うちのトカゲ指導
だんだん草が伸びる季節になってきた。
こういうときは、少しずつでも草刈りをやっておいたほうがいいらしい。お隣の奥さんが、そう言っていた。実際、草の伸びかたがはやくなっている気がする。
そういうわけで、僕は庭の草を植木バサミでちょきちょきしていた。これではまたすぐに生えてくるのだけど、やらないよりはましだろうくらいの気持ちで、気楽に草を刈っている。
夕方、ちょっと時間があるときに、庭へ向かう。今日はこの区画。次はこの区画。というように、スペースを決めて少しずつ進めている。
毎年、こんなことをしているような気もする。
そんな作業をしている僕のもとへ、シマシマシッポがトコトコと歩いてきた。ほんの数日で、僕を見つけると、こうして近寄って来るようになった。ずいぶんなつかれてしまったみたいだ。
「あうあう」
「こんにちは。相変わらず怒っているみたいな声ですね……」
行動はまったく怒っているようではない。近くをうろうろして、僕の足に背中をこすりつけようとしている。
「嬉しいんですけど、いま草を刈っていますからね。あぶないんですよ……」
シマシマシッポはなんの警戒もせずに、植木バサミの周囲をうろうろする。なので、僕が気をつけなければならない。
「もう、これじゃあ草刈りはできませんね……。今日はおしまいです」
と植木バサミを倉庫に持っていくと、これにもシマシマシッポがついてきた。
「あーお」
「はいはい。また今度ですよ」
玄関のドアの前まで、シマシマシッポは「あーお」と鳴きながらついてきてしまう。
「ここに入ったらダメですからね。また会いましょうね」
「あうあう」
ドアの前にちょこんと座って、シマシマシッポは僕を見送ってくれた。
なかなか聞き分けのいい猫だった。
***
――あ、ポッチャリ。
別の日に裏庭へ行くと、猫が座っていた。ヒョウのような、黒を中心にしたまだら模様。見慣れた柄の太った猫、ポッチャリだ。
――こうして見ると、シマシマシッポよりもかなり大きいですね。
ポッチャリの近くにはシマシマシッポが座っていた。
比べてみると、違いがよくわかる。毛皮の柄は同じで、大きさが違う。ポッチャリをそのまま縮めたような見た目で、ほかに違う部分は、シッポくらいだ。
――親子なのかな……?
ケンカをすることもなく、ちょっと離れた場所で、二匹はくつろいでいた。
僕の足音に、二匹はピンと耳を立てる。
立ち止まって観察していると、トコトコとシマシマシッポが僕に近づいて、からだをこすりつけた。
ポッチャリはそれを少しのあいだ見つめて、
「じゃあ、まかせたから!」
というようにどこかへ走り去ってしまった。
――いや、まかされても……。
仕方なく、シマシマシッポと遊ぶことになる。
おかげで、さらになつかれてしまった。
***
さらに別の日。
うちの庭でボスが寝転んでいた。
近くにはシマシマシッポがいる。
――なんか近所の猫と馴染んでますね。仲良くしているのはいいことです。
シマシマシッポは地面を叩いたり、飛び上がったりして遊んでいる。
ボスは目を細めて眺めているだけだ。全然動かない。
「何してるんですか?」
よく見てみると、シマシマシッポの前足の先には、ぐったりしたトカゲが横たわっていた。
――おお、トカゲですか……。
シマシマシッポがバシッとトカゲを押さえて、ガジガジと噛み始める。
あま噛みではない。
噛み砕こうとしている。
――おおお……。ちいさいけど、野良猫なんですね……。
するとボスがすうっと立ち上がり、
「あとはまかせた!」
というように目をパチパチさせて遠ざかっていった。
――いや、これ、どうすればいいんでしょうか……。
目の前ではシマシマシッポが一生懸命トカゲを噛み砕いている。噛みながら鳴こうとするので、
「アルルルゥ(ガジガジ)ンアンオゥ(ガジガジ)」
とわけのわからない鳴き声になってしまっていた。
食べ終わると、口の周りをぺろりとなめまわす。そして、僕のことを見上げる。
じっと何かを待っている。
「あ……はい、よくできましたね」
と僕は頭を軽くなでた。
シマシマシッポは満足した様子で、
「あうあう!」
と鳴きながら、元気よく草むらに飛び込んでいった。




