うちの猫のペロペロ!
万全の準備をして釣りに出かけても、期待ほどの釣果はなかなか得られない。
「たとえ釣れなくてもそれはそれで楽しみがある」
そう言われれば、それはそうなのだけれど、たくさん釣れたらどうしようかといろいろ考えて、結局スーパーで魚を買って帰らなければなくなると悲しくなってくる。
――この切り身も海にいたはずなんだよなあ。
とか、
――釣りに行かずに最初からスーパーで買っていたほうが安上がりだったのでは……。
とか思ったりする。
その日は珍しく大漁で、クーラーボックスにぎっしり……とまではいかないけれど、結構な量の魚を釣りあげることができた。
キッチンにクーラーボックスをドン! と置いて、うちの猫を抱きかかえて連れてくる。
「ほら、見てください! すごいでしょう?」
クーラーボックスのふたを開くと、うちの猫は「うぅーん、うぅーん」と鳴きながら僕の腕の中でもがきはじめた。
「えっ? どうしたんですか? 魚ですよ?」
抱かれるのが嫌だったのかな、と床におろすと、後ずさりしながら離れていった。
クーラーボックスのふたを閉めると、「落ち着け、落ち着け」という感じで必死に毛づくろいをはじめる。
ふたを開けると身構える。
閉めるとまた毛づくろいだ。
――このにおいが嫌なんですかね?
今日のクーラーボックスの中身は、かなり生臭かった。
――猫は鼻がいいでしょうし、こういうこともあるんですか?
と考えていると、うちの猫はキッチンの壁に張り付くようにして、そろりそろりと、クーラーボックスから一番遠いルートで逃走を図っていた。
その後、焼き魚をテーブルに並べてご飯を食べようとしていると、うちの猫が鼻をひくひくさせながら近づいてきた。
「あー、やっぱり気になるんですね」
魚の身をちょっとつまんでうちの猫の前に置く。
慎重ににおいをかいでいる。
嫌いなものだったら、ここでそっぽを向いて離れていくはずだ。
――今日の焼き魚はどっちですか?
見ていると、うちの猫が魚の切れ端をペロッとなめた。食べる気になった合図だ。
――この魚は好きな魚だったんですね!
と僕はうれしくなった。
ところで、うちの猫はごはんを食べるのが下手だ。
かぶりつくということができない。かわりにペロペロなめて、エサを口の中に入れようとする。
ちょっと何を言ってるのかわからないと思うけど、とにかくそうなのだ。
エサをペロペロなめる。
そのときに、舌に引っかかって口の中に入ったものを食べる。
なかなかうまく口に入らないのだけど、根気よく、エサが口の中に入るまでペロペロを続ける。
ときどき、なんで口に入らないんだろうと不思議そうな顔で首を傾げていたりする。
テーブルの上に置いた魚の切れ端を前にして、うちの猫はいつものペロペロをはじめた。
ペロペロ……コロン。ペロペロ、コロン。
うちの猫がなめるたび、舌に押されて魚の切れ端が転がっていく。
ちょっと角度が悪かったのかな、というふうに体の位置をずらして、またペロペロを繰り返している。
どうしても切れ端はうまく口に入らない。
――こうしてずっと見ててもいいんですけど。
にやけそうになりながら、僕はこっそり指で魚の切れ端を固定した。
そうしてようやくうちの猫は魚を口の中に運ぶことができた。
しっかり味をたしかめて、飲み込んでから口の周りをペロリ。
それから僕を見つめて、
「もう食べ終わったんだけど、おかわりはまだなのかしら」
という表情で、すまして座っていた。
僕が魚の切れ端を用意すると、さきほどとまったく同じように、ペロペロコロンを始めてしまった。




