水を飲みたいはずのうちの猫
「ん? またお水ですか?」
僕を見つけたうちの猫が、ダダダッと洗面所に駆け込む。
そんなに急ぐほどのどが渇いてたのかなあ? と追いかけると、洗面台の下にスタンバイしている。
ここからジャンプして、飛び乗るつもりのようだ。
――あれ、そういえば、いつもは隣に置いてある、洗濯機に乗ってから洗面台に飛び移ってるけど、下から直接? 珍しいですね……?
と見ていると、うちの猫はお尻をフリフリして、ジャンプ!
しかし、残念!
洗面所には届かなかった。
すとんと床に着地する。
うちの猫は特別何も反応せずに、「別に水を飲みたかったわけじゃないし。ジャンプしてみたかっただけだし。もうジャンプして満足したから、ここには用はないし」とでもいうように、すんとした顔で、そのまま出ていこうとする。
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。お水飲みたかったんでしょ? なんで何事もなかったみたいな顔して立ち去ろうとするんですか」
うちの猫が「なんなのこのひと?」という顔で僕を見つめる。
「ほら、洗面台まで連れて行ってあげますから」
とうちの猫を抱きかかえる。
「ギャー! フワ―!」
「そんなに必要以上に怒らないでくださいよ」
いつもよりも激しく怒っている。
「別に水とか飲みたくないし!」とごまかしているようにも見える。
「カーッ! クワー!」
「いいからいいから」
洗面台に座らせて、蛇口をひねって水を出すと、すごい勢いで、ペロペロと舐め始めた。
「やっぱり飲みたかったんじゃないですかー」
声をかけても反応はなし。
邪魔をするわけにもいかないので、飲み終わるのを待っていると、突然ピタッと飲むのをやめて、洗面所をすんとした顔で立ち去る。
お礼のひとつも言わないのだった。
***
普段テレビは見ないが、なんとなくテレビをつけることはある。
そうすると、最近うちの猫が視界に入ってくる。
テレビ台にひょいと飛び乗って、ググっと伸びをする。
ゆっくり、ゆっくり歩いて、テレビ画面の真ん中へと移動する。
そして僕のほうを見ないようにして、毛づくろいを始めるのだ。
「んー、別にテレビは見てないんですけど、つけてるだけなんですけど、そこにいるのはちょっと……」
僕が近づくと、「ほら来た!」というふうに急いでテレビから飛び降りて、部屋の外へ――。
出ていくわけではない。
ドアのところで、お尻だけ見せて待っている。
「もう、遊んでほしいなら遊びますけど、触らせてくださいよ? 撫でまわしちゃいますよ?」
と追いかけると、うちの猫は待ち構えていたように走り出して、結局撫でまわすことはできないのだった。




