うちの涼しくない猫
雨ばかり降っていて、いい加減晴れないかなあと思っていたところで晴れの日が続く。そうすると、いくらなんでもこれはあまりにも暑すぎる、曇りくらいがちょうどいい、なんてことを思ったりする。
こういう僕のわがままな想いに天気が応えてくれることはなくて、たいてい晴れの日は一日暑いままだ。
その日は夕方になっても暑くて、僕もうちの猫もぐったりしていた。
こんなに暑いと行動パターンがいつもと変わってくる。うちの猫は風通しのいいフローリングの床にべったりと張り付くようにして横になっていた。
僕が近づいてもまったく動かない。ちら、と視線を動かすだけだ。
「あっついですねー」
と言いながら、僕も猫の横でフローリングにへばりついてみた。
意外と冷たい。
ほかの場所に比べると、多少は風が――生ぬるい風が吹いているような気がする。見た目はひどい状況になるけれど、暑さをしのぐにはいいかもしれない。
うちの猫は無表情で遠くを見つめたまま横になっていた。僕にお腹を向けている。
あまりにも無防備なその姿に、思わず僕は手を伸ばして、つんつんとお腹をつついてしまっていた。
すると、「そういうの、やめてよね」というように、うちの猫は肉球でそっと僕の手を押し返してきた。
――えへへ。
と僕は思った。
「そんなことされたら……もっと触っちゃいますよー」
普段と違う様子をチャンスとみて、僕は手のひらでわしゃわしゃとお腹をさすり始めた。
うちの猫は困った顔をして、もぞもぞと寝そべったまま僕から離れていった。ちょうど手がぎりぎり届かないところで止まって、また無表情になる。
――元気ないですね。猫もさすがに暑いですよね。
と僕は思った。
うちの猫は人工的な風が嫌いで、扇風機を回すと走って逃げていく。ふうーと息を吹きかけるだけでも遠くに行ってしまう。
水も嫌いだから、涼しくなる方法がほとんどない。
どうしたものかと考えていたときに、あるものの存在を思い出した。
「ちょっとこっちの部屋に来てください!」
無理やりうちの猫を抱き上げると、小さな声で「ウゥー」と唸っていた。唸り声にもいつもの元気はない。
猫をいすに座らせて、僕は小物入れの中を探した。間違いなくここにあるはずだとかき回していると、底のほうにクリーム色の物体が見えた。僕が探していたもの――クーラーのリモコンだ。
「見ててください。これで涼しく――」
ふと、うちの猫はクーラーは大丈夫だっただろうか、という疑問が浮かんだ。
人工的な風が出てくるし、ある程度の騒音も聞こえるはずだ。使っていたのは一年ほど前のことなので、猫の反応がどうだったかは忘れてしまった。もしかするとクーラーが嫌いかもしれない。
「涼しくなりますからね! もう少しの辛抱ですよ!」
ボタンを押すとガコガコ……ブウゥーンとクーラーが動き出した。
うちの猫はびっくりした顔で、それを見つめている。
「すぐに涼しくなりますよ。というか、もう涼しいような気もします」
クーラーの前の床で僕が寝そべっていると、うちの猫はいすから飛び降りて、トコトコと走り去ってしまった。
――ああ、やっぱりクーラーはダメでしたか。
あとはもう、打ち水を撒くくらいしかない。ほかに何かいい案がないかなあ、と考えてしばらくすると、僕も異変に気づいた。
クーラーから出てくる風が、カビくさい。
――だから逃げちゃったんですか。クーラーの掃除もしなきゃですね。
そう思いながら、僕は床に寝そべっていた。




