うちの猫の外泊4
帰ってきてからしばらくのあいだ、猫を外に出すことはなかった。
家族のなかで、一度外で遊ぶことを覚えた猫をこのまま家の中に閉じ込めておくのはどうなのか、という問題提起があった。
また同じようなことがあったらどうするんだ、という反論もあった。
どういう議論の流れがあったのか細かいところは忘れたけれど、ためしに外に出してみることになった。
猫は喜んで走り出し、庭の半分もいかないうちに減速すると、ゴロンと地面に寝転んでしまった。
そして、そのまま動かなくなった。
横になったまま毛づくろいをしたりしていた。
どうやらそれ以上遠くに行く気にはなれないようだった。
それからは、また猫を外に出すようになった。
最近になって、ようやくちょっとだけ遠くまで行けるようになった。
それでもたいした距離じゃない。
どこへ行ったんだろうと見回すと、隣の家の庭で座っていたりする。
目の届く範囲にいることがほとんどだ。
猫は外に出てもじっとしている。
車や垣根の上、倉庫の中、玄関の前、いろんなところでじっとしている。
地面におなかをつけて、スフィンクスの姿勢で固まっていることもある。
そういうことは外に出なくてもできるんじゃないかと思う。
猫にとっては外でやるということに意味があるのかもしれないけれど。
僕が外から帰ると、猫は動き出す。
足音を立てないように、そっと背後に近づいてくる。
僕がドアに手をかけた瞬間、走りこむ。
するりと足元を抜けて、僕よりも一歩早く、家の中へ――!
「わあ、おかえりなさい。いまのはあぶないですよ。踏んじゃいますよ」
遅れて家に入った僕が言うと、玄関で優雅にターンをする。
ゆっくりと歩いて、いま入ってきたばかりのドアの前に座り、僕を見つめる。
「なんでこの人すぐにドアを閉めちゃうのかしら」という表情で。
僕が動かずにいると、
「ニャア!」
と催促をする。
家に帰ってきたばかりなのに、もう外に出たいようだ。
「はいはい。いま開けますからね」
僕がドアを開くのを待ちきれないように、するりと抜け出していく。
そこで何をするのかというと、相変わらずのスフィンクスなのだった。
外泊から帰ってきてから、猫は前よりもドアにこだわるようになった。
僕と一緒に家の中に入ろうとするようになった。
ドアを開けてもらおうとする頻度も高くなった。
もしかすると、閉じたドアを見て心配しているのかもしれないと思う。
家の中に入れなくなるんじゃないか、また帰れなくなるんじゃないか、と。
だから、ドアが開くことを確認するために開けさせる。
ちゃんと帰ってこられることを確かめたくて。
だとしたら――心配ないよと伝えたい。
帰ってこなかったら、また家族全員で探すから。見つかるまで。