うちの大移動
ニャンニャンと声がする。
「はいはい、いま開けますよ」
僕が窓に向かうと見えたのは予想と違う光景だった。
猫が四匹、並んで歩いている。
うちの庭、窓のすぐそばを。
うちの猫も、シマシマシッポもいない。
知らない猫たちが、散歩でもするように、ゆっくりと歩いているのだった。
――えっ? どういうこと?
しゃがんで眺めていると、1匹が立ち止まった。
「何か?」という顔で、窓越しに僕を見つめている。
「いや、あの、遊びに来たんですか?」
その猫は不思議そうな顔をするだけで立ち止まっている。
残りの三匹は、特に急ぐこともなく、そのまま去っていく。
――普段見かける猫でもないし、遊びに来たわけでもないみたいだし……?
立ち止まっていた猫は「用はないの?」という顔をして、トコトコ歩いていった。
***
別の日に倉庫の整理をしていると、シマシマシッポがやってきた。
「あら、出かけていたんですね」
うちの猫もシマシマシッポも、僕が外で作業をしていると近づいてくる。
なぜだかわからないが、僕の作業を観察したいようだ。
少し離れたところで座っている。
現場監督気分なのかもしれない。
そこへゆっくりと、見知らぬ猫が現れた。
当たり前のようにうちの庭を横切ろうとする。
――おお、また知らない猫ですね。うちの庭が通り道になったのかな? 暖かくなってきたから、どこかで猫の集会が開催されているのかもしれませんね。
と眺めていると、シマシマシッポが立ち上がった。
「ウアーオ!」
いつもと全然違う声で、威嚇している。
見知らぬ猫は「えっ?」という顔をして、方向転換をして、庭の外へ向かっていった。
「えー、お友達じゃないんですね?」
「ウワーオ! ワーオ!」
「いや、もういないですって」
シマシマシッポは自分の縄張りを守るかのように、一生懸命見知らぬ猫のいなくなったほうを威嚇していた。
――うーん、シマシマシッポの縄張りというよりはうちの猫の縄張りなんですけど。でもこういう感じだからちょくちょく喧嘩をして、ケガをして帰ってくるんですね……。
もうやめて帰りましょう、とおしりをたたくと、シマシマシッポはいつもの調子に戻って、「ブウ」と鳴くのだった。
***
一方うちの猫はどうなのか。
うちの猫が家の中にいるとき、見知らぬ猫たちが通りかかったことがある。
うちの猫はのそのそと窓に近づいて、目を真ん丸にして、じっと見つめていた。
特に威嚇するわけではない。
――でもこの表情、見たことがありますよ……。
うちの猫がボスを追いかけてお尻に猫パンチを喰らわすときの表情だった。
――うちの猫の場合は縄張りを守りたいとかじゃなくて……なんなんでしょう、これ。
遊びに来た猫たちと仲良くなるのは難しそうだな、と思いながら、僕もうちの猫の隣に座って、見知らぬ猫たちを見送るのだった。




