表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/215

うちのおいしいおやつ

 朝、起きてみると積もった雪はいくらか溶けているようだった。ところどころ、地面が見えている。

 それでもまだ、空気が冷たい。家の中なのに、外にいるような寒さだ。


「はああ……本当に冷えますねー。どこかからすきま風が入り込んでるんじゃないかってくらい寒いですよー」


 と手をさすり、つぶやきながらストーブのスイッチをつける。

 リビングの暖房は、ストーブと電気ヒーターの二段がまえになっている。普段、ふたつ同時に使うことはないが、この寒波のあいだは大活躍していた。

 ストーブの前に座って、部屋が暖まるのを待つ。

 ふと、隣を見ると毛布がふくらんでいた。うちの猫のために用意してある専用毛布だ。


「朝ですよ。寒いからもうちょっと寝てますか?」


 ぽんぽんと叩いても、反応はない。毛布のなかに寝ている手応えはあった。


 ――どんな格好で寝ているかな?


 うちの猫の寝顔を見たくて、そっと毛布をめくる。

 そこにいたのはうちの猫ではなく――ボスだった。


 ――ええっ?


 ボスは目を閉じたまま、顔を僅かに僕に向けて、すぐにもとの位置に戻した。

 そのまま身動きをしない。

 寝てしまったようだ。


 ――いったい、いつからここに……?


 考えてみても、ボスがいつ侵入したのか、まったくわからなかった。

 窓がすこし開いている。きっとそこから入ってきたのだろう。


 ――どうしよう……。


 とりあえず、寝ているのでそのまま放っておくことにした。



 朝ごはんを食べて、空が明るくなってくると、モゾモゾと毛布からボスが抜け出してきた。

 大きく伸びをして、ゆっくり窓へ向かっている。

 追いかけて、窓を開けた。


「じゃあ、ちょっと出かけてくるわ」


 という感じで、ボスは庭を歩いていった。


「いってらっしゃい……。今日、家のなかで寝たのは特別ですからね。いつもはダメなんですよ」


 と見送って窓を閉める。

 そういえば、朝からうちの猫の姿が見当たらなかった。

 もしかすると、ボスがいるので遠慮して、どこかにいっているのかもしれない。


 ――こういうときは、譲ってあげるんですね。


 勝手に侵入するのはどうかと思うけど、雪が降るほどの寒さなら、仕方がない。たぶん、うちの猫もそう思ったのだろう。

 


 夕方、僕はおやつにきなこ餅を食べていた。

 するとリビングにうちの猫がやってきて、毛布の周りをうろうろする。

 においを嗅いで、ふんっと鼻を鳴らしていた。


「あれ? 毛布に入らないんですか? もしかして、ボスのにおいがついてるのが嫌なんですか?」


 結局毛布から離れて、爪研ぎでイライラを発散させていた。


 ――嫌なんですね……。まあ、そういうものですかね。そこまで寛容にはなれないですよね。


 そもそもボスを追い出さなかったというのが驚きだった。さらに自分の毛布まで使わせている。いままでさんざんパンチを喰らわせていたことを考えると、ずいぶん優しくなったと思う。

 きっと大人になったのだ。


 食べ終わった皿をテーブルにおいた。

 皿にはきなこが残っている。これはいつものことだ。

 いままで、きなこ餅を食べたときに、きなこがちょうどいい量になった記憶がない。たいていは、きなこが余ってしまう。


 ――きっちり分量を計れば余らずにすむんでしょうか……? でも餅につける量にもよりますし、万が一きなこが足りないとただの餅になりますよね……。


 そんなことを考えていると、うちの猫がきなこの皿に近づいて、鼻をひくひくさせている。

 きなこが気になるようだ。


「あはは、食べたいなら食べていいですよ。今日は偉かったですからね」


 と声をかけると、ぺろりときなこをなめた。


 ――えっ!? 本当に食べるんですか!

 

 ぺろぺろと、熱心にきなこをなめている。

 しっかり座って、お皿に首をつっこんでいる。

 どうやら猫はきなこを食べるものらしい。

 知らなかった。

 これなら、偏食なうちの猫のいいおやつになるかもしれない。


 ――たまには作ってあげましょうか。きなこ餅を食べれば、きなこは残ってしまいますし。


 と思っていると、うちの猫が鼻をならした。

 するとぶわっときなこが飛ばされて、テーブルに溢れてしまった。

 テーブルのうえはひどいありさまだ。

 うちの猫は気にせず口の周りを舐めている。

 そして、


「なによ!」


 とにらんで部屋から出ていった。

 悪いことをしてしまったという態度ではなかった。


 ――そうですか……。きなこをあげるのは、やめときましょうか……。


 布巾でテーブルに散らばったきなこを集めながら、そう僕は思った。


 ちょっと大人になったと思ったけれど、やっぱりうちの猫はうちの猫のままだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ