うちの意外と甘える猫
猫の言葉を翻訳できるというアプリを使ってみた。
このアプリによると、うちの猫は、
「私のこと見て」
「かまって」
「調子はどう?」
「会えてうれしい」
という言葉を連発しているらしい。
――そんなにデレデレなわけないじゃないですか……。うちの猫が……。
あんまりあてにならないアプリだな、と思うのだった。
***
庭で作業をしていると、うちの猫が近づいてくる。
「本当に、すぐ来ますよね、庭にいると。そんなに気になるんですか?」
うちの猫は僕から少し離れた場所に座った。
そして毛づくろいを始める。
あんまり気になっている様子ではない。
「でも、気になってないんなら、毎回見に来ないですよね……」
草をちぎってうちの猫の鼻に近づける。
うちの猫が好きな、縦長の葉っぱの草だ。
うちの猫はプイっと顔をそむけた。
トコトコと歩いて、1メートルほど移動して、べたりと座り込む。
「せっかく来たんだから、遊んでくださいよー」
僕が近づいておでこを撫でると、しばらくのどをぐるぐる鳴らして、それから思い出したようにトコトコと移動する。
「もー、ちょっとだけ移動して―。嫌ならもっと離れるでしょ? 嫌じゃないんでしょ?」
と僕が追いかける。
こうしてふたりで庭をうろうろするのだった。
***
うちの猫が、ギリギリ僕の手の届かない距離でくつろいでいるのを眺めていると、カサッと足元の草が揺れた。
何気なく音のした場所を眺めると、またカサッと音がする。
トカゲがいるのだった。
――あっ、トカゲ。まだ気づいてませんね。
うちの猫はリラックスして草のにおいを嗅いでいる。
トカゲのほうは、周りのことを気にせず、うちの猫の目の前を横切ろうとする。
トカゲがうちの猫の前を横切ってしまったあたりで、ようやく気付いた。
うちの猫がビクッと立ち上がる。
そして首をかしげて、トカゲを見つめる。
――トカゲを捕まえるつもりですね。邪魔をしたら怒るでしょうから、ここは静かに見守って……。
と見ていると、うちの猫が恐る恐る前足を伸ばす。
気づいたトカゲが反応して、ジタバタと方向転換をする。
うちの猫は驚いてぴょんと飛び上がっていた。
そのすきに、トカゲが逃げていく。
――ええ? 捕まえるの下手すぎませんか……? 小鳥を捕まえてきて迷惑してるのに、なんで……? ここから追いかけるんですか……?
と見守っていると、うちの猫がトコトコと僕に近づいてきて「フウーン」と悲しそうな声で鳴くのだった。
おでこを押し付けてくるので、撫でて落ち着かせる。
トカゲに逃げられてショックだったのかもしれない。
――あのアプリ、やっぱり当たってるのかもしれませんね……。
「慰めて!」というように、身体を押し付けてくるうちの猫を撫でながら思うのだった。




