表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/215

見知らぬシマシマシッポ

 ぽつぽつと雨が降っている。この日ははっきりとしない天気だった。


 ちょっと工具をとりに、僕は裏庭の倉庫まで向かっていた。

 雨は傘をさすほどの勢いではないし、歩く距離もほんの少しだ。


 ――これくらいの雨なら、むしろ傘をささないほうが気持ちいいですね。


 そんなことを考えて、雨に濡れながら歩く。倉庫から必要な工具を取り出していると、バタバタッと僕の足元を何かが駆け抜けていった。

 数メートル先で立ち止まり、振り返っている。


「あれ? ポッチャリ……ですよね?」


 そこにいるのは見慣れた柄の猫だった。この柄はポッチャリだ。でも、どこか違う気がする。


 ――ポッチャリにしては小さい? それにあのシッポは……?


 その猫のシッポはとても長くて、シマシマ模様だった。アライグマのようなシッポだ。ポッチャリはこんなシッポをしていなかった気がする。


 ――やっぱりポッチャリじゃない? でも、ポッチャリの柄だし?


 どっちだろうと首をひねっていると、シマシマシッポが「あーお」と鳴いた。

 僕を見ているので、「にゃーお」と返事をした。


「あーお」

「にゃーお」

「あーお」

「にゃーお」

「あーお」

「にゃーお」


 この子は、返事をすると、ひたすら話かけてくるタイプの猫だった。しつこいと感じるくらいに鳴いてくる。

 この様子だと、ポッチャリではなかったみたいだ。ポッチャリはこんなふうには鳴かない。


 ――それにしても、この鳴き声は、どうなんでしょう……。


 と僕は思う。

 仲良くなりたくて話かけているのか、威嚇しているのか、はっきりしない。ちょうど中間くらいの声で鳴いている。のどがかすれたようなハスキーな声のせいで、どちらなのか判別ができない。


 ――うーん、仲良くなれないんでしょうか。


 一歩足を踏み出すと、びくんとからだを震わせて、逃げようとする。警戒心は強いようだ。

 僕はその場に座って、警戒が解けるのを待つことにした。

 シマシマシッポもそれを見て座る。

「あーお」「にゃーお」とふたりで鳴きながら、見つめ合う。


 雨のなか、静かに座っている猫というのも珍しい。濡れるのは気になるようで、ときおり、ぶるっとからだを震わせていた。


 しばらくすると、シマシマシッポがトコトコと走ってきて、僕から30センチほどの地点で止まる。近づいてみると、かなり小さい猫だった。小柄なうちの猫よりも、さらにひとまわり小さい。まだ子供なのかもしれない。


「あーお」


 と鳴いているけれど、やはり、怒っているのか甘えているのかわからない。とびかかろうとしているようにも見える。


 ――ひとまず、ガードできる体勢になっておいたほうがいいですね……。


 工具を地面に置いて、腕を持ち上げて、ガードを固めようとすると、慌てて逃げていってしまった。そして、すこし離れたところで立ち止まる。これは最初に会ったときと同じ状況だ。初めからやり直しになってしまった。


 シマシマシッポはアジサイの下に雨が降ってこない場所を見つけて、そこに座ることにしたようだった。


 ――僕は濡れっぱなしなんですけど……。


 うかつに動くと逃げられてしまいそうなので、移動することはできなかった。


「あーお」「にゃーお」と会話をするうちに、これって近所迷惑かもしれない、ということに気づいた。

 僕が黙ると、シマシマシッポが目をぱちくりさせる。トコトコと歩いてきて、また30センチほどの位置で止まった。


「あーお」


「はい。にゃーおですよ。静かにしましょう」


 それからずいぶん長いあいだ迷って、シマシマシッポが、すっと僕の足に背中をこすりつけた。


 ――なんだ、やっぱり甘えたかったんですね。


 いつでもガードできるように身構えていた緊張感が、一気に抜けた。


「ふう……。もうちょっとわかりやすく甘えてくださいよー」


 と手を伸ばして触ろうとすると、一目散に走っていってしまった。一瞬で見えなくなる。かなり時間をかけて近くに来てもらったのに、撫でることもできなかった。


 ――まあ、野良猫ってこういうものですよね。ボスとかポッチャリが簡単すぎただけで、これくらいが普通なんでしょう。


 シマシマシッポのいなくなったほうを探しても、もうどこにも見当たらない。


 ――また来てくれるといいですね。


 と思いながら、家のなかに入ることにした。



 タオルで濡れてしまった髪の毛を拭いて、リビングに入ると、バタバタとうちの猫が暴れていた。爪研ぎにとびかかっている。


 バリバリ! バリバリ!


 と爪研ぎが壊れそうな勢いで爪を研いで、すぐに窓へ向かう。シマシマシッポが消えたほうを見ながら、「シャー! クワー!」と威嚇している。そして、またすぐに爪研ぎに走っていって、バリバリ! と大きな音をたてる。


「そんなわかりやすい怒りかたをするんですか……。落ち着きましょう……」


 撫でようと手を伸ばすと、ガジガジと僕の指をあまがみし始めた。


 ――悪い子ではなさそうでしたよ……。


 仲良くなれるといいですね、とおでこをツンツンすると、うちの猫はふんっと鼻をならして、カリカリを食べにいってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ