うちのマフィアと迷惑行為
うちの庭でボスがくつろいでいた。
窓を開けてすぐのところに、コンクリートになっている部分がある。
そこが横になるのにちょうどいいらしい。
べったりと寝転んでいた。
うちの猫が別の窓から庭に飛び出す。
すぐにボスをみつけたようだ。
ゆっくりと近づいていた。
ボスも気づいているのだろう。
耳をぴくぴくと動かしている。
だが、寝そべったまま、じっとうちの猫が近づくのを待っていた。
ボスのそばに来ると、うちの猫はにおいをかぎはじめた。
いつもならパンチを喰らわしているタイミングなのに、いつまでも鼻をひくひくさせている。
――あら、にぼし効果ですか? ちょっと仲良くなれたんですね!
じっくりとにおいをかぎながら、距離を縮めている。
ボスの耳に鼻が触れそうになるまで近づく。
そして耳元で、
「クワー!」
と思い切り威嚇をした。
離れたところで見ていた僕がびっくりするくらいの盛大なものだった。
ボスも当然、びくっと体をすくませていた。
首をぎゅっと縮めて、目をつぶっている。
その場から動かないのは、突然のことで反応できなかっただけに見えた。
それを見て、うちの猫は満足した様子でどこかへ歩いていってしまった。
――なんてことをしてるんですか……。耳元で脅すとか、そんな無茶苦茶なこと、カタギの猫はしませんよ……。マフィアですか……。
ボスもボスだった。
目をパチパチさせて、すぐにまた何事もなかったかのようにくつろいでいた。
別の日には窓の外を通ったボスに向けて、
「コオォー!」
とガラス越しに威嚇をしていた。
「パンチをしなくなったら威嚇ですか……。そんなことばっかりしてると嫌われちゃいますよ……」
そのわりにボスはうちの庭に来るし、距離をおいてそれぞれくつろいでいる姿も見かける。
仲がいいのか悪いのか、不思議な関係だ。
別の日、家に帰ってきた僕のもとへ、ボスが駆け寄ってきた。
「お出迎えですか。かしこいですね」
ボスが僕の足元で何かを落とす。
黒っぽいかたまりだった。
にぼしよりも大きい。
――サツマイモ?
と思いながら僕は顔を近づけた。
「これは……!」
ボスがくわえてきたのはネズミだった。
もしかしたらモグラかもしれない。
どちらにせよ、小動物の死骸だった。
あまり直視できない。
「おおう……お土産ですか。ありがとうございます……。でもこういう行為はやめてください……。これは迷惑行為です……」
「ニャウ!」
ボスが元気よく答える。
そしてふっと顔をそらして、物陰を見つめる。
そのまま歩いていこうとしてしまった。
「ええ……? これ置いて行っちゃうんですか?」
と声をかけた僕の足元に、別のなにかが駆け寄ってきた。
ポッチャリだった。
ぱくっとネズミかモグラかの死骸をくわえて、僕を見上げている。
「えええ? それボスの獲物ですよ?」
ボスは気にせずに歩いている。
「いいんですか?」
振り返りもせず、無言で歩いていく。
「それくらい、いつでも獲れるさ。くれてやる」
とでも言いそうな雰囲気の背中だった。
――なんなんですか……? いつもは威嚇されているだけなのに……ボスはどういう猫なんですか……?
ボスの背中を見送りながら、僕はそんなことを考えていた。




