの姿勢で、カーテンに手をかけている。


 ――思わず反応しちゃうんですね。やっぱり猫ですねー。


 微笑ましく見守っていると、どうもシマシマシッポの様子がおかしい。

 立ち上がったまま、姿勢が変わらない。

 カーテンに手をかけて、つま先でちょこちょこ歩いている。


「あは。もしかして、爪が引っかかっちゃったんですか?」


「いま外しますよ」と手を伸ばそうとした僕の横を、するりとうちの猫が通りすぎた。

 シマシマシッポに近づいて、頭を叩き始める。

 ペチン。

 ペチン。

 ペチン。

 爪が引っかかって、カーテンに釣り下がった状態のシマシマシッポには、なすすべもない。

 まるでサンドバッグだ。


「ちょ、ちょっと! なんてことしてるんですか。やめてあげてください」


 叩くうちに瞳孔が開いて、だんだんノリノリになってきている。

 ひげも横に広がっていた。


 ――どSじゃないですか……。どうしたんですか……。


 うちの猫のおしりを叩いて、なんとかやめさせることには成功した。

 そのあいだもシマシマシッポはぶら下がったままだった。


「災難でしたね。一方的に攻撃できるチャンスは見逃さないんですね……」


 と爪を外すと、「何してるの?」という顔をしていた。

 状況がよくわかっていないらしい。

 うちの猫に頭を叩かれているときも、あまり反応していなかった。


 ――この子も大丈夫でしょうか……。


 よくボスと一緒にいるせいか、妙なところでおおらかというかのんびりしている気がする。


 ――へんな性癖は受け継がないでくださいね。


 と思ったけれど、シマシマシッポはやっぱりわかっていないようだった。



 ***



 ぶらりと庭に出ると、シマシマシッポが庭石の上で寝転んでいた。


「ふふ、ちょうどいい場所……でもないですね」


 庭石の上部は水平になっていない。

 からだを微妙にナナメにして、しかしシマシマシッポはそこから動く気はないようだった。

 アクビまでしている。


 ――気に入ったんですかね……。


 そこへうちの猫が歩いてきた。


「この子、なんでこんなところで寝てるのよ……」


 という顔で、庭石の周りを円を描くようにして、迂回する。

 シマシマシッポがだらしなく前足を伸ばして、うちの猫を触ろうとした。

 ギリギリ届いていない。


「あうー」


 前足を伸ばしたまま、シマシマシッポの視線がうちの猫を追いかける。

 そのせいで、からだのバランスが崩れた。

 前足を伸ばしたままの姿勢で、シマシマシッポは、庭石の向こう側にずるずるとすべり落ちていった。


 ――なにそれ……。そんなの野生の生き物の行動じゃないですよ……。


 地面に落ちたシマシマシッポを確認すると、


「えっ? どうしたの?」


 という顔でパチパチ瞬きをしていた。

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