さすがに暑すぎて元気のないうちの猫
「ちょっとすごいことになってますねー」
このところ夕方になっても蒸し暑い。
昼はなおさら暑い。
テレビでは、38度とかいう数字を告げていた。
「暑いにしても、このモワァッとしたのがなければまだすごしやすいんですけどねえ……」
僕の目の前をトコトコとシマシマシッポが通りすぎた。
水を飲むつもりのようだ。
「猫も暑いですよねえ」
と僕はしゃかみこんで、シマシマシッポが水を飲む様子を横から眺めた。
猫が水を飲んでいる姿はかわいい。
見られていても、一生懸命飲むことに集中しようとするところがいい。
「えへへ、美味しいですかあー?」
ピチャピチャ。
「たくさん飲みますねー!」
ピチャピチャ。
「お尻触っちゃいますよー?」
ピチャピチャ。
「もう触ってますよー? いいんですかあ?」
ピチャピチャ。
水を飲み終えたシマシマシッポは、くるりと僕に背を向けて、急いで逃げていくのだった。
***
うちの猫はテーブルの上に横たわっていた。
足をダラリと伸ばして、憂うつな顔をしている。
「えへへ、暑いですねー?」
お腹をツンツンすると、面倒くさそうに「ニ゛ャーン!」と鳴いた。
「あれ? 喉の調子が悪いですか?」
「ニ゛ャア゛」
鳴き声が濁点がついたように濁ってしまっている。
「うーん、夏バテかな……? こんな時期に体調が悪くなると、困りますねえ……」
「なら触るな!」というふうにシッポをブンと振る。
「そうだ、おやつ食べますか? チューブのやつ。好きな味のを買ってきましたよ」
チューブをハサミで切ると、うちの猫がのそのそと近づいてくる。
「これ食べて元気出しましょうね」
とチューブの中身を出していると、うちの猫がプイっとそっぽを向いた。
中身は半分くらい残っている。
「えー? まだありますよ?」
鼻に近づけても、食べようとしない。
「チューブのおやつを食べないなんて……。やっぱり体調悪いんですね? あれ使いますか」
と冷蔵庫の中を探す。
保冷シートがどこかにあるはずなのだ。
見つけた保冷シートをタオルにくるみ、最近うちの猫が気に入っているカラーボックスの中に敷く。
「さあ、涼しいところを作りましたよ! 入ってみてください!」
と言ってもうちの猫は動かない。
見慣れない、タオルにくるまれた物体を警戒しているのかもしれない。
「んーそれ!」
抱きかかえると、「ンニ゛ャア! ニ゛ャア! ナアアアー!」と暴れる。
「まあまあ、いいからいいから」
強引にカラーボックスの中に寝かせると、スンッと暴れるのをやめて、ぺったりと平たくなる。
冷たいことに気がついたようだ。
「ほら、冷たいでしょう! ここで涼んで元気出してくださいね」
僕が鼻をツンツンしながら言うと、うちの猫は平べったくなったまま、上目遣いで「あんまり触らないでよね!」という顔をするのだった。




