うちの猫の外泊3
それから、僕は家の周りを散歩するようになった。
耳を澄ませながら、歩く。
首につけた鈴の音がどこかで聞こえたような気がして、立ち止まる。
暗がりの奥に動く影を探して、「にゃー」とつぶやいてみる。
歩きながら、さりげなく、パンパンと手を叩く。
周囲に人がいないようなら、
「どこですかー? そろそろ家に帰りましょう」
と大声を出す。
そして、後ろを振り返り、ついてきているものがいないか確認する。
そういう「散歩」だった。
何度確認しても、うちの猫はついてきていなかった。
家族全員が同じような「散歩」をしているらしかった。
しかし、見つからない。
これは本当に事故にあったんじゃないか、車に轢かれてしまったんじゃないか、と不安になった。
少し遠くの国道へ向かった。
側溝の中まで探したけれど、うちの猫はどこにもいない。
動物が車に轢かれた形跡もなかった。
これにはほっとして、でも、はやく帰ってきてほしいと思った。
散歩の途中ですれ違う車は、睨んで威嚇することに決めた。
うちの子がこの付近にいるかもしれないのに、と。
十日ほどたったころに猫は突然帰ってきた。
「鳴き声がした気がする」
「鈴の音が聞こえた気がする」
猫がいないあいだ、そんなことを言っては家の周りを確認して回ることを繰り返していたのだけれど、このときは本当に聞こえた気がした。
外に出ると、猫がうずくまって僕を見上げていた。
やせ細っていた。
ひとまわりちいさくなったようだった。
あわてて抱きかかえて、家の中につれ帰った。
猫はガタガタと震えていて、かかえたままソファーに座ると僕のひざに爪を立ててしがみついた。
体をまさぐり、怪我をしたところがないか確認していると、ブルルン……ブルルン……という音が聞こえてきた。
音は次第に激しくなっていった。
ゴヒュブルゴゴ……ゴヒュブルゴゴ……。
それは猫がのどを鳴らしている音だった。
いままでに聞いたこともないような特大の「ゴロゴロ」だ。
息がうまく出来なくなるくらいの勢いで、のどを鳴らしている。
――そうか……。
と思って、僕はゆっくりと猫のからだを撫でた。
どれだけ触っても嫌がることなく、猫はじっとひざにしがみついて、のどを鳴らしていた。
帰ってきた猫を見て、家族が集まる。
「ほらね、帰ってきたでしょ」
「すぐに帰ってくるって思ってたからね」
「遠くまでいけるわけがないし」
思ってもないことばかりを口にして、かわるがわる猫を撫でていた。
猫はたいして反応をせず、ガタガタ震えたまま僕のひざにしがみついていた。
撫でられるたびにのどを鳴らす音は大きくなっていった。
あんまり大きいので、壊れてしまうんじゃないかと思った。
猫がいつまでも震えているせいで、その日は遅くまで寝ることが出来なかった。