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うちのペロペロしてくれない猫、よそのペロペロしそうな猫

 うちの猫はペロペロをしない。


 エサを食べるときはペロペロ、毛づくろいをするときもペロペロ。

 でも、僕の手をペロペロしたりはしない。


 指を出しても、においをかいで、顔をこすりつけて、そっぽを向いて、爪を立てる。

 それだけしかしてくれない。


 ――ちょっとくらいペロペロしてくれてもいいのに。


 と僕は不満に感じていた。





 うちの猫が毛づくろいをしているところに、こっそり近づいてみた。

 熱心に体をなめている。

 何でそこまでする必要があるんだろう、というくらいなめまわしている。

 そこにそっと手を伸ばして、指を紛れ込ませた。


 うちの猫はぴたっと毛づくろいをやめて、


「この手はなんなのよ」 


 という顔で固まった。


「えーと……続けてください」


 僕が言っても、動かない。


 しばらくじっとして、尻尾をバンバンと叩きつけて、鼻を鳴らして僕から離れていった。

 手の届かない場所に寝転んで、毛づくろいを再開している。 


 ――毛づくろいのときは無理ですか……。


 ならば、と作戦を変えることにした。

 カリカリを2、3粒、手のひらに握った。


「ご飯ですよー」


 エサ入れを揺らして音をたてる。


「あら、そんな時間かしら?」


 という顔で、うちの猫が近づいてくる。


 エサ入れまでの道は僕が座ってふさいでいた。

 避けて通ろうとすると、手を伸ばして邪魔をした。

 これでエサ入れまで行くことはできない。


 通してくれない僕に、不審な表情をしている。


「ほら、カリカリはここにありますよ」


 カリカリを握ったほうの手を差しだした。

 うちの猫はにおいをかごうともしなかった。

 完全に無視だ。

 どうにかしてエサ入れに向かおうとしている。


「ここに……」


 うちの猫はそれからも何度か、エサ入れへ向かおうとしていた。

 僕の横を首を縮めて通ろうとしたり。

 ジャンプをしてみようとしたり。

 すべて僕がガードした。


 どうしても無理だとわかるとちらっとにらんで去っていった。

 そのまま窓のほうへ歩いている。


「カリカリ、ですよ……?」


 うちの猫は振りかえらずに、窓から出て行ってしまった。



 カリカリを食べるついでにペロペロしてもらう作戦も失敗だった。

 これ以上打つ手がなかった。



 ――どうすればペロペロしてもらえるのか……。


 窓の外の風景を眺めて考える。

 気がつくと、ボスが僕を見つめていた。

 なにやら興奮している。


「え? なんですか?」


 ボスが僕の手をポンポンと前足で叩いて、


「開いて!」


 という顔をしている。

 握った手の中にはさきほどのカリカリが入っていた。

 見えないはずなのに、においでわかってしまうようだ。

 

 ――これは、どうしましょうか……。


 味を覚えてしまうとまずいかもしれない。

 でも2、3粒だしいいかな、とも思う。


 僕が悩んでいると、待ちきれなくなったようだ。

 ボスが背中を地面にこすり付けて懸命にアピールしていた。

 体を左右にねじっている。

 慌てすぎて、柔道の横受身のように見える勢いだ。


「わかりましたよ……でも、これだけですよ」


 開いた手のひらに、ボスが顔を突っ込んだ。

 あっというまにカリカリを食べてしまった。


 ――ボスが手から食べても仕方ないんですよ……うちの猫に食べてほしかったんですけど……。


 食べ終わった後も手のひらのにおいをかいでいる。

 まだ食べたりないようだった。

 ボスの鼻息が当たっていた。


 ――これは……!


 さらに指と指のあいだに鼻を突っ込んで調べている。

 僕の手のひらをなめまわすようにしてにおいをかいでいた。

 息づかいが伝わってきていた。


 ――これは……なかなか悪くないですね! でも……もうあげませんよ。


 これ以上のカリカリがないとわかったボスは、地面にばたりと倒れこんだ。

「ふぅーん」と鳴いて僕をじっと見つめていた。


 僕は目をそらして、


「……もうあげませんからね?」


 とつぶやいた。

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