うちの猫と眠れない夜
暑いというほどではないのだけれど、なんとなく息苦しいような、中途半端な気温の日が増えてきたような気がする。雨が降っているせいかもしれない。
夜、寝るときに少し窓を開いて、それでも寝苦しかったりする。
ようやく眠れたと思ったら、カリカリカリカリという音で目が覚めた。
うちの猫がドアを引っかいているようだった。
眠る前には開けておいたはずなのに、ドアは閉まっていた。
風が吹き込んで、閉めてしまったのかもしれない。
「はいはい、いま開けますからねー。待ってくださいね。はい、開けましたー」
ドアの向こうに座っていたうちの猫は不機嫌そうに鼻を鳴らして、開いたことを確認すると去っていった。
「開けてほしかっただけですか……。いいですけど……」
ドアを開けたままにして、すぐに、僕は布団の中にもぐりこんだ。
カリカリカリという音で、また目が覚めた。今回もドアが閉まっていた。
さきほどとの違いはうちの猫が部屋の中にいて、閉じ込められているという点だ。
ドアを見上げて、落ち着かない様子でうろうろしていた。
「うん……はい、開けますよ……。閉じ込められちゃったんならしょうがないですね。開けてほしいですよね……」
部屋から出ると、僕のほうをちらちら振り返っている。
「遊ばないですよ……。寝ましょう。もう夜中です。ああ、ついでにちょっとトイレに行ってきます」
そうしてトイレからでると、うちの猫は窓の前に移動していた。窓ガラスを引っかいている。
「外に出るのはやめましょう。夜中です。寝る時間です」
「ふぅーん」
「甘えてもダメです。寝ましょう」
しばらくうちの猫の隣に座って説得していると、窓を開けない僕に腹を立てたのか、うちの猫が「ウゥー!」とうなりだしてしまった。
「んん……。わかりました……。開けますけど、夜中ですからね。出たら、カギ掛けちゃいますよ。僕はもう寝ますから、朝まで帰れませんよ?」
そう言って僕が窓を開けると、うちの猫は僕に向かって「クワッー!」と威嚇してから暗闇の中に消えていった。
待っていても仕方がないし、眠いので、僕は部屋に戻った。
その日の朝、僕が起きると、窓ガラスにうちの猫がぴったりと張り付いていた。
耳をぺたんと伏せて、目をぱちぱちさせている。
「おはようございます。待ってたんですか? 外は楽しかったですか?」
と窓を開けると、うちの猫はとぼとぼとエサ入れに向かっていった。こころなしかうつむいているようだった。
「……? いや、ちょっと待ってください。意地悪して、締め出したわけじゃないんですよ。寝てたんです。帰れないって言いましたよ!?」
エサ入れのにおいをかいで、水差しのにおいをかいで、でも口をつけることはなく、うちの猫は悲しそうに「ふぅん」と鳴いた。
「あの……元気出しましょう! ほら、おやつですよ!」
チューブのおやつを食べると、ようやくいつもの調子に戻ったようだった。「クワッ!」と鳴いて走り去っていった。
窓ガラスには、うちの猫の鼻の形の跡がびっしりとついていた。




