うちの気分屋さん
うちの猫は気分屋だ。
もともとそういう猫なのだけれど、いままでよりも気分が切り替わるタイミングが早いな、ということが、最近ときどきある。
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「ンニャー! ナーオ!」
あきらかに怒っているうちの猫の声が聞こえた。
玄関からだ。
急いでドアを開けに行く。
「ナッ!」
ドアを開けるとシッポをブンッと振って、飛び出していく。
そして、すぐに立ち止まった。
「……?」
「……」
僕にお尻を見せつけたまま、うちの猫が止まっている。
「あっ、もしかして……僕に追いかけてきてほしいんですか? もう……しょうがないですね!」
サンダルを履いてドアから出ると、うちの猫はくるっと向きを変えて、家の中へ入ってしまった。
「えっ……? あんなに急かしてたのに……もう外はいいんですか……? 気が変わったのかなあ?」
と僕も家の中へ入るのだった。
***
リビングのストーブの前で寝転んでいるうちの猫を見つける。
「えへへ、暖かいですか?」
近づいて、うちの猫を触る。
うちの猫はしばらく「ウウーン」と目を細めていたのだが、突然「カッ!」と僕の手を噛む真似をして、飛び起きる。
そして離れていく。
「あらら、何が気に入らなかったんでしょう……」
ここまではたまにあることだ。
ここからが違った。
離れていたうちの猫がグッと身体に力を入れた。
「あっ、その体勢は、えっ!?」
走り出したうちの猫が僕の足を叩いて、そのまま通り過ぎていく。
近所の猫を見つけたときにするような、強めの猫パンチだ。
「わあっ!? なんで?」
こんなことされるの初めて!? と驚いている僕に、うちの猫はさらにとびかかる真似をして、威嚇してみせるのだった。
***
「いやはや、機嫌が悪かったんですかねえ……」
気を取り直して食事をしようとテーブルに着く。
するとうちの猫もテーブルに飛び乗ってきた。
うちの猫は僕が食事をしていると、テーブルの上をうろうろすることが多い。
食事の時間だというのが分かるみたいだ。
「あ、カリカリ入ってますよ。あそこ。食べます?」
僕が食べ始めると、うちの猫は目の前に座った。
ご飯を挟んで向かい合う形だ。
「うん? 僕が食べるのを見たいんですか?」
食べていると、どうも様子がおかしい。
「……?」
「……ウウー……」
威嚇してる? とうちの猫の顔を確認するとキッとにらみ返してくる。
「なんで……? ご飯を食べているだけですよ?」
とおかずに手を伸ばすと「ウウー!」と威嚇される。
おかずを口元に運ぶと、当然うちの猫から距離は離れるわけで、そうすると威嚇をやめる。
そして、次のおかずに手を伸ばすと威嚇される。
「どうして……。こんなにハラハラする食事は初めてですよ……?」
威嚇されながらも、なんとか食事を終えるのだった。
***
「なんかそういう季節なんですかねえ……。うーん」
機嫌が悪くなる時期があるのかもしれない。
チューブのおやつをあげれば機嫌が直るかな、と声をかけると、うちの猫は目を細めて、鼻を鳴らして去っていくのだった。




