うちの呼んだら来る下僕
「ナアーン。ナアーン!」
階段の下から声がする。
「はーい。なんですか?」
「ナアーン!」
と降りていくと、うちの猫がスッと壁の陰に隠れる。
「あれ? いま呼んでましたよね」
「……」
「急に黙っちゃって……。なんですか? お水ですか?」
洗面所の蛇口をひねるが、近づくこともなく、うろうろしている。
「全然違うみたいですね。ご飯ですか?」
リビングに向かうとトコトコと走って僕を追い越していく。
「あ、ご飯だったんですね! うん? カリカリは入ってますよ?」
僕がちょんちょんとカリカリを突くと、うちの猫はにおいを嗅いで、くるっと背を向ける。
「ご飯でもないと……。もしかして……なでなでしてほしいんですかー!」
うちの猫がサッと逃げ出す。
僕の手の届かないところまで逃げて、お尻を向けて座る。
チラッと振り返ったりする。
近づくと逃げてしまう。
「こうなってくると本当になにがしたいのかわかりませんよ。とりあえず……」
孫の手を持ってきて、遠くからうちの猫の背中を撫でると、嬉しそうに「ナアーン!」と鳴くのだった。
***
庭の片づけをしていると、うちの猫が近づいてきた。
「何してるのか、気になるんですかー?」
うちの猫に限らず、庭で作業をしていると猫が観察しに来る。
いわゆる猫の現場監督というやつだ。
「はい、好きそうな長い草がありましたよ」
と鼻に草を近づけてみると、うっとりしたような嫌がっているような、何とも言えない表情になる。
「鎌を使ってますからね。ちょっと離れてみててくださいね」
と作業を続けていると、ぷいっとどこかへ行ってしまう。
飽きたのかな? と見送ると、入れ替わりにボスがやってきたのだった。
――あー、ボスが来たから嫌だったのかな……? そんなに嫌っている印象はなかったですけど、うちの猫は難しいですね……。
ボスは僕の目の前であおむけになって、地面に背中をグネグネこすりつける。
それを眺めたり、ボスを転がしたり。
「さて、そろそろ片付けも終わりにしましょう」
と家の中に入ろうとしたときに気づいた。
うちの庭と隣との境目の当たり。
遠くのほうから、シマシマシッポが悲しそうな顔で僕を見ているのだった。
「えっ……いつからいたんですか? 気づきませんでした」
ボスがのそのそと退場すると、入れ替わりにシマシマシッポが近づいてくる。
「なんで……? 順番待ちだったんですか?」
シマシマシッポが僕の目の前でごろりと横になり、見せつけるように毛づくろいを始める。
仕方がないので、シマシマシッポの気が済むまで、僕は毛づくろいを眺めるのだった。




