かつおぶしは、まだですか?
シマシマシッポがエサ入れの前に座っていた。
「あっ、ご飯ですか? ごゆっくりどうぞ」
と声をかけるが食べ始めない。
エサ入れの中にカリカリは入っている。
だが、シマシマシッポはエサ入れの前に座って僕を見上げるのだ。
「かつおぶしはまだですか?」という顔で。
「もう……最近そればっかりじゃないですか」
カリカリをそのまま食べようとせずに、こうして「かつおぶしはまだですか?」という顔をするのだ。
毎回同じ顔だ。
「カリカリだけで食べたっていいじゃないですか……。というか、かつお節かかっていますよ。前にかけた分が、ほら」
僕が指をさすと、「ん?」という顔でエサ入れをのぞいて、また「かつおぶしはまだですか?」を始める。
もう条件反射になっているようだ。
「いや、さすがにかつお節ばっかり食べるのはダメです。毎回かけるわけにはいきませんよ。だいたい僕がいなくなったら、あきらめてカリカリ食べてるでしょう」
と「かつお節はまだですか」の顔をしたシマシマシッポを残して、リビングから去るのだった。
***
うちの猫が座っている。
どうやらうちの猫の進路上にシマシマシッポがいるため、立ち往生しているらしい。
一方のシマシマシッポは……「かつおぶしはまだですか?」という顔をして座っている。
「その顔でじっと待っていられる忍耐力はすごいですけど……。この状況は一触即発ですか……?」
僕も座って様子をうかがうと、うちの猫は今すぐ飛びかかろうという雰囲気ではない。
目を細めてリラックスしているようにも見える。
「あら、仲良くなったんですか?」
と顔を近づけてみると、うちの猫はちいさな声で「ウアーオゥ……」とうなっているのだった。
「ほら、邪魔だからどいてあげてください」
「かつおぶしはまだですか?」
「いや、そこまでくるとアホの子じゃないですか。後ろが詰まっているんですよ」
「ウアーオ……ウォウゥー……」
「ほら、ほら……!」
「かつおぶしはまだですか?」
「もう……」
おかしなことを覚えてしまったな、とため息をつくのだった。
***
「さて、ちょっと草むしりをしておきますか。草が伸びてきましたからね」
と庭に出ると、シマシマシッポがトコトコとかけてくる。
「あら、外で遊んでいたんですか? ……ってその顔は……!」
シマシマシッポは僕の前に座って、「かつおぶしはまだですか?」という顔をするのだった。
「庭でかつおぶしが出てくるわけないでしょう……。あっ、ほら、来ましたよ」
うちの猫がのそのそと歩いてくる。
進路上にはシマシマシッポ。
のそのそと歩きながら、キッとにらみつけている。
「ほら、あきらかに邪魔なところにいるでしょう。どうしてこの子たちはこんなにタイミングが悪いのか……」
「かつおぶしはまだですか?」
「ウアーオ!」
「ほら、ほら……!」
まったく動こうとしないシマシマシッポに激怒して、うちの猫が猫パンチ。
逃げるシマシマシッポを、猫パンチ、ダッシュ、猫パンチ、ダッシュのコンビネーションで追いかけていく。
「かつおぶしのことしか考えていないとそうなるでしょう……。少し仲良くなって来たかなと思ってたんですけど……」
と僕はため息をつくのだった。




