うちの冬支度
「お布団も干さないといけませんね。もうすこししたら、お正月ですからね。お客さんが来るかもしれませんし、全部干しちゃいましょう」
年末に向けての小規模の大掃除。僕は押し入れに頭を突っ込んでいた。
冬用の重たい布団をなんとか引きずり出そうとしているところだ。
下のほうに積まれているせいで、なかなかうまくいかない。必要な布団だけを取り出すことはできなかった。
うちの猫が苦戦する僕に近寄ってきた。
押し入れの奥が気になるようだ。
ちらちらとのぞきこんでいる。
「いま押し入れにはいるのはやめときましょう……。遊ぶ時間ではないんですよ」
うちの猫が入ってしまわないように体でガードしながら、押し入れを閉める。
そして布団をいったん床に置いて、玄関のドアを開けた。
布団を抱えたままでは開けることができないから、ストッパーで開いた状態に固定しておく。
こうして順序よく作業を進める僕の隣を、うちの猫がトコトコと歩いていった。そのまま庭に出ていってしまう。
そして駐車場の車のうえに座って、僕を眺める姿勢になる。
目をパチパチさせていた。
「はいはい。もうちょっとで終わりますからね。そしたら相手をしてあげますから、それまでそこで遊んでてくださいね」
声をかけて、僕は布団を運び始めた。抱き抱えるようにして、ほとんど前が見えない状況だ。
物干し竿に運んだ布団をかけていると、背後でドタバタッという音が聞こえた。何かが落ちたような音だ。フギャッという鳴き声も聞こえた気がする。
振り返ると、うちの猫がトコトコ歩いて家の中へ戻るところだった。
「あれ? もう帰るんですか? さっき外に出たばっかりなのに……。というか、いま車から落ちましたか?」
うちの猫はしっぽをぶんぶんっと振って、家の奥に消えていった。
なんだか機嫌の悪そうな横顔だった。
残りの布団を干すために玄関との往復を再開すると、植え込みの影からボスが顔を出した。
「今度はボスですか。いまは相手をしていられませんからね。あと、ドアが開いてますけど、勝手に入ったらだめですからね」
そう声をかけて布団を持ち上げると、ボスは僕の進路を邪魔しないように、迂回しながら近づいてきた。
おとなしく座って僕の作業を眺めている。
――それでいいんですよ。あいかわらす賢いですね。あとは、毛布もありますか……。
玄関へ向かう僕についてこようと、ボスが前足を出して、すぐに立ち止まった。
毛布を運んですれちがうたびに、少しついてこようとして、諦めている。
なんだか中途半端な行動だ。
――どうしたんですか? そんなに遊びたいんですか? いまはダメなんですよ……。
作業が終わりに近づいた。残りは毛布が数枚。
物干し台から離れると、ボスが玄関をのぞきこんでいるところだった。
僕についてこようとする行動を繰り返して、じわじわとここまで移動していたようだ。
「あー、入っちゃだめですからねー」
軽く注意をする。
通りすぎる僕に続いて、ボスが家の中に駆け込んだ。
「こらっ、だめですよ!」
僕の声に、ボスが頭を低くして振り返った。
耳を伏せて、困ったような顔で見上げている。
「少しずつついてきて、カモフラージュしていたつもりかもしれませんけど……バレてますよ。ダメです。出ましょう」
「フーン」
と鳴きながら、ボスは素直に僕の言葉にしたがった。
玄関前で地面に背中をこすりつけてアピールしている。
「もう終わりますから……。はい、これで終わりです。よく待ってましたねー。えらいですね」
家の中に入ってしまわないようにドアを閉めて、玄関前であお向けになっているボスのお腹を叩いた。びくんと体を震わせて、ボスは激しくアピールを再開する。
「なんかいつもよりも甘えてきますね……。そういう季節なんですかね」
目の前ではあお向けのボスのお腹がゆれている。
――あれ? 丸い……?
ボスのお腹は以前よりもふっくらしているように見えた。からだ全体が丸みをおびたようだ。
「もしかして、太りました……?」
ゴロゴロのあいまにフガフガと鳴いているようにも聞こえる。
「冬だからですかね……」
しばらくそばにいて話しかけていると、ボスは満足したようだ。隣の庭に歩いていった。
――ふう……。結構遊びましたね。いま何時くらいでしょう。
そう思いながら玄関のドアを開けると、目の前にうちの猫が座っていた。
不機嫌そうにしっぽを床に叩きつけながら、じっと見つめていた。ずっとここで僕を待っていたようだった。




