表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/215

雨の日の猫たち

 5月に入って、雨の日が続いている。

 うちの猫が不機嫌そうに窓の外を眺めることも多くなった。


「ちょっと! 出れないわよ!」


 窓をひっかくので、慌てて開けると、じっと座っている。窓の縁に足を乗せたままで、そこから外に出ようとはしない。


「やっぱり。これじゃあ出れないわよ……」


 と濡れた地面を悲しそうに見つめている。

 こういうときは、気晴らしのためにネズミを持ってきても相手をしてもらえない。

 僕が近づくと鼻をならして走り去って、バリバリバリと爪研ぎを始めてしまう。



 裏庭をのぞくと、窓の向こう、ちょうど雨がしのげるようになっているスペースに、シマシマシッポがちょこんと座っていた。

 シマシマシッポもこの天気には不満があるようで、僕を見つめて、「あうわうわーう!」と鳴いている。

 その声に気づいて、うちの猫もやってくる。

 僕の背中に隠れて、シャドウボクシングのように、空中に猫パンチを放っていた。シャドウ猫パンチだ。

 うちの猫は安全地帯にいると、さらに気が強くなる。


「雨ですし、そんなに嫌がらないであげましょうよ」


 と言っても、わかってくれたようではない。そもそも雨で機嫌が悪いから、この態度は仕方ないのかもしれない。


 

 すこしすると、ボスも雨宿りに現れた。いつものように慌てず、悠々と歩いてくる。多少濡れても気にしないようだ。

 シマシマシッポがそれに気づいて、トコトコと駆け寄っていった。何をするのか見ていると、そのまま頭突きをする。

 ボスは突き飛ばされて、ペタンと横に転がってしまった。怒るでもなく、寝転がったまま、目を細めている。


 ――相変わらず大人というか、変わった猫ですよね……。


 シマシマシッポの頭突きもなかなか変わった行動だ。

 だが、こうして観察していても、二匹がケンカをすることはない。

 シマシマシッポがにおいを嗅いでまわる。そのあいだ、ボスは目をつぶって転がっている。

 雨の中、同じ場所、限られたスペースで雨宿りをしているせいで、連帯感のようなものが生まれているのかもしれない。

 猫同士が仲良くしているのを見るのは、なかなか心暖まる光景だった。


 ――そうだ!


 と僕はうちの猫を振り返った。

 フローリングの床を見つめて、つまらなそうにしている。


 ――ここにうちの猫も入ったら、仲良くなれるんじゃないですか!?


 さっそく窓をほんのすこし開けて、おしりを押して、うちの猫を外に出した。

 落ち着かない様子でうろうろと歩きまわるうちの猫に気づいて、道を譲るようにシマシマシッポが移動した。するとうちの猫はシマシマシッポの前を通り、ボスに駆け寄ってフックを一発、そして雨の中へ走り出してしまった。


「ええ、何それ!? ちょっと! 雨降ってますよ?」


「わかってるわよ! そんなこと!」


 というふうに耳をペタンを寝かせて、必死な顔で濡れた地面のうえをぴょんぴょん飛びはねながら走っていく。すぐに見えなくなった。


 ――もう、一緒に雨宿りすればいいのに……。


 この作戦はダメでしたか、と思いつつ、うちの猫が消えたほうを眺めていると、


「かわりに僕と遊んで!」


 というように、シマシマシッポがちょこんと前足を乗せてきた。


「ちょっと用事があるから遊ばないんですよ。今日はボスと遊んでください」


 そう言ってボスを見ると、何やら満足げな表情でプルプル震えているところだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ