うちのどうしても入りたい猫
暑くなってきたので布団の入れ替えをした。
押し入れから薄い掛布団を取り出して、庭に一度干しに行く。
それから、今使っている毛布の布団も干しておく。
押し入れにしまう前に干したほうがいいかなと思ったのだ。
「とりあえずこんなところで、あとは夕方になってからですね……」
と言いながら開けっ放しになっていた押し入れのドアを閉めようとして、気配を感じた。
「うーん……?」
押し入れの中に目を凝らす。
するとうちの猫が、押し入れの布団の奥で寝そべっているのだった。
「あー、いた! いつのまに入ってるんですか?」
うちの猫は何の感情もない顔で、どこか遠くを見つめている。
「これでドアを閉めちゃうと、一時間くらい後に大騒ぎするでしょう? 早めに気づいてよかったですよ。さあ、出ましょう?」
と僕が手を伸ばす。
うちの猫は「なんなのかしら」という顔でジリジリと後退する。
「ちょっと……奥に行かないで……。出てきてください……。このままだとあとから面倒なんですよ……」
だんだんとうちの猫の瞳孔が大きくなって、伸ばした僕の手を叩き始めるのだった。
***
「そろそろいいですかね」
夕方になって、布団を取り込む。
うちの猫はなんとか押し入れから出てきてくれていた。
「この布団なら少しは眠りやすくなるでしょうね……」
そういえばこのところよく眠れてないんだよな、と思いながら布団をベッドに乗せる。
「あのGABAのおやつを買ってきてもいいかもしれませんね」
お気に入りのおやつのことも思い出す。
睡眠に効果があるらしい。
「じゃああとはこの毛布を押し入れになおして……」
と毛布を腕に乗せて、移動していると、うちの猫が近づいてきた。
頭を低くして、申し訳程度に目立たないようにしている。
「ん? なんですか?」
「何でもないのよ?」という風に、壁に身体をこすりつけている。
「何なんでしょうね?」
と僕が歩き出すと、ソロソロと後をつけてくる。
僕が止まるとピタッと止まる。
そしてごまかすように「ウウーン」と鳴く。
「もしかして、押し入れに侵入するチャンスを狙ってますね……? 僕が毛布を入れる瞬間を狙って、押し入れに入るつもりですよね……?」
「フウーン」と首を伸ばしてかわいく鳴く。
「おかしいですよね……。いつもと全然態度が違うじゃないですか……。絶対押入れを狙ってますよね……」
うちの猫を止めようにも、毛布を抱えているので自由に動けない。
もし押し入れに入ってしまったら、出てきてもらうのにまた時間がかかることになる。
リビングを一周しても、うちの猫は僕の背後から離れようとしない。
「もう!」
毛布をポイっとソファーにかけて、自由になって両手でうちの猫を捕まえる。
しばらくの間、外に出てもらうのだ。
ギュッと抱えて玄関に向かうと、うちの猫は「なにするのよ! こっちじゃないでしょ! 押し入れでしょ!」とばかりに「ギャアーオ!」と鳴いて暴れるのだった。




