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うちの泥棒猫

 ソファーに座って、軽く目を閉じてリラックスして、ふと気がつくと一時間ほど経過していることがある。

 たいして疲れているわけではない。とくに眠いわけでもないのだけれど、いつの間にか寝ていたのだろう。


 軽くタイムスリップをした気分だ。

 何回かに一回は、もしかしたら本当にタイムスリップをしているのかもしれない。


 



 この日も目を開けると、沈みかけだった太陽が完全に沈んでしまっていた。

 

 ――あら、寝てましたか。……あれ?


 どうも部屋の中の様子がおかしかった。テーブルの上のお菓子の箱がひっくり返っているし、積んであった雑誌が崩れている。

 つねに整理整頓を完璧にこなしているというわけではない。

 けれど、部屋はここまで乱れていなかったはずだ。


 ――何事ですか?


 もしかすると、誰かが入ってきたのかもしれないと見回すと、窓のそばに猫を見つけた。見かけたことのない猫だった。


 その猫はニケさんと同じく白と黄色の二毛猫だった。


 黄色の線が目の上にあって、ちょうど眉が八の字になっているように見える。さらに口の周りも黄色でまるく囲まれていて、ドリフのコントでコソドロ役として出てきそうな顔になっていた。


 その顔で僕を見つめている。「ヤバイ! 見つかった!」という表情だった。


 ――ど、泥棒だー!


 と僕は思った。


 僕が立ち上がるとドリフ猫は慌てて逃げ出そうとして、窓ガラスに何度も連続でぶつかっていた。


 ――何してるんですか……。


 ガラスがあることに気づいて別の窓へドリフ猫が走る。そちらは網戸になっている窓だった。


 走った勢いのまま、ドリフ猫は網戸に思い切り体当たりをして、はじき返されていた。宙を飛んでいる。


 ――本当に何してるんですか……って!?


 体当たりのせいで網戸の網が外れてしまっていた。つい先日、張り替えたばかりの網戸だった。


 ――なんて迷惑な猫なんですか……! 早く出て行ってください……!


 ドリフ猫は慌てているせいか網が外れていることに気づかず、さらにほかの窓へ走っていった。

 見ると、そちらの網戸はわずかに開いている。


 ――あそこから入ってきたんですか。さあ、早く出て行ってください!


 よくよく見ると、網戸が開いた部分からボスが顔を覗かせていた。「どうした? 何で開いてるの?」という表情できょろきょろしている。


 そこへドリフ猫が走りこんできた。出ようとしたところでボスと鉢合わせて、「ギャッ!」と叫びながらひっくり返った。そして起き上がると同時に方向転換して、今度は階段を駆け上がっていってしまった。僕の部屋の方向だ。


 ――もう、勘弁してくださいよ……。


 階段を上る間に、僕の部屋でドタバタ暴れている音がしていた。


 部屋に入ると、ドリフ猫はベッドの上で追い詰められた表情になり、「こうなったら……やってやる!」と身構えていた。


 引っかかれたら困るので、僕は「ウゥー」と威嚇しながらドリフ猫を退路へ誘導するように、ドアの前にスペースを作った。


 ――さあ、早く出て行ってください……。(クワー!)


 ドリフ猫は意を決したように、僕の前を猛スピードで走り去り、階段を下りていった。無事に開いた網戸から出て行ったようだ。


 ――まったく、なんて迷惑な猫なんですか。こういう猫とくらべると、ボスはずいぶんましだったんですね……。ボスは賢いですしね……。


 そう思いながら、僕は念入りに網戸を閉めてまわった。



 

 

 ――とまあこういうことがあったと、とりあえずメモにまとめて、それからコーヒーを飲もうと部屋を出たとき、家の中のどこかから視線を感じた。


 よく探してみると、階段の影に隠れてボスがくつろいでいた。べったり横になって毛づくろいをしている。


「なるほど……僕がドリフ猫を追いかけて二階にいるあいだにこっそり入って、いままで息を潜めていたわけですか」


「ゴロゴロ」


「賢い侵入方法ですね。ドリフ猫に気を取られて、まったくわかりませんでしたよ。家の中を荒らしまわってないところもポイントが高いです」


「ゴロゴロ」


「でも出ましょうか」


「フゥーン……」


 ボスはおとなしく僕の後についてきて、一緒に玄関のドアへ向かった。


 ドアを開いて去り際に、「ドリフ猫は今度から追い払ってもいいですからね」とお尻を叩くと、シッポをピンと立てながらトコトコ走り去っていった。

 



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