うちの猫と網戸とお隣の奥さん(前編)
庭に出ると、謎の草が生えていた。
チューリップから、花をなくして葉っぱだけにしたような感じの草だ。根元には球根がある。
――こんな草、前からあったっけ?
僕は首をかしげた。
庭の一画がびっしり埋め尽くされていて、しかもひざの高さくらいまで成長している。
こんなに目立つ草、前からあったなら見落としていたはずはない。
――ここ二三日暖かくなってきたから、それで急成長したのかな。ほかの草も伸びているし、これは草むしりの時期が来たのかもしれない。
そんなことを考えていると、今度はガリッガリッという音が聞こえてきた。なんだかよくない感じの音だった。
――この音はいったい……?
音のほうを見ると、うちの猫が網戸をよじ登っているところだった。
――ちょっと! 何してるんですか……! そんなことをしたら網戸がだめになってしまいます……!
うちの猫は豪快に音をたてながら、網戸を僕の肩くらいの高さまで登ると、耳をぺたんと伏せたまま振り返って、
「あお!」
と鳴いた。
動けなくなってしまったようだ。必死に腕を動かして、網戸から抜け出そうとしている。
「そうですよね……。網目に爪が引っかかって動けなくなってしまいますよね。最初から気づいてほしかったですが、そうでなくても網戸に登るのはダメなんですよ」
「あーお!」
「わかりました。助けますけど、もう網戸に登るのはやめてくださいね」
網目から爪をはずして抱きかかえる。
あらためて観察してみると、網戸には大きな穴が開いていた。
「あー! 何ですか、これ!」
僕が言うと、うちの猫は、
「ち、違う。知らない」
という顔で体を縮みこませていた。
まあ、夏になる前に一度、網戸の張替えはしなければならないと思っていたところだ。
ちょうどいいといえばちょうどいい。
網戸をはずして家の裏に向かう。作業ができるくらいのスペースを探して、網戸を地面に置いた。
うちの猫も気になるのかついてきていた。
「いいですか? 網戸の張替えは意外と簡単です。猫でもできるので覚えておいてください」
まず、網とパテをホームセンターで買ってくる。
網戸の網の周りは、ぐるりと溝が囲っている。その溝にはパテが埋め込まれている。
パテと一緒に埋め込むことで、網を溝に固定する。だいたいの網戸はそういうつくりになっている。
網戸の溝に埋まっている古いパテをほじくりかえして、網を外す。新しいものに取り替える。そして、新しい網を巻き込みながらパテを溝に埋めていく。
これで完成だ。
細い溝にしっかり埋めなければならないので、最後の工程がちょっとやっかいだけど、パテを溝に埋めるための器具もあるからそれを使えばいい。
「ね、面倒くさいだけで、作業は簡単なのです」
そう言って、うちの猫は何をしているのだろうと見ると、新しい網の上に乗っかっていた。作業に集中していて気づかなかった。
目を細めて、完全に落ち着いてしまっている。
「そういうのはやめてくださいよ……。網がまたダメになっちゃいますよ……」
僕が持ち上げて移動させると、「何よ!」という顔で見つめられた。
「カーテンなら丈夫だし、もうぼろぼろだし、登ってもいいんですけど、網戸は本当にやめてくださいね。すぐにダメになっちゃいますから」
地面に降ろすと、聞いているのか聞いていないのか、うちの猫は遠くを見つめていた。
――本当に、もう!
ため息をついたものの、このときの僕はまだ知らなかった。うちの猫が僕の話をまったく何も聞いていなかったということを――。
なんかいつもと違う、特別なことをしてみたいと思って前後編にしてみました!
分けたわりに、いつもどおり短いです!




