贅沢を覚えたシマシマちゃん
「ホオーウ? アーウ?」
シマシマシッポがエサ入れの前に座って鳴いている。
ご飯を要求するときの鳴き方だ。
「いや、ほら、見てください。カリカリ、入ってるんですよ? なんでそんなにご飯を要求するんですか?」
指先でカリカリをかき回して音をたててみせる。
ほらね? とシマシマシッポを見つめると目を反らして「アーウ?」と鳴く。
「カリカリ? なんのことかなあ? ご飯ください」という顔だ。
「いや、ありますってば。今日は粘りますね」
こうしておかわりをもらおうとしたり。
かつおぶしを振りかけてもらおうとしたり。
シマシマシッポはご飯に関してはワガママを言う子なのだ。
しかし今日はいつもとちょっと違う。
粘っている。
ーーやっぱり、あの缶詰めですよねえ……。
数日前、安売りしていた猫の缶詰めを買ってきたのだ。
シマシマシッポは缶詰めが気に入ったらしく、ものすごい勢いで食べていた。
それが、もう一度食べたくなったらしい。
「もう、そうやって欲しがればなんでも出てくると思ったら、大間違いですよ!」
「アーウ?」
「ふう……今日のところは、缶詰めがまだあるので、用意できますけど。ほら、実はまだあったんです……いやちょっと! 僕に登ろうとしないでください。いまあげますから。待って! 焦らなくてもあげますから」
カリカリの上に缶詰めの中身を少し乗せると、勢いよく食べ始める。
缶詰めの部分を食べて、その勢いのまま、カリカリももりもり食べる。
ーーよし、なんとかカリカリも食べてくれましたね。あんまり贅沢を覚えてしまうと大変ですからね……。缶詰めはちょっとお高いですし……。とか言いながら缶詰めを食べさせちゃってるので、もういまさらな気もしますけど……。
シマシマシッポはうちの猫と違って、最終的には食べ物ならなんでもいいというタイプなので、そんなに心配する必要はないかな、と考えながら、僕は食事を見守るのだった。
***
うちの猫は別の意味でワガママだ。
シマシマシッポがあんなに喜んでいた缶詰めも、鼻を鳴らすだけで食べようとしない。
ーーなんというか、こう、シマシマシッポとうちの猫の、ちょうど中間くらいになってくれればいいんですけど……。
洗面所にいるうちの猫を見つける。
蛇口を見つめて首をひねっている。
ーー水が飲みたいんですね。
そう考えて、そっと近づき、手を伸ばして、水を出す。
蛇口から出てくる水を眺めて、うちの猫が鼻を鳴らす。
水に口をつけることなく、どこかへ去っていく。
だいたいいつも、こういう感じなのだ。
猫らしいといえばそうなのだけど、ちょっと難しい感じのワガママさんなのだ。
***
僕が部屋で本を読んでいると、うちの猫が入ってきた。
座布団に座って、僕を見つめている。
「ん? どうかしましたか?」
おでこを撫でるが、それじゃない、という顔だ。
シッポを床にバシバシ叩きつけている。
僕を見つめて何かを要求している。
「うーん、なんでしょう? あ、コーヒー淹れてきますね」
本を伏せて、部屋から出て、コーヒーを片手に戻る。
するとうちの猫が僕の座っていた椅子の上で丸くなっていた。
「え? そこに座りたかったんですか? 珍しいですね」
いままでうちの猫がこの椅子に興味を持ったことはない。
「いいんですけど。あれ、僕はどこに座ろう……」
コーヒーを片手に途方にくれる。
結局、僕は床に座るのだった。
***
その後もうちの猫は、ちょくちょく椅子で丸くなるようになった。
ーーなんかこれ、おかしくありませんか……? ちょっとひっかかるところがあるんですけど……。
うちの猫が椅子に座っているのを見つける、ということはない。
僕が椅子に座っていると、うちの猫がやってきて、はやくどいてくれないかしら、という顔をするのだ。
ーーなんか、椅子に座りたいというより、ただ僕をどかしたいだけみたいな……。
そうして、結局僕は床に座って本を読むことになるのだった。




