うちのらぶらぶカップル
ここ1週間ほど、ボスを見かけないな、と思っていた。
居心地のいい場所を見つけて、そこでのんびりしているのかもしれない。
野良だから、決まった家はなくて、自由気ままだ。賢いし、どこに行ってもうまくやっていけるんだろう。
しばらく見かけないのは気になるけれど、
――ボスなら心配ないか。
と思っていたら、うちの玄関先で寝転んでいた。
久しぶりの対面だ。
「あらー、どこに行ってたんです……か?」
寝転んだボスのお腹は、以前よりもさらに丸くなってきているようだった。あきらかに太っている。
「いったい、何があったんです……?」
――違法行為(にぼし泥棒)に手を染めていないでしょうね……。
と思いながら、ボスのそばにしゃがみこむ。ボスはいつものように、地面に背中をこすり付けてアピールを始めた。
「ちょっと太りましたが……まあ、元気ならそれでいいですね」
ぽんぽんとお腹を叩くと、ボスは上半身を起こして、キリッとした表情を見せた。
元気です、と伝えたいのかもしれない。
そのとき、がさごそと音がして、ボスの背後の茂みから別の猫が現れた。ポッチャリだ。
しばらく見ないうちに、ポッチャリも怪我をする前と同じくらいの体型に戻っていた。こちらも太っている。
――重量級の猫が二匹もいると、なんだか圧力がすごい……。
ポッチャリが前足の先でちょんちょんとボスの肩をつついた。
ボスはその手を捕まえようと、前足を動かしている。獲物を捕まえるような動きではなくて、力の抜けた、ゆったりとした動きだ。
ボスがポッチャリの前足を、パシッと両手で挟む。ポッチャリは前足をフルフルと痙攣させるように動かして、そこから抜け出した。そして、またつんつんしている。
「なんでこんなところでいちゃいちゃしてるんですかー。勘弁してくださいよー」
二匹ともオスなのに……と思いながらボスのお腹をつつくと、
「えっ、こっちも?」
というように、ボスがどちらの相手をしようか慌てていた。
ふと玄関を見ると、ドアの前にうちの猫が座っていた。
無表情。そして半眼で僕らを見つめている。ぶんぶんと、しっぽを大きく振り回してもいた。
「あ……じゃあ、もう帰りますね」
ボスたちから離れて玄関のドアを開けると、うちの猫は「ニャッ!」と鳴いて、キッチンのほうへ急いで駆け込んでいった。
――あの二匹がいちゃいちゃしているところには、加われないですよね。
パンチをするような雰囲気でもなかったし、二匹のサイズ感がちょっと怖いのかもしれない。
――一緒に遊べるといいんですけどね。
でも、少しは距離が縮まっているような気がする、と思いながら、うちの猫を見送った。
カリカリを食べ終わったうちの猫は、ソファーに座っていた。
コロンと横になるいつものリラックスした姿勢ではなくて、お腹を下にして、いつでも立ち上がれるような姿勢だ。
くつろいでいる雰囲気ではなかった。
「ん? どうしたんですか?」
――ちゅんちゅん。
窓の外を見ると、小鳥が鳴いている。
「あっ、大好きな小鳥ですね。そうかあ、もう小鳥がやってくる季節になったんですね。やっぱり気になっちゃうんですね」
と声をかけるが、窓のほうを見向きもしない。耳だけは少し反応して、ピクピク動いている。だが、姿勢は崩さない。
「うーん? 違うんですか? どうしたんですか?」
眉間のあたりをくすぐると、ぐるぐるとのどを鳴らし、頭を僕の指にこすりつけて、軽くあまがみをした。
そして、僕の手を前足で挟み込むようにして、捕まえた。
さきほどのボスと同じような格好だ。
もしかして――。
――ボスたちみたいにいちゃいちゃしたかったんですか? もう、仕方がないですね。
と思い、うちの猫の好きなようにさせる。
うちの猫は僕の手を引き寄せて、ギュッと抱きしめて……思いきり蹴り始めた。
「えっ痛い! 痛いですよ! ボスはそんなことしませんでしたよ!?」
慌てて手を引っ込めるが、うちの猫はもう戦闘体勢だ。僕の足元をうろうろして、とびかかる隙をうかがっている。
のどをゴロゴロならしながら、獲物を狙うように目をギラギラ輝かせたうちの猫は、なんだかどこか嬉しそうにも見えた。




