ふてくされるシマシマシッポ
「またここで寝てるんですか?」
ソファーで丸くなってるシマシマシッポを見つけて、指で突いた。
「ブウ」
「ブウじゃないですよ。最近いつ見てもここで寝てるじゃないですか」
身体を触っていると、嫌そうな顔をして、モゾモゾと前足で顔を隠してしまった。
どうしても動きたくないらしい。
このところずっとこんな調子だ。
うちの猫もあきれたのか、鼻を鳴らすだけで近寄ろうともしない。
「困りましたねえ」
どうしてこうなったのかはわかっている。
ケンカに負けてしまったのだ。
「うーん、でも向こうはケンカをしたいわけじゃないみたいですし……」
どうしたものか、と僕は考えるのだった。
***
虎柄猫は、うちの玄関にたびたびやってくるようになった。
お行儀のいい猫で、玄関のドアの前までしか来ない。
中には入らず、ちょこんと座って「ミイミイ」と鳴いて、誰かがやってくるのを待つのだ。
仲良くなればいいなあと思って見守っていると、うちの猫は遠くから「何よこの子……」と眺めるだけだった。
一方のシマシマシッポは、虎柄猫を見かければ「ミイミイ」「アーオアーオ」と会話をする。
いまは離れて会話をするだけだが、これを続けていけば、そのうちに仲良くなれるのかな、と思っていたのだ。
「さて、もう慣れてきたんじゃないですか?」
その日も会話をしている二匹を見つけて、僕は近づいていった。
二匹の間に座って、声をかける。
「なんかこう、においを嗅ぐとか、お互いに毛づくろいをしてみるとか、もう一歩仲良くなってみましょうよ」
だが二匹は一定の距離を保ったままだ。
僕がしゃがんでじっと待っていると、虎柄猫が動いた。
タタッと走ってきて、僕の膝に顔をこすりつけたのだ。
――この子は本当に、人懐っこいですね。普通の猫の行動をするというか……。かえって新鮮ですね。
二匹の距離が縮まった。
すると、シマシマシッポの態度が変わった。
すごい勢いで鳴き始めたのだ。
「ンアーオ、アオ、ナアア!」
「ミイミイ」
突然怒り出したシマシマシッポに、虎柄猫がビクッと反応する。
シマシマシッポの追撃は続く。
追撃といっても鳴き声だけだ。
「アオアオ! アーオ!」
「ミイミイ」
「ちょっと、ケンカはやめましょうよ」
と僕が言ってもシマシマシッポはおとなしくならない。
虎柄猫のほうは困惑しているようだ。
特に怒るようでもなく、「なんで?」という顔で近づこうとする。
「ほら、シマシマちゃん。いまです。仲良くなるチャンスなんですよ?」
「ミイミイ」
「ンナアーア! アーウ!」
虎柄猫が近づいてくる。
すると近づいた分だけ、シマシマシッポがどんどんちいさく縮こまる。
ついには虎柄猫の足元で、ちいさくなって、コテンとひっくり返ってしまった。
あお向けになりながら、必死に「アーオアーオ」と鳴いている。
「いや、何でですか。何もしないまま負けてるじゃないですか。どういう状況なんです……?」
「ミイミイ」
「ナアア! アーオ!」
「ミイミイ」
「ンナアアア! ギャアアア!」
「ちょっと……ごめんなさい。シマシマちゃんが必死なので、今日は帰ってください……」
「ミイ……」
と僕はシマシマシッポを抱えて家の中へ戻ったのだった。
***
こうしてシマシマシッポはケンカに負けて、その後ふてくされてソファーから離れなくなったのだ。
いつ見ても同じ場所で寝ている。
「もう、ケンカしなきゃいいじゃないですか。いくら何でも弱すぎですし、向こうはケンカをするつもりはないんですよ?」
虎柄猫は仲良くなりたかったんじゃないかと思う。
何度もうちに遊びに来ているわけだし。
「ふてくされるのはやめて、会いに行ってみましょうよ。ねえ」
「ブウ」
「もう……」
とため息をついて窓の外を眺めると、うちの猫が虎柄猫のお尻を叩きながら走っているところだった。




