うちの暖かい場所
いくらか暖かくなってきたけれど、今でもうちのリビングではストーブをつけている。
冬の間はずっとつけていた。
寒がりがいるのだ。
***
リビング全体に暖かさが広がるように、ストーブは部屋の奥から真ん中へ向けて設置されている。
床にはホットカーペット。
そこまでする必要はなさそうだけれど、寒がりがいるせいでこうなっている。
ストーブの目の前。
ホットカーペットの上。
両方で暖まれる場所が、うちの猫の定位置だ。
「またここにいるんですね。本当に好きですねー」
前足を思いきり伸ばして、縦に長くなって、なるべくホットカーペットに当たる面積が多くなるようにして、うちの猫はくつろいでいる。
「だいたい、そんないい場所をとられたら、ほかのひとが暖まれないですよ?」
僕がうちの猫の隣に座ると、耳をピクピクさせて、しばらく様子を見たあと、ペチンと僕の手を叩いて、噛む真似をしてみせる。
完全に自分の縄張りだと思っているらしい。
***
うちの猫が暖まっている間、シマシマシッポはどこにいるのかというと、ちょっと離れたソファーの上だ。
ストーブからは離れ過ぎていて、暖かさが届かないし、ホットカーペットの上でもない。
だがうちの猫の縄張りには入れないので、仕方なくこの場所にいることになってしまう。
さすがに寒いだろうと冬物のセーターやジャンパーを置いていると、それなりに気に入ったようで、ジャンパーの中でひっくり返って寝たりもしている。
ソファーから、シマシマシッポがトンと飛び降りる。
ブルッと身体を震わせて、ストーブの方をチラリ。
羨ましそうな顔をしている。
うちの猫がすぐに反応して、シマシマシッポを凝視する。
視線に耐えられなくなったシマシマシッポは、くるりと身体の向きを変えて、カリカリを食べに行く。
「もう、ちょっとくらいいいじゃないですかー。十分暖まったでしょう。譲ってあげましょうよ」
とつつくと、カーペットに爪をたててうちの猫が抵抗する。
その間にカリカリを食べ終えたシマシマシッポがそろそろと移動していく。
向かっているのはうちの猫のエサ入れだ。
近くにあるとシマシマシッポが緊張して食べられないので、こうして離してある。
シマシマシッポはガッと首を突っ込むと、ヤケクソのようにうちの猫のカリカリを食べ始めた。
普段はやらない行動だ。
「あー、ほら、ご飯食べられてますよー? いいんですかー?」
うちの猫も反応はしているが、動かない。
なぜか澄まし顔だ。
シマシマシッポがエサ入れから顔を上げる。
なんとなく悪そうな顔をしているようにも見える。
「ほらー、もう食べられちゃいましたよー。動かないからですよ。というか、シマシマちゃん食べるの速いですね……。そんなにお腹減ってました……?」
シマシマシッポが悪い顔のまま、テーブルに上がり、移動する。
そしてマグカップに、ガッと顔を突っ込む。
「えっ、ちょっと! それ僕のやつ! コーンスープが入ってたやつですよ!」
慌ててシマシマシッポの顔を上げさせようとするが、思いきり踏ん張って、動こうとしない。
「いやもう……。いいんですけど。いや、よくないんですけど……。人間の食べ物は良くないんですけど。まあどうせ残ってるのは少しだったから、いいのはいいんですけど」
コーンスープを食べ終えたシマシマシッポは、しきりに口の回りを舐めながら、満足げな顔でソファーへと戻っていくのだった。
***
その後しばらくして、うちの猫が定位置から移動した。
どこへ行ったのかというと、数歩進んだフローリングの上だ。
ペタリと横になって、ぼんやり空中を眺めている。
「いやそれって場所を譲ってあげたんじゃないですよね……? 暖まり過ぎたから、フローリングで身体を冷やしてるだけですよね……。また戻る気満々ですよね……」
僕が声をかけても、暖まり過ぎたうちの猫は見向きもせず、シッポをブンブンと振って返事をするだけなのだった。




