うちのこわいお姉さん
シマシマシッポはすっかり僕になついてしまった。庭に出るとかけよってきて、足元をうろついて、背中をこすり付けようとしてくる。
仲良くなりすぎたかな、とも思う。でも、家の中に入ってきて困らせることはない。
玄関までついてきたりはするけれど、そこで座って見送ってくれる。
この子もなかなか賢い猫だった。
家のなかではうちの猫が待っている。猫三昧だ。
いままで、こんなにたくさんの猫に囲まれる生活をしたことはなかった。猫にモテる、猫モテ期がきたのかもしれない。これは誰でも、人生で一度は来るものらしい。
うちの猫はシッポをピンと立てて、おしりを向けていた。
「あっ、もしかして、なでなでして欲しいんですか? それなら、なでなでしちゃいますよー」
僕はシマシマシッポと遊んで、そのままのテンションだった。
そうしてうちの猫に近寄ろうとすると、近づいたぶんだけ、トコトコ移動してしまう。
トコトコ……。
トコトコ……。
「もう! シマシマシッポは自分からすりすりしてくれるんですよー」
と僕が言うと、ちらりと顔だけ振り向いて、すぐにトコトコと歩いて去ってしまった。
***
別の日に、裏庭へ向かうと、待ち構えていたようにシマシマシッポがかけよってきた。
「あら、今日も来たんですか? しょうがないですねー」
座りこんで話をしていると、何かの視線に気づいた。
うちの猫だった。
家の中にいて、近くの窓から、僕とシマシマシッポの様子を見つめている。
瞳孔が開いていて、ギロリ、という感じでにらんでいた。
「あはは……。ほら、こわいお姉さんがいますよ。また今度遊びましょうね」
と僕は倉庫へ向かった。
だが、シマシマシッポも一緒についてきてしまう。
必死にトコトコ追いかけてくるので、もう少し相手をしてあげることにした。
「そんなに誰かに甘えたいんですか? 子供だからでしょうか。それにしてもひとに慣れてますよねー。やっぱりどこかの飼い猫なんですか?」
と話していると、視線を感じる。
さっきとは別の窓から、うちの猫が見つめていた。
僕を追いかけてきたらしい。
――そんなに気になりますか……? 普段は全然甘えてこないのに……。
足元では、シマシマシッポがうろうろしながら背中をこすり付けている。
――こんなふうに甘えたらいいんですよ。
窓の向こうでは、うちの猫も同じようにうろうろしていた。
――そうそう。そういう感じです。
それから僕は、二匹を置いて、庭の草刈りを始めた。
ひととおり草刈りをして、植木バサミを倉庫に戻す。そして、家の中に入ろうと玄関へ向かう。
するとタッタッタッとシマシマシッポが走り込んできた。
僕の足音に反応したようだ。
「もう遊びませんよ。充分遊びましたからね。また今度です」
と言いつつも、悪い気はしない。
シマシマシッポのおでこをツンツンしていると、バアン! という音が背後から聞こえた。
驚いて振り向くと、窓ガラスの向こうに、うちの猫が座っている。
――ええ? いまの……窓を叩いたんですか?
威嚇する姿はよく見るけれど、窓を叩いているところを見た記憶はない。
――どうかしたんですか?
慌てて、玄関へ向かう。
家のなかには、うちの猫の姿が見当たらなくなっていた。
――ついさっきまでいたのに……。
呼んでも出てこない。
返事もないから、心配になってしまった。
***
しばらく探して、なんとかうちの猫を見つけることはできた。
本棚の後ろのすき間に入っている。
そこでじっと座ったまま、動こうとしない。
「探しましたよー。そんなところで何してるんですか?」
「……」
「何ですかー? 怒ってるんですか?」
「……」
「あの……シマシマシッポと遊びましたけど、ちょっとだけじゃないですか」
と言いながらも、見せつけるような行動がよくなかったのかもしれない、と僕は考えていた。
「……もう、ああいうことはしませんから、出てきましょう」
「……」
「……あっ、そろそろご飯の時間ですね」
「……?」
「今日はかつおぶしがありますよー」
「ニャッ!」
かつおぶしのおかげで、うちの猫は飛び出してきた。
今回はなんとかこれですんだ。
でも、もう少し気をつけて行動したほうがいいのかな、と思う。
本当に怒ったり、拗ねたりしているのかはわからないけれど、うちの猫が不満に思うようなことは、なるべくしたくない。
――シマシマシッポと遊ぶのは、なるべくうちの猫が外にいるときにしておこう。
と心に決めた。
***
それから数日のあいだ、僕が寝ようとすると、うちの猫がベッドに近づいて来るようになった。
「あら? 一緒に寝ましょうか」
と声をかけると鼻をならして顔を背ける。
そのまま、ベッドの足の方へ向かって、僕の足の先のところに潜り込む。
――どうせなら、顔が見えるところで寝たらいいのに……。
これはうちの猫なりに甘えているのかもしれない。
――近くで寝ましょうよ。
ベッドに寝そべったまま、つま先でうちの猫を探していたら、ペチン! と猫パンチが返ってきた。




