台風の日は甘えたい
トコトコとうちの猫が走ってくる。
僕の前でピタッと止まる。
「フウーン」
毛繕いをして、時々チラッと見上げてくる。
「何ですか? あ、あれ。ビニールが欲しいんですか?」
仕方ないですねえと、こういうときのために用意してあるビニール袋を、うちの猫の前に広げる。
うちの猫は目を細めて、少しだけ舌を出してビニール袋を舐める。
ーー本当にやめて欲しいんですけどね……。でもこんなに気に入るものってほとんどないし……。ネズミよりも気に入ってますよね? ソファーで爪研ぎするのと同じくらい好きなのかもしれない……。
少しすると、ビニール袋を舐めるのをやめる。
落ち着いているように見せかけて、ものすごい音で喉を鳴らしている。
うちの猫なりにテンションが上がっているようだ。
そして僕を見つめる。
ゴロゴロ……!
ーー何? どうしたいんですか……?
うちの猫はうつむきながら僕に近づくと、頭突きをしてきた。
「えへへ。そんなところに頭があると、撫でちゃいますよ!」
ゴロゴロ……!
おでこを撫でていると、うちの猫が僕の手にグイグイと頭を押しつけてくる。
「あら、撫でていいんですね! こんなに積極的なことはめったにないですね!」
撫でていると、僕のテンションも上がってくる。
おでこだけでなく、首まで撫でまわす。
すると突然、カッと僕の手を噛む真似をして、うちの猫が逃げていく。
手の届かないところまでいくと、「なんなのよ! 本当にもう!」という顔で必死に毛繕いを始める。
「いや、なんなんですか。急に……」
その後も、毛繕い、ビニール、頭突き、噛む真似、と同じことを繰り返す。
ーーなんか落ち着きがないというか、いつもと違いますよね。やっぱり台風のせいでしょうか? こういうの動物は敏感だって言いますし。
窓の外は暗い。
風も吹いている。
台風らしい天気だ。
僕の住んでいる地域は直撃はしなかったけれど、天気の悪い日が続いている。
ーー人間でも不安になりますし、猫も不安ですよね。
と手を伸ばすと、カッと噛む真似をして走り去っていくのだった。
***
僕がパソコンを触っていると、うちの猫が首を低くして、近づいてくる。
そっと机に乗って、じわっとキーボードの上を歩く。
ノロノロと動いて、全然キーボードから降りてくれない。
「ううん、邪魔ですよー。もう」
途中で、何か思いついたという顔をして、立ち止まる。
僕にお尻を見せる位置だ。
ピンとシッポを立てて、動かなくなる。
「もう。おしり!」
ペチンとお尻を叩くと「なんでよ!」という顔でトコトコと移動する。
そして毛繕いをしながら僕の様子をうかがう。
「いや、構って欲しがり過ぎじゃないですか。……まあそういうことなら抱っこしてあげましょうか」
と手を伸ばすと「ンニャー!」と大きく鳴いて、逃げていくのだった。
***
ーーすぐに逃げちゃいますけど、ちょっと甘えてくるようになったのは嬉しいですね。
リビングにやってきた僕は、うちの猫を見つけて声をかける。
「さあ、僕が帰ってきましたよ! 撫で撫でしましょうか!」
うちの猫は一瞬僕を見て、そのまま自然に視線を移動させる。
そして自然な動きでリビングを出ていった。
ーーえっ、反応が薄い……。
窓の外を見て、ああ、そういうことか、と納得する。
外はすっかり晴れて、台風は通りすぎてしまっていたのだった。
その後、うちの猫は前と同じ態度に戻りました……。
台風のときだけなんですね……。




