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うちのトコトコトコ……

 動物は歩くとき、左右の足を交互に出してトコトコトコと歩く。

 ある程度のスピードになってくると、前足、後ろ足をそれぞれそろえて、飛び跳ねるようにタッタッタッと走り出す。

 テレビで見る野生の動物はだいたいそうだ。たぶん、それが普通なんだろうと思う。



 庭でうちの猫を見かけた。

 うちの猫は家の外ではすこし友好的だ。

 僕を見かけると近づいてくる。


 トコトコトコ……。


 手の届かない場所で立ち止まり、くるりと背中を向ける。

 全然興味がない雰囲気で毛づくろいをはじめる。

 でも、ときどきちらっと僕のことをうがかがっている。


 ――それはいいのだけど。

 

 最近うちの猫は走っていないような気がする。

 暑くてぐったりしていたというのもあるのだろうけど、タッタッタッと走っている姿を見かけない。

 ほとんどの移動をトコトコトコで済ませている。


 ――運動不足じゃないですか? たまには走ったほうがいいかもしれませんね。


 うちの猫から離れてみた。

 すぐに気づいて、僕を見上げて「ニャアーン」と甘えた声を出す。

 そのまま歩くとついてくる。


 トコトコトコトコ……。


 近づこうとするので注意をした。


「足元は危ないですからね。ふんじゃいますよ」

 

 もしうっかり踏んでしまったら間違いなく激怒するのだろう……。


 庭から出てもついてきている。

 僕が立ち止まると、草のにおいをかいだり、木の陰に隠れたりして、興味がなさそうな行動をする。

 歩き始めると、また僕を追いかける。

 

 トコトコトコ……。


 家から離れるのは、やっぱり不安だ。

 車に轢かれてしまうのではないかと気になって仕方がない。

 僕と一緒でなければ、うちの猫がここまで遠出をすることもないと思う。



 すこしずつ移動して、車の通らない一本道にたどり着いた。

 ここなら遠くまで見通せるし、危険はないと思う。

 うちの猫はずっとトコトコでここまでたどり着いてしまった。


 立ち止まって、うちの猫に声をかける。


「あっ、あれなんでしょう?」


 急に声をかけてきた僕に、驚いた表情をしている。


「あれです、なにかありますよ!」


 道の奥を指差す。

 うちの猫はじいっと僕のことを見つめていた。


「ああー! なんだろうなあ! 気になるなあ!」


 とりあえず、聞いてくれているようだった。


「気になるなああああ!」


 叫びながら、僕は勢いよく走り出した。

 普段の生活で全力疾走をすることはほとんどない。

 すぐに足が痛くなる。


 僕の全力だから、たいした速さではない。

 でも、猫が追いかけてこようと思ったら、思い切り走らなければならないスピードだ。

 

 道の奥、二股に分かれる手前まで走って、僕は立ち止まった。

 息が乱れてしまっている。


 そして、僕は振り返った。

 うちの猫がついてきているはずだった。


 猫の姿が見えた。

 ちいさなクリーム色。


 うちの猫がいるのは僕が走り出した付近だった。

 僕に背を向けて、ゆっくり歩いているところだった。

 歩いていく先は、自宅の方向だ。


 トコトコトコ……。


 僕が走り出したことには興味がわかなかったようだ。


 ――なるほど、そうなるんですか。


 息を整えながら、僕は遠ざかるうちの猫の背中を見送った。


 

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